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「おい」
誰かに呼ばれた、と自覚するより早く腕を引かれた。
「いつからそこにいるんだ。
目ぇ開けたまま寝てんじゃねぇよ」
気がつけば、家のドアの前を通り過ぎていた。
足元を見れば、非常階段の目の前。
あと一歩進んでいたら、転げ落ちていたかもしれない。
いつからここにいるんだろう。
「お前いつか死ぬぞ。
自分がどこ歩いてるかぐらい、自分で見ろ」
あきれたような口調。
腕を掴んでいるのは、いつもの仏頂面。
いつもより眉間のしわが深い。
「あ、」
「あ、じゃねぇ」
「叶さんだ」
「今までどこ見てんだよ」
何を思ったのか、いきなりしあは叶にしがみついた。
予想外の行動に叶が反応できずにいると、そのまま背中に手を回して、シャツの匂いを嗅ぎ始めた。
「叶さんだ」
「なに、やってんだ、おまえ」
しあの口調がうつったのかと思うほど、うまく喋れない。
誰かに抱きつかれたのは久しぶりで。
見下ろせば、小さな頭が自分の胸の辺りにいて。
動揺した。
「叶さん、ぎゅうって、してください」
「…は?」
「一回だけ。ぎゅうって、してください」
やけに真剣にしあが言う。
顔は見えないが、声がいつもと違う。
何考えてるんだ、とか。
バカかお前は、とか。
暑苦しいとか、寝ぼけてんじゃねぇとか。
いろいろ言える事はあるはずなのに。
何でだか思いかばない。
一回だけだからな、と言って、
叶はしあの背中に腕を回した。
そして叶は、安心している自分に気がついた。