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「私、クリスマスになったら消えるんだ」
彼女はさらりと大したことでもないようにそういった。
夏が終わり、木の葉は色を変え始め、少しずつ寒くなっていく季節のことだった。
彼女のことはみんなよく知らなかった。
地元の中学生のほとんどが入学する高校でたった一人他のところから、しかも6月中旬という中途半端な時期に転校して来たからだ。
みんな彼女に興味をもってHRが終わった後質問攻めにした。
その質問に彼女はずっと
「意味ないから教えない」
と答え続けた。
どちらかと言えば可愛いと言える彼女にがなぜそんなことを言うのか。
興味を持つ者もいれば、気味悪がる者もいた。
しかし彼女が転入してから一ヶ月がたち、夏休みが始まろうとしてもなにも答えてくれない彼女に誰もが興味を持たなくなった。
明日から夏休み。
俺ははっきりいって浮かれていた。
別に彼女がいるわけでもなく、友達と遊ぶ予定があるわけではない。
ただ『何時に寝ても次の日に関係ない』ただそれが嬉しいだけだ。
朝は寝ていて、昼は本を読み、夕方は漫画を読み、夜はゲームをして、深夜にアニメを見る。
疲れれば寝て、昼過ぎに起きる。
まさに理想。
俺が今求めている生活ができる。
それだけで十分だった。
ただ、その前に終わらせなければいけない事がある。
あのやたら量があって面倒な『夏休みの宿題』を終わらせなければ理想の生活はできない。
そのためにはやっぱり、学校で勉強するのが一番だろう。
なにもなく、設備が整っていて、邪魔するやつもいない。
この教室、いやこの学校に何人夏休みの初日から学校で勉強しようと思っている人がいるだろうか。
いるわけがない。
最初の一週間で課題をすべて終わらせてしまえばあとは何もかもが自由に
「…謙吾、安仁屋謙吾!」
「はいっ」
「早く通知表を取りに来い。」
担任の笹木先生の声に我に帰った俺は今はHRの途中で通知表を渡していたのだと思い出した。
クラスのみんなから視線を感じながら席を立ち先生の前に歩いていく。
通知表に並ぶ数字は7,7,6,6,7,6…
なにも問題はない。
むしろとてもいいと言える成績だった。
「お前はもっと真面目にやればもう少しよくなってもおかしくはないんだがな」
という先生のありがたいコメントをちょうだいし、席に戻る。
クラスではヒソヒソと声を交わす音が聞こえる。
課題は適当、授業中はほとんど寝ているような人間がなぜそんなに高い成績を修めるのか。
この学校では上位何人の点数が張り出される何てことがないからみんなが知らないだけで俺はテストで割と高得点をとっているのだ。
それを知らずに金を渡しただの親がどうのこうのいっている連中に哀れみを感じつつ優越感に浸っていると
「三七番」
「はい」
一瞬で教室が静かになる。
名前も言わない彼女にたいして先生は出席番号で呼ぶことを決めた。
それ以来彼女は『三七番』と呼ばれ続けている。
彼女が立ち上がり、先生の前に歩いていき、通知表を受け取り、また歩いて自分の席に戻る。
その間は教室から全ての音が消えた。
先生は何事もなかったように
「さぁ、明日からみんなのお楽しみの夏休みだ。先生はほとんど休みなんてないけどな!」
と話を始める。
先生の話は簡潔かつ短く休みの間の注意事項をのべて終わった。
「起立」
と委員長の掛け声がかかる。
これでやっと夏休みが始まる。
俺は浮かれていた。
家に帰ってまずは宿題の確認をした。
一週間で何をいつ終わらせればいいかそれを認識しなくてはずるずるといつまでたっても終わらなくなってしまう
それが終われば次は部屋の整理だ。
朝から電源をつけっぱなしで電池の残っていないゲーム機のバッテリーとその充電器を別々の場所に鍵をかけて保管する。
本棚にも後からつけた扉の鍵をかけ、その鍵をさらに別の場所に鍵をかけて保管。
これで整理は完璧。
後は課題を終わらせるだけだ。
ふと外を見ると家の前を『三十七番』が通るのが見えた。
どうやらこの近くに住んでいるらしいがどこに家があるのか知らない。
だけれどそんなことに興味はない。
今はただ課題を終わらせることだけに集中しよう。
朝八時。
上から太陽が容赦なく俺を暖める。
学校に行けばエアコンがあるからそれまでの辛抱と思いつつもかなりきつい。
コンビニでアイスを買おうかとも思ったがそんなことをするとただでさえ少ない昼飯代がさらに減ってしまう。
歩くこと十五分。
やっと学校に着いた。
職員室で鍵を借り、教室に入ってすぐにエアコンをいれる。
閉め切っていた教室はかなり蒸し暑かった。
少ししたら冷えてきたので机に教科書やらノートやらを広げ、いざ課題をと思ったとき
隣に誰かが座った。
確か教室のドアを閉めてはいなかったかれどさすがに驚いた。
まだ夏休み初日。
しかもこんな時間から学校に来るやつなんていないと思っていたからこそここに来たのに。
ゆっくりと隣を見ると、『三十七番』がいた
思わずまじまじと見てしまった。
彼女の机は俺の隣ではなく右斜め前の少し離れたところだ。
なぜこんな所に来て俺の隣に座るのか。
大いに気になるところだがそんなことに気を引かれている場合ではない。
さっさと課題を終わらせなければいけないのだ。
気を取り直して机のノートに向かう。
十五分がたち、俺は課題を解き続け、彼女は机を見ていた。
一時間がたち、俺は英語に切り替え、彼女はまだ机を見ていた。
しばらく時間がたち、俺は飯を食い、彼女も飯を食べていた。
その後も俺は課題をやり、彼女は机を見ながらもじもじとしていた。
日が暮れ、空が少し紅くなった頃。
俺は課題に区切りをつけ、帰る支度を始めた。
彼女はその間も机を見ながらもじもじとしていた。
彼女に自分は帰るから教室の鍵を閉めてくれと伝え、学校を後にする。
結局彼女がなぜ学校に来て俺のとなりに座ったのかはわからずじまいだった
次の日も、また次の日も、そのまた次の日も。
彼女は静かに俺の横でもじもじとしているだけだった。
課題をやるわけではなく、何をすることもなかった。
課題をやり始めて五日目。
昼前に読書感想文と作文以外の課題がすべて終わった。
せっかくなので昼飯を食べてから帰ることにする。
俺が食べ始めると彼女も食べ始める。
なんだかストーカーにあっているような感覚になる。
ここまで堂々としたストーカーと言うのも珍しいだろうけど。
きっと何か事情があって家にいたくないのだろう。
さっさと食べ終えて帰る支度をする。
今日は早いから彼女に何も言わなくてもわかってくれるだろう。
そう思って教室を出ようとすると、「帰るんですか?」と声が聞こえた。
いったいどこから聞こえてくるのか。
回りを見渡してもここにいるのは俺と彼女だけ。
しばらくするともう一度。
「帰るんですか?」
と聞こえてきた。
それでやっと彼女が俺に問いかけているのだと気がついた。
彼女の声は転校してきた最初の時以来ほとんど聞いていなかったから忘れていたがこれは彼女の声に間違いない。
「そうだよ。課題は終わったからもうここに用はないし」
いったいなんのために声をかけたのだろうか。
俺は早く帰って封印を解きたいのに。
「あなたは私になにも聞かないんですか?」
「なにも聞かないって、君がなにも答えないから聞かないんだけど?」
言ってることとやっていることが矛盾している。
それに俺は彼女が転校してきた時傍観を決め込んだのだ。
彼女に関わってやる義理はない。
「私がこの学校に転校してからあなただけです」
「なにが俺だけなんだ?」
「このクラスであなただけが私に質問をしていません」
なんと、誰に質問されたか覚えていると言うのか。
「だから、質問してください」
「質問っていってもさ、誰が聞いても三七番さんは答えないし」
「私は三七番じゃないです。私にはちゃんと名前があります。お母さんにもらった大切な名前です」
「自己紹介の時にも言わないし誰が聞いても答えなかったじゃないか」
「だから、質問してください。私の名前を聞いてください」
なんとまどろっこしい。
自分で名乗ればいいだろうに。
「わかったよ。聞けばいいんだろ、あなたの名前は何ですか」
とてもなげやりな気分でそう訊いた。
どうせ答えない、そう思って彼女を見ながら答えを待った。
すると彼女は顔をあげ、こちらを見つめながら。
「綾です。美山綾と言います。」
といった。
呆然とした。
自分からなにも言わず、誰が聞いても答えなかった彼女が俺の質問に答えた。
それだけでなく、始めて正面からまともに見た彼女はとても可愛かった。
「あ…えと、俺は安仁屋謙吾…ってもう知ってるか」
「はい。よろしくお願いします、謙吾さん」
いきなり下の名前から呼ばれた。
なんと言うかもう動揺してしまって自分が何をしていたのかしばらくわからなくなってその場に突っ立っていた。
数秒彼女と目があって彼女が首をかしげたとき、自分が何をしようとしていたか思い出した。
「あの…俺もう帰るから鍵閉めていってくれる?」
「それだけですか?」
「えっ?なにが?」
「質問です。謙吾さんはもう私に質問はないですか?」
「訊いたら答えてくれる?」
「答えます」
「じゃあ何で俺の質問には答えるの?」
「あなたはいい人だと思ったからです」
下を向いてボソッと彼女が答えた。
「いい人…?」
俺が彼女に何かしただろうか?
「あ…違います。あなたに質問させたかったからです」
「は?」
思わず声が出てしまった。
「クラスの人たちはみんな質問してくるのにあなただけ質問しないし、ここ最近ずっと隣でじっとしているだけだったのになにも聞いてこないし」
なんだろう。
彼女にとても興味がわいてきた。
もっと彼女の話を聞きたいと思った。
俺は椅子に逆に座って背もたれに肘をつき、次の質問を出した。
「じゃあ…」
俺が次々と質問し、彼女がそれに答える。
いろんなことがわかった。
まず転校の理由。
前は少し遠くの女子高にいっていたがいじめにあって中退したらしい。
そして誰の質問にも答えなかった理由。
それはいじめにあったせいで人間不振になりかけてたんだとか。
なぜ俺に質問しろなどと言ってきたかはよくわからないがそこにも色々あるんだろう。
そして一番家に近いこの高校に来た。
気がつけば日は暮れ夜が始まろうとしていた。
「さて、帰ろうか」
「そうですね。鍵は私が返しますから」
「いや、いいよ。もうそれなりに遅いし。」
「それは問題ないです。家は徒歩で十五分ぐらいですから」
「そういうわけにはいかないって。家どこなの?送るよ」
「隣です」
「へ?」
「あなたの家の隣です」
開いた口が塞がらなかった。
隣に住んでいるだって?
「えと…じゃあ一緒に帰る?」
「はい」
彼女はこくんとうなずいた。
帰りも彼女と話をしながら帰った。
今度は彼女が質問をして来ることもあったりした。
しかし小さい。
肩と肩の差が目算で五センチはある。
前を見ながら話をする彼女をこっそりと観察する。
黒い髪が風になびいている。
ほのかにいい匂いがした。
傍観者を決め込んだといってもここまで近くでまじまじと観察したことはなかった。
「あ、ちょっとよっていいですか?」
「いいけどなにか用があるの?」
彼女が立ち止まったのはコンビニの前。
まさかとは思うけど。
「晩御飯を買わないといけないので。先に帰っていいですよ」
「ちょっと待った」
コンビニに入ろうとする彼女の肩をつかむ。
「コンビニで晩飯って親は?」
「いません。今は独り暮らしをしてます」
「飯作れないの?」
「そういった経験は皆無です」
やっぱり。
「昼はともかく晩飯までコンビニはダメだろ」
「じゃあ少し離れたスーパーに」
「変わらない。」
「じゃあどうしろって言うんですか」
「飯ぐらい作ってやる」
思わずそんなことをいっていた。
家に女の子をいれたことさえないと言うのに。
いや、幼稚園ぐらいの時にあったか?
「作ってくれるんですか?!」
しかしこんな顔をされたらやっぱりごめんとは言いづらい。
「全部じゃない。少しは手伝え」
「はい!」
そんな期待に満ちた顔をされても困る。
それから彼女の足取りは軽くなったように見え、俺の足取りは確実に重くなった。
教室で食べていたのを目のはしで見ていたときも思ったけれど、なんだかハムスターみたいだ。
背も低いし。
そんなに大したものを作った覚えがないのに、彼女はご馳走だとばかりに口に料理を詰め込んでいる。
はじめは彼女も料理を手伝っていたのだけれど、危なっかしいので結局全部俺がやった。
ここまで美味しそうに食べてくれているのを見るとうれしくなってくる。
自分の分を食べつつ、彼女のおかわりをよそってやったりしていると、考えもしなかった状況に陥った。
「はぁ~ただいま~ってあら、お客さん?」
最悪だ。
いつも八時過ぎに帰ってくる母さんが帰ってきた。
「えーうんお客さん」
「おひゃまひへまふ」
「食うかしゃべるかどっちかにしろ」
「謙吾、あとではなし聞かせなさいよ?」
にこやかな顔でそういわれてしまった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「ねぇ謙吾、母さんのご飯は?」
「遅くなると思って作ってなかった」
「あら、今日は早いって言わなかった?」
「言ってないよ。そもそも俺が家出るときはまだ寝てたじゃん」
「そうだっけ?」
適当もいいところだ。
そんな母さんでも一応いい人なのだ。
父さんが単身赴任で家を出たらいきなり
「母さん明日から働くから」
といきなり言い出し、当時中学生だった俺はずいぶんと困ったものだ。
そのお陰で今は家事をほとんどこなせるようになってるわけだけど。
「それじゃあ私帰りますんで」
彼女がそういい立ち上がった。
「あら、もう帰るの?じゃあ謙吾送りなさいよ」
「いいですよ。家近いので」
「そういわずに。夏っていってももう遅いんだし」
「いいって母さん。ほんとに家近くなんだし。というかとn」
「いいから送りなさいって」
まったく。
隣だからそんな必要ないってのに。
しかし母さんがこの状況で譲るとも思えない。
「じゃいってくるよ」
「お邪魔しました」
家を出て十五秒。
彼女の家に着いた。
本当に家の隣だった。
「きょうはありがとうございました」
「いやいいって」
なんだか改めて面と向かって言われると照れてしまう。
「じゃあ」
そう言って手を振りながら彼女は家に入っていった。
すぐに家に帰ると机に母さんが突っ伏していた。
「あらほんとに近かったんだ」
「だから良いっていったのに」
「いいわねぇ若いって」
「何が言いたいのさ」
「なんでもないよ。で、彼女はなんなの?」
「なにってクラスメイトさ」
それから母さんに彼女について初めて抱いた印象から今日までのことなど。
様々なことを話した。
その結果。
「あんた明日から彼女の世話しなさい」
「はぁ?!」
いきなり意味がわからないぞ。
「一人暮らしで、いつもコンビニご飯で、学校でもひとりぼっちで、そして隣の家にはいろいろできるクラスメイト。これがフラグじゃなくてなんだって言うの」
出た。
よく見れば隣にビールの空き缶が転がっている。
酔っ払うと仕事を日常に引っ張り出そうとするこの癖を辞めて欲しい。
「母さん、乙女ゲームとかそう言うのじゃないんだから。いっしょにしないでよ」
「あら、この家の最高権力者は私よ。逆らおうっての?」
これは、反抗し続けると小遣いがカットされるな、と思ってあきらめた。
こういうときは無視するのが一番だ。
酔っ払ってるしどうせ今聞いたことも言ったことも素面に戻ったら覚えていないに違いない
夏休みの課題が終わったから今日からゲーム小説漫画等々。
ついに解禁だ。
このために五日間我慢したのだ。
今日は寝ないで存分に満喫しよう。
鍵をいれた金庫の鍵を開け、本、ゲーム機、バッテリー、充電器を出す。
ゲーム機にバッテリーをいれ充電する。
充電が終わるまでは本を読む。
そして充電が終わればゲーム。
気が済んだら録画したアニメの消化。
5日ぶりの俺の娯楽はとても楽しかった。
だけどどうしても窓の外が気になる。
特に隣の家の方が。
彼女は今何をしているのだろうか。
誰もいない家で一人過ごす。
俺もにたようなものだが母さんがいる。
その違いはどれ程のものなのだろうか。
その日はどうしてもその疑問が頭に浮かんできて本やゲームに集中できなかった。
それでもやめられず寝たのは結局二時を過ぎた頃だった。
昨日までの習慣で八時に起きてしまう。
今日からはそんなに早く起きる必要はないからと二度寝を試みようとする。
それでも寝られず課題を確認する。
昨日ですべて終わったはずだが一応確認をしておこう。
そう思ってみたらプリントが見つからない。
鞄の中をひっくり返しても机を見ても見つからない。
どうやら学校においてきてしまったようだ。
そう言えばプリントを何枚か机の中にしまった覚えがあるからきっとそのときに取り損なったのだろう。
朝ご飯がまだだがあまり腹も減っていない。
腹を減らすついでに学校まで歩いて行こう。
幸い今日は少し雲が出ていて六月くらいの暑さだったのでちょうど良かった。
腹が減ったときのために適当に机の上の財布をつかんで家を出る。
夏休みでも学校に用があるときは制服を着ていかないといけないのは何ともめんどうだけど、それはそれで良いと思う。
学校に行くならとりあえずこれを着ていけばいいのだから。
それに私服でも良いようにしたら生徒じゃない人が入り込むかもしれないし。
家を出たときにふと隣の家を見る。
彼女は今朝もまた菓子パンとかなのだろうか。
そう考えてから
「重傷だな」
とつぶやく。
気持ちを振り切るようにして学校の方へ走り出す。
六月の気温といっても走れば汗が出る。
学校に着く頃には汗が流れていた。
いつも通り職員室で鍵を、と思ったらそこに鍵はなかった。
珍しいこともあるもんだと教室に向かってみると、彼女が昨日までと同じ場所に座っていた。
何もせず、机をじっと見て、ただいすに座っていた。
驚きつつも彼女に近づく。
目の前までいくと彼女がふっと顔を上げた。
「謙吾さんおはようございます。今日は遅いんですね」
「何で今日も来てるの?」
「それは…寂しかったので。今日もここに来れば謙吾さんとお話しできるかなって思って」
「そうなんだ。ごめんね。昨日で課題は終わっちゃったからもうここには来ないよ」
「そうですか。残念です」
彼女は本当に残念そうな顔でいった。
そのとき。
ぐうぅぅーーー
何とも恥ずかしいことに俺の腹が鳴ってしまった。
「あ…」
「朝ご飯まだなんですか?」
「うん。起きてすぐに来たから」
「そうなんですか。朝ご飯はぬいちゃだめですよ」
彼女がそう言ってすぐ
ぐうぅぅーーー
「あ」
今度は彼女の腹が鳴ったようだ。
「ぷっくくく」
「ふふふふふ」
俺たちは笑い会った。
彼女の顔にさっきの残念そうな表情はなかった。
「じゃあ一緒に朝ご飯でも食べに行こうか」
「私、お金持ってませんよ」
「一食ぐらいならおごってあげるよ」
朝つかんだ財布がたまたま本などを買うように貯めていたお金が入ってるやつだったのが幸いした。
九時開店のコーヒーショップで朝食をとる。
高校生が食事を取るには少し高めだが、たまには良いだろう。
「でも、謙吾さんが来てくれて良かったです。来てくれなかったら私多分ずっとあそこにいました」
「話がしたければうちに来ればいいのに」
また俺はそんなことをいっていた。
「いいんですか?」
こんな顔されると断れない。
俺はどうやらこの子に弱いようだ。
「うん。どうせだったらうちまで来れば飯とか作ってあげるし」
「いきます!毎日いきます!」
「そっか。うれしそうで何よりだ」
こんな感じで俺は彼女の世話をすることになった。
母さんに話すと
「娘ができたみたいで良いねぇ」
なんてのんきなことをいってた。