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Dragon Sword Saga5『点と線』  作者: かがみ透
第 Ⅵ 話 勇者伝説
18/24

立ち稽古

一応、仕事のようです…

「キャーッ! 助けてー! 勇者さまあ! 」


 クレアのセリフは、真に迫っていた。


「へっへっへっ、姫は、俺のもんだぜ! 」


 悪のリーダー、カイルがクレアを引き寄せ、にやっと笑う。


 いつもの彼、そのままである。


 翌日、彼らは、台本を見ながら、または、近くでしゃがんでセリフを教える劇団員

とともに、監督の前で、立ち稽古をしていた。


「はい、そこで、旅の剣士登場! 」


 監督がケインに合図をする。


 ケイン、左手からゆっくり歩き、作り物の剣を、すらっと引き抜いた。


 それは、誰が見ても、なかなかサマになっていると言えた。


 ケイン、真面目な表情で、キッとカイルたち盗賊団を睨む。


 そして、彼のセリフであった。


「よわきをたすけ、あくをさばく、せいぎのししゃ、ジューク・フリード、

ここにさんじょー! 」


 ばたばたばたっ! 


 あまりの棒読みに、ヴァルドリューズ以外、一同倒れていた。


「あのねえ、ケインくん、この間、きみが言っていたような、自然な口調で言って

くれればいいんだよ」


 メガネをかけ直しながら、監督が起き上がる。


「はあ、わかりました」


 わかっているのかいないのか、ケインはきょとんとしていた。


 稽古は続く。


「ちっ! なかなか手強いヤツだ。こうなったら、最後の切り札だぜ。ファイヤー・

ドラゴン、カモーン! 」


 カイルが手を振り上げる。そこに、枝を骨組みにしたところに、動物の皮をつなぎ

合わせて作った、人の倍は高さのあるドラゴンが、客席からは見えないよう団員たち

に運ばれて登場する。


「つ、強い! おそるべし、ファイヤー・ドラゴン! 」


 勇者役の団員たちが、次々と倒れていく。残っているのは、ケイン演じる

ジューク・フリードのみ。


「ははははは! どーだ、ファイヤー・ドラゴンの力を思い知ったかー! 」


 カイルが、サンダガーさながらの高笑いをする。


 一行からみて、それは、似合い過ぎており、彼がとてもハマリ役であったことを

改めて知る。


「きゃあああ! 助けて、勇者さまぁー! 」


 クレアのセリフは、しばらくは、このようなものであったが、意外にうまく演じ

られていると、監督から評価された。


 そこで、ケイン、剣を構え、ずいっと進み出た。


「このわるものめー! ドラゴンもろとも、わたしのせいぎのやいばを、そのみに

うけるがいい! 」


 ばたばたばたっ。


 またしても、ひどい棒読みに、一同倒れる。


「どうして、きみはそうなんだね? 」またもや、監督からストップが入る。


 ケインは首を傾げ、少し考えてから、顔を上げた。


「セリフが恥ずかしいんです」


 マリスとカイルは、あんぐりと口を開いた。クレアはどうしたらいいかわからない。


「なんていうか、……正義感の強い勇者ほど、こんなこと言わないと思うんです」


 ますます、マリスとカイルは口を開く。


 しばらく、ケインの眼差しを見ていた監督は、「よしっ! 」と言った。


「わかった。では、ここからは、アドリブでやってみなさい」

「団長、それは、シロウトには無理なのでは……」


 劇団員たちが口々に言うが、ケインは真面目な顔でセリフを考えていた。


 マリス、カイル、クレアは、何も言わずに、顔を見合わせていた。



「ううっ! 強い! なんて強いのだ、正義のヒーロー! 」


 盗賊カイルが、倒れ、地面を這いながら、去って行く。


(確かに、わざとらしい台本ではあるな)

 そう思いながら。


「姫! 」

「勇者様! 」


 ケインとクレアは、しっかりと、手を握り合った。


「お怪我は、ありませんでしたか? 」


 ケイン、やさしげな表情で、クレアを見下ろす。


「怖かった。とても怖くてたまりませんでした」


「お可哀想に。ですが、もうご安心下さい。悪は滅びました」


「ああ、勇者様! 」


 アドリブになってからのケインは、意外にも、すらすらと、自然に喋っていた。


 主人公になりきれるのは、ある意味才能と言えたかも知れない。しかし、彼の場合

は、おそらくこのような役に限られると思われ、役者としての才能がある、とまでは

言い切れないが。

 或は、思い入れの強いものに関しては、思い込みが激しいのかも知れなかった。


「いいよー! よくなったじゃないか、ケインくん! 」


 監督の褒める声も耳に入らないように、彼は、そのまま成り切り、演技を続けて

いた。


「お城まで、お送りしましょう」


「いいえ、なりません」


 クレアが、首を横に振る。


「城に帰れば、わたくしは、もとどおり王女に。隣国には、国同士の決めた許嫁

(いいなずけ)がいるのです」


「許嫁……! 」


 ケインは、心底びっくりしているように、皆には見えた。

 話の筋はわかっているのか? と、側に控える団員が、怪訝そうに見つめている。


「ですが、わたくしは、あなたさまを、お慕いしております。お城になど戻らずに、

どうか、このまま、わたくしを連れ去って」


 クレアが、ケインを見上げる。


 二人の視線が、絡み合う。


 それを、ジューク・フリードは思い(とど)まり、王女の将来を考え、自分の

気持ちを押し殺してまでも、城へ送り届ける予定であった。


「王女っ! 」


 ケインがクレアの肩を、両手でガシッと掴み、真面目な表情のまま、口を開いた。


「俺と一緒に行こう! どんな恐ろしい魔物からも、悪い奴等からも、必ずきみを

守ってみせる! だから、……俺と一緒に、旅に出よう! 」


「ええっ!? 」


 クレアは驚き、ただただケインを見つめている。団員たちがざわめくのを、監督

だけが、黙って制する。


「な? 一緒に行こう」

 じっと、深い青い瞳が、クレアに注がれる。


 すると、クレアは、


「……はい! 」


 二人は、手と手を取り合い、歩いて行った。


「ありゃりゃ」カイルが目を丸くする。


「ちょっと、監督さん、これじゃあ、あたしの出番は? 」


 マリスが焦って、監督に駆け寄った。


「行ってよし」

「行ってよし……って」


 マリスは二の句が告げなかったが、気を取り直し、ケインとクレアの前に、立ち

塞がった。


「さあ、姫、私と一緒に、城へ戻るのです」


「ああ、王子様! 」


 マリスを見たクレアが、感激ではない声を上げる。


「勇者よ、どうしても、その姫と添い遂げたければ、この私と勝負するがいい」


 はっとしたように、クレアは、マリスとケインとを見上げた。


 ケインは、じっとマリスを見つめる。


「おやめ下さい、勇者様。あの王子様は、とてもお強いのです。加えて、傍若無人な

乱暴者なのです。あのような方に歯向かっては、命がいくつあっても足りませんわ! 」


 クレアは、本気で、ケイン演じるジューク・フリードの身を案じていた。


 役に成り切っているとはいえ、アドリブでそこまで言えたのは才能か、はたまた、

現実が身に染みているのか。


 ケインは、じっと黙っていたが、ふっと笑う。


「受けて立ってやる。王子よ、覚悟しろ! 」


 彼は、作り物の剣を、マリスに構えた。


 マリスは、この方が出番も増え、自分もアクションができるので、面白いと思った。


 しばらく、偽物の剣で戦い続ける二人であった。


「いやいや、なかなか、それも面白いっ! 」


 監督は、拍手をしてから、演技を中断させた。


「すみません、つい……。でも、内容的には、台本通り、勇者は最後、ひとりに

なった方がいいと思いました」


 ケインが真面目な顔で、頭を下げた。


 またしても、白い騎士団一同、無反応はヴァルドリューズ以外は、何か言いたげに、

ケインを見つめていた。


「まったく、ケインてば、バッカじゃないのー? 」


 こっそりヴァルドリューズの髪の中から顔を覗かせたミュミュが、腹を抱えて、

笑い転げていた。


「監督さんも、今回は、ストーリー性や演技力よりも、本物のアクションをウリに

したいみたいだしね。まあ、本番、ケインが、アドリブで変なこと言い出しても、

あたしが、うまくバトルに持っていくわよ」


 マリスが、こっそり、ミュミュに言った。彼女は、暴れるチャンスが出来て、

ウキウキとしていた。



 円形状のテントの中、その奥に舞台があり、幕が閉まっている。その幕の脇から、

マリスは、こっそり観客側を覗いてみた。髪の中からは、ミュミュも顔を覗かせる。

出番の遅いマリスと、ミュミュは一緒にいるようにしていた。


 地面に座っている者たちの後ろに、立ち見の者も列を作っていた。


 町民や、休憩中の商人、通りすがりの旅人らしきものたちで、埋まっていたが、

次々と、入場者が来る様子である。


 博打屋など、夜がメインの娯楽場が始まるまでは、昼間の娯楽である旅の一座に、

人々の楽しみは集中した。


「これなら、ギャラの心配はいらないわね」

 マリスの心配は、あくまでも、それだけである。


「マリス、どうかしら? 」


 ピンク色の、王女の衣装を着たクレアが、恥ずかしそうにマリスを見ていた。


 洗練された文化を誇るベアトリクスという先進国の王女であったマリスからすれば、

田舎の姫君の着る、ひらひらのフリルばかりを強調した、腰のところから急激に広が

るそのドレスは、実際のドレスよりもチャチで、大袈裟な作りであり、彼女の美的

センスからは納得のいかないものではあったが、観客のように、少し離れたところ

から見れば、豪華絢爛な王女の衣装と認識されることには、違いない。


 着ている本人であるクレアには、質素でも、質の良い豪華な絹やレースをあしらい、

身体の線をもう少し出したドレスの方が、ずっと彼女の美しさを引き出せることだろ

うと、マリスは想像した。


「綺麗よ、クレア。本当の、お姫様みたい」


 そのようなドレスでも、彼女の美しさがカバーしていたので、決して、まったくの

お世辞というつもりもなく、マリスは言った。


「本当? よかった。マリスの王子様の格好も、素敵よ」


 彼女は、嬉しそうに、頬を染めるが、マリスは、ただいつもの白い甲冑姿なだけで

あった。


 舞台裏に二人が行くと、カイルがいた。


「な、どうだ? カンジ出てるだろー? 」


 金髪のストレート・ヘアを後ろで一つに束ね、黒い大きな帽子を被ったカイルは、

上半身は肌に直接、前の開いた短い黒い上着をはおり、じゃらじゃらと装飾品をつけ、

片方の目には、黒い大きな丸い眼帯をしていた。


 その下の頬には、バツ印の、切り傷のメイクがしてある。盗賊団の首領さながらで

あった。


「すごーい! 似合ってるじゃないの、カイル! ホントの野盗よりも強そう! 」

「だろー? 」


 マリスとカイルがはしゃいでいる横で、クレアは「こわい」と怯えていた。


 そこへ、ケインが現れた。


 彼の衣装は、赤いチュニックに赤いズボン、白いロングブーツに、肩には白い

肩当て(ショルダーガード)、そして、赤いマントであった。


 マリスは、くらくらとめまいを覚えた。ミュミュも、あんぐりと口を開けている。


「そんな勇者いねえよ! 」


 カイルも、驚きを隠せず、思わず言っていた。


「えっ? そうか? 俺は、『赤』であれば満足なんだけど? 」


 ブルーやその他の勇者も、その色違いなだけである。


 それも、予算が少なく、皮の衣装の上から染めてあるのだが、あまり良い染料を

使えなかったのか、ケインの赤はくすんでいて、正確には臙脂(えんじ)色であったし、

その他も、特に、イエローなどは、染料が足りなかったのか、まだらに皮の茶色が

見え、イエローとわかる者はいないのではないかというほどだ。かろうじて、マント

が、イエローに近かっただけである。


「盗賊やお姫様の衣装は、遠目から見ればそれなりなのに、……勇者の衣装には、

気を配んなかったのかしら。戦う前からボロボロじゃないの……」


 マリスは、こっそり、クレアに言い、クレアも目を見開いているのみであったが、

ケインはボーッと宙を見上げ、「ああ、この晴れ姿、レオンにも見せてやりたかった」

と。


 本当に、赤色らしきものが着られれば、良いらしかった。



 公演は、既に始まっている。


 クレア演じる王女が、馬車で出かけたところ、カイル率いる盗賊団の一味に誘拐

される。


「放してー! 誰か、助けてー! 」


 クレアが賊役のひとりに掴まった。


「ひ、姫様ぁー! 」

「おのれ、姫様を放せ! 」


 三人の護衛は、賊に怪我を負わされ、這いつくばりながら叫ぶ。


 本来、一国の王女が、城の外に出る時は、このような少人数の護衛では済まされ

ないものだった。


(ま、お芝居だし、王女が誘拐されなければ、お話にもならないものね)


 マリスは、監督には、何も言わないでおいたのだった。


「お頭、今日は、大捕り物でしたぜ。なんと、この国の王女ですぜ! 」

「なにぃ? 王女だとぅ? 」


 盗賊団の宴の場で、王女を連れた賊がやってくる。


 首領のカイルが、ギロッと、片方しかない目を光らせる。


 カイルは、このような悪役が、なぜか非常にリアルに演じられていた。


「放して! 放して下さい! 」


 クレアが両手を後ろで縛られ、首領の前に、突き出される。


 カイルは、目の前に(ひざまず)かされているクレアの顔を、くいっと持ち上げた。


「王女か。しかも、こんだけの上玉なら、高く売れるぜ。いや、待てよ。それよりも、

国王に、多額の身の代金を要求した方が、儲かるな。なにしろ、ヤツにとっちゃあ、

この世で、ただひとりの愛娘だからな。なあ、野郎ども! 」


「おおっ! それは名案ですな、お頭! 」

「さすが、お頭だぜ! 」


 盗賊たちは、やんやと宴を続ける。舞台の端では、王女が、しくしくと泣いていた。


 場面変わって、城となる。慌ただしい様子である。


「王様! 門番が、このようなものを……! 」


 家臣役の中年の男が、巻き紙を手に、血相を抱え、王へと跪いた。


 舞台上手にある、豪華な椅子に、どっかりと腰かけているヴァルドリューズは、

ふさふさの動物の毛に縁取られた赤いマントをはおり、金色の王冠を被っている。


 家臣が、巻き紙の内容を読み上げ、王女誘拐と、莫大な身の代金の要求に、その場

にいた他の家臣や、女官たちが驚愕し、王女の身を案じて、おろおろしたり、騒いだ

りしていた。


 そのような中で、ヴァルドリューズは、いつもの無表情のままであった。


「皆の者、落ち着くのだ! 」


 彼の吹き替えが、声を張り上げる。だが、ヴァルドリューズ自身は、表情はおろか、

口を開きもしない。当初の条件通り、本当に、ただ座っているだけであった。


(あんたもさあ、もうちょっと、融通きかせてあげてもいいんじゃなくて? )


 マリスは、ちらっと思った。


「ただちにふれを出し、国中の勇者たちを集めるのだ! 」

「ははあ! 」


 家臣たちは、大忙しであった。


 ヴァルドリューズの出番は、半分終わる。


「我こそは、偉大な勇者なり! 」

「我こそは、数多(あまた)なる冒険をしてきた、本物の勇者である! 」


 例のカラフルな勇者役たちが、わらわらと舞台に現れた。


 一行は、「こんなこと、普通言うかぁ? 」と思っていたのだが、監督が言うに、

このような芝居では、セリフは少々わざとらしいくらいでちょうどいいのだと、

そうでなければ、観客は理解できない、ということであった。


「盗賊団め! 姫君を返せ! 」


 盗賊団アジトに辿り着いた勇者四人ーー青、緑、黄色、ピンク(演じているのは

全員男性だった)の衣装に、皆、ケインと同じ白いマフラー、ショルダー・ガード、

ブーツ、マントであるーーが、わあわあ言う。


 カイル率いる盗賊団と、勇者たちとの戦闘が始まった。


 劇団員は武術の経験がほとんどなかったため、バトルシーンとはいうものの、踊り

に近かった。


 彼らは、ひらひらとマントをはためかせ、華麗な動きで、時折、盗賊と、剣を

交える。


 中でも、現役の傭兵であるカイルは、剣を交えるところでは手加減し、あとは、

彼らと同じように、ひらひらと踊っていた。

 それも、彼の素晴らしい順応性と言えた。


「勇者様、助けてー! 」


 ロープでぐるぐる巻きにされたクレアの仕事は、舞台の隅で、座り込み、泣いて

いるか、そのように叫んでいるかであった。


「どうだ、まいったか! はーっははは! 」


「ううっ! こんなことで、正義の味方が負けてたまるかー! 」


 悪の首領カイルに踏み付けられた勇者ブルーが、悔し気に、そう叫んだところだっ

た。


 ジャラン〜


 舞台袖では、数人の楽団が、吟遊詩人によく使われている木製の弦楽器を、奏でて

いる。それをバックに、難しい顔をしたケインが、ゆっくりと登場した。


「なんでえ、貴様は! 」

「てめえも、姫を助けに来た勇者のひとりか!? 」


「正義の風が、俺を呼ぶ。悪の匂いのするところに、俺はゆく」

 腰に差した剣を、天に向かい、引き抜く。


「弱気を助け、悪を裁く。人呼んで、正義の使者ジューク・フリード! 」


 彼は、マントを(ひるがえ)し、剣を下ろし、盗賊団に向かい、構えた。


「レッドだ! さすらいのレッド隊長が来てくれた! 」

「これで、俺たち『五勇者団』は、無敵だぜー! 」

 勇者たちは、意気揚々と騒ぎ出す。


 ちなみに、台本は、公演までには、何度か書き直されている。


「おのれ、生意気な! 野郎ども! 勇者どもに、もう一度、我々悪の力を思い知ら

せるのだー! 」


 カイルのかけ声で、盗賊団と勇者団の戦いが再開される。


 ブルー、イエローなどの勇者たちと、盗賊団は、舞台の上をひらひら舞う。それを

バックに、大将同士であるカイルとケインの剣術が披露される。


 観客席からは、興奮する声も上がって来ており、舞台裏で待つマリスと、観客側

からこっそり覗いているミュミュも、わくわくしてきた。


「おのれ、なかなか手強い奴等だ。こうなったら、切り札だ。ファイヤー・ドラゴン、

カモーン! 」


 カイルの合図で、作り物の巨大ドラゴンが、のろのろと登場した。上手から現れた

ドラゴンを、反対側の下手の舞台袖から、数人がロープで引っ張り、定位置で止めた。


 ドラゴンが、口から炎を吐き出す場面では、赤い布をはためかした黒子が出て行く。

棒にくくり付けたあかい横断幕を手にし、彼らが出番を待っていた時であった。


 ぐらーっと、ドラゴンが傾いたかと思うと、


 どっしゃーん! 


 ハリボテの巨大ドラゴンは、何かのはずみで倒れ、壊れてしまったのだった! 


 壇上は当然、客席でも、どよめきが起こる。


 盗賊団の切り札である、巨大ドラゴンの登場によって、物語は、これから大いに

盛り上がろうというところであった。


 手強いドラゴンを、ケイン扮するレッドがやっつけるからこそ、王女とのロマンス

も盛り上がる。


 静まり返った舞台では、困惑が伺える。


 団員も硬直し、ケインに注目した。


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