少女Aと少女Bは友達になった!
「はぁはぁ……」
フィリの息が上がるったころ、ようやく屋上まで逃げ込めた。後は鍵を閉めてしまうだけで身の安息は約束される。さすがにノンストップで二回駆け上がって疲れたので、俺とフィリはベンチに腰かけた。
「ここまで逃げてくればもう大丈夫だろう。まったくお祭り好きも程々にしてほしいぜ」
「……でも、みんないい人に見えた」
「当然だ。学校一のクラスだと思ってる」
――俺が楽しく学校生活を遅れているのも、あいつらの明るい雰囲気のおかげだ。だから、フィリも少しずつ慣れていってほしいな。
「さて、持ってきたパンでも分けて食べるか」
「うん。もう限界……」
――全力で逃げてきたから、ますます空腹になってるみたいだな……なんて事を考えていたから、後ろに誰かいるのは気づいても、誰かまでは分からなかった
「私も混ぜてもらえるかしら?」
「どうぞ、茜さん」
「ありがとう、フィリスさん」
――はい? フィリ、今茜って言いましたか?
振り返ると、そこには茜が立っていた。
「な、なんでこんなところにいるんだよ!」
茜の事だ。俺に詰問しにきたといわれてもおかしくない……鉄拳制裁の方が正しいかもしれないが。
「別に。ほら、フィリスちゃんが来たから、うちのクラスも浮き足立ってるのよ。教室がうるさいから屋上に避難してたのよ……って、なんでそんなに身構えてるのよ?」
「いや、だってお前怒ってるんだろ? 俺がフィリと同居していることについて」
少なくとも、俺とフィリとの同居を心良く思っていないのは確かだろう。
「なんだ、そのこと。まあ、納得は言ってないわよ、……うらやましいぐらいだけど。でも小百合叔母さんとも話して、それでも一緒に過ごしてるんでしょ? だったら、私が言えることは何もないわ。」
「ふーん。それでいいのか?」
なんか一部小声で聞き取れないかったけど、文句はないらしい。
「ええ。……改めて自己紹介するわね。篠宮 茜よ。茜でいいわ」
「フィリス・アルティシア・ディライト。……フィリスでいい。よろしく、茜」
こうして、茜とフィリが友達になった。
「それにしても、フィリスもよく聡と一緒に暮らせるわねー。聡の事だから、あんまりおもてなし出来てないんじゃない」
お前の中の俺のイメージはなんなんだよ。
「大丈夫。充分すぎるぐらい」
「へー、家事全般でも押し付けてるのかと思ってたわ」
「俺ってそんなにイメージ悪いのかよ! これでも家事全部やってるし、出来る限りの事はやってるから!」
――何なんだ、この一方的に俺は悪い奴っていうイメージは?
「だって、お風呂覗いたっていうし、この前なんかR指定の――」
「それは龍平の陰謀だっ! 少なくとも、俺はそんな物は知らない!」
――あの野郎、勝手に俺の部屋に変な物もちこみやがったな。よし、放課後私刑!
「でも、家事はフィリスにも手伝ってもらった方がいいんじゃないの?」
「……勉強中」
「ノーコメントで」
現在洗濯機の使い方は習得(3回に1度漂白剤と洗剤を間違える。ちなみに、予備に買っておいた弱アルカリ性系洗剤は、塩素系洗剤と混ぜられる前に撤収した)、掃除機や料理に関してはもう少し勉強の必要がある(特に料理)。
「まあ、今度私が教えてあげるっ!」
微笑んで言う茜を見ながら、俺は頭から血の気が引いてきた。あ、あの料理を人に食べさせた場合、災害が発生する。何としてでも止める必要があるな。
「そ、その話は置いておいて、今度の土曜日に三人で出かけないか? 親睦を深めるために」
「あら、聡にしてはいい考えね。楽しみにしてるわ」
「了解。さて、昼休みが終わる前にとっとと昼飯食べようぜ」
俺の横で盛大に腹の虫が鳴って、三人で笑った。
――放課後――
「さて、帰るかフィリ」
「ちょっと待ってください」
帰ろうとする俺を東城が引き止める。
「藤原君、SHRで先生の仰っていた事を聞いていなかったんですか?」
「何か言ってたっけ?」
俺の返答に委員長はややあきれて嘆息した。
「再来月にある文化祭の連絡があるから、委員長と副委員長は生徒会しつに来るように、と言っていまから帰らないでください」
「へーい」
まだ帰れないのか。さっさと終わらないかなぁ。
「フィリ、鍵は?」
「持ってない。小百合が”二人で仲よく帰ってくればいいんじゃな~い?”って笑顔で言ってた」
――叔母さん、完全にこの状況を面白がってるんだろうな。
「役員会なんていつ終わるのか分からないから、先に帰ってくれ。あ、これ鍵な。場所はわかるか?」
「うん」
「じゃあ、また後でな……っと、そうだ、龍平」
面白いことを思いついたので、龍平を呼び寄せる。いつものお決まりパターンでもある。
「なんだ、聡太朗?」
「龍平、お前がまだフィリにとの面識がなかったとしよう」
「ふむふむ」
「もし、フィリが道に迷っていたり、気分が悪そうにしていたら、どうする?」
ここで普通の人なら、何も起こらない。しかし、フィリの容貌を考えると――
「当然、お持ち帰りした後、丁重なおもてなしをするっ‼」
「……とまあ、こうなる可能性があるので、道が分からなくなったら、住所をナビで探してくれ。間違ってもこんな輩に引っかかんないでくれ」
「わかった」
さすが龍平、見事120点を叩き出してくれた。こういう時は役にたつんだよなぁ、コイツ。ざまあみろ……と思いたかったのだが、泣きはじめた龍平を見て若干反省する。今後もやっていくだろうけど。
「じゃあ、聡、バイバイ」
「おう、後でな」
いまだに泣き崩れている龍平は無視して、俺は生徒会室に向かった。