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少年のクラスメイトは……

 SHLが終わるが否や、クラス中の人間が俺の席の後ろに群がってきた。このクラス、龍平を筆頭にやかましいメンツが山ほどいるのだ。しかも、それは男子に限ったことではないっていう事がこのクラスの異常さを示している。基本的にはいい奴等なんだが、今はその性質が俺にとっての災いでしかない。


「フィリスちゃん、どっから来たの?」

「外国人? 綺麗な瞳だねー」

「バッカ、お前どこ見てんだよ! まず見張るべきは、このつややかな金髪だろ!?」

「彼氏いる? いないなら、俺が立候補一号ってことで」

「あーもー、うるさいわよ男子ども。少しは落ち着きなさいよ」

「ねぇねぇ、フィリスちゃんは何が好きなの~? 今度みんなで遊ぼうよ~」


 --本当、どうしてこうなった? 今朝、叔母さんとフィリの三人で朝食を取って、フィリと自分の分の昼飯を作って(小百合叔母さんは朝早く出掛けた為作っていない)、普通に学校に来ただけなのに。少なくとも、小百合叔母さんが手配しているのは明らかだ。でなければ同じクラスで席も俺の後ろ何ていう状況は生まれない。

 フィリもフィリで質問攻めで大変そうだけど、助け船を出すどころかミイラ取りがミイラになるのが関の山だ。だから後ろは振り返らない!


「……………………」


 後ろからの突き刺さるような視線は気のせいだ。見えないし、何も知らない。


「あー! フィリスちゃんが藤原君を見つめてる~!」

「何! キサマ、いつ旗を立てた!? 最早段階などいらんと言うのか!!」


 ――龍平、俺達親友だよな? 今そんな事言われたら……


「よし、皆のもの。判決は?」


『死刑!!!!』


「ちょ、お前等、団結早す……」


「俺に続け~」


『おお~』


「ぎゃ~!?」


 龍平を筆頭に俺を担ぎ上げられ、教室の扉まで運ばれたその時、


 ――目の前に仁王立ちの阿修羅が立ち塞がっていた――


 その阿修羅、茜は寒気がするほどニッコリと微笑んで俺を見下ろしている。


「みなさん。ちょーっとそこのバカと転校生と話しがあるから、借りてもいいですか?」


 茜さん、何やら後ろに闘気が見えるんですが! 何、俺死亡確定?

 クラスの連中もさっさと俺を引き渡して退散しやがった。結局、周囲の雰囲気がいたたまれなかったので、俺とフィリは茜の元に歩き出した。



「さて、説明してもらいましょうか。聡、なんでフィリスさんがここにいるのかしら……事と次第によっては制裁よ?」


 そんなこと言われてもこっちが聞きたいくらいだ。なんでここにフィリが来るんだよ。


「ちょ、待ってくれ、叔母さんに話をつけるから」


 幸いながらうちの担任である西山先生はSHRの短さで右に出る者がいない。まだ時間には余裕があった。

 コールが五回ぐらいしてから叔母さんとつながった。


{やっほ~、聡ちゃ~ん!  小百合叔母さんでーす!}


「叔母さん、何か俺に言ってない事がありませんか?」


{んー、無いんじゃない?}


 叔母さん……全く現状の危機感が分かってない。


「何故か家にいる筈のフィリが俺の目の前にいるんですけど!?」


{あれー、言ってなかったかしら? まあ、過ぎたことはいいわよねっ?}


 ――全くよくないです! と叫びたい気持ちを何とか抑えた(一応、携帯電話の使用は禁止されてるので、小声で話してる)。


「とにかく、何でフィリを転校させたんですか?」


{だってフィリスちゃん、聡ちゃんがいない間はすっごーく寂しそうなんだもーん。だから叔母さん、学校に転校させちゃった、あははー!}


「叔母さん、それはお節介の範疇を越えてます! 今にも茜が襲い掛かって来そうなんですがっ!」


{そうは言っても、叔母さんはこれから出張だから。これをきっかけに茜ちゃんとも仲よくしてね~。まあ、頑張ってね~……ブツッ}


 いつも通り掻き回せるだけ掻き回して、小百合叔母さんは電話を切ってしまった。しかも、茜の問題は自己責任で、そう遠回しに言われてしまった。まあ、そうするべきなのはわかっている。小百合叔母さんは優しいけど、甘くない。


「聡、叔母さんは何だって?」


「仲よくやってくれ、ってさ」


 しっかし、何でこうなるんだろうな、本当に。毎日毎日災難ばかりで、いつも心の休まる暇がない。

 ――でも、こんな毎日も嫌いじゃないんだよなぁ、俺。


「まあ、フィリの事は後で話すとして、そろそろ教室に戻ろうぜ。授業が始まっちまう」


「うん」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよー」


 こうして、フィリが俺たちの日常に加わった。……後ろから追っかけてくる幼馴染の反応からして、また一騒動ありそうだな。




 ――「そういえばフィリ、昼飯はどうしたんだ? 家に作り置きしてきたはずだけど」


「……食べちゃった。でも足りない。」


 この高燃費少女、普通に俺の二食分平らげた挙句、まだ足りないとか抜かしますか? 食費がみるみる削られていくな。


「じゃあ、案内がてら購買に行くか」


「うん」


 答えるフィリの顔はやや紅い。ここ二、三日ずっとこんな感じが続いてる。風邪でも引いてなければいいんだけど。


「おい聡太朗! さっきからフィリスちゃんと一人で話しやがって! 俺たちも混ぜろ!」


「そうだ、そうだ! 大体、聡太朗には篠宮がいるじゃないか!」


「フィリスちゃ~ん、私たちと一緒に食べようよ~」


 がやがやとうるさい連中だな、ホント。


「……聡。私は気にしない」


「わかった。じゃあ俺が適当に買って来るから、みんなと話しでもしててくれ」


「藤原君分かってるね~」


「あんまり茶化すなよ」


 うるさいクラスの連中はほっといて、俺は購買に向かった。


――まではよかったんだが、ここで問題が発生した。


「ただい……ぐはっ!?」


 教室に帰るや否や龍平に殴られ、挙句クラス中の人間に囲われてしまった。


「さて、聡太朗。これから尋問を始める」


「尋問? おいおい何言ってんだよ。俺はやましい事なんて何もしていないぞ?」


 なぜクラス中の人間から好奇の目を向けられているのか、皆目見当がつかないのだが。


「黙れ、黙れっ! 調べはついてるんだ。とっとと白状しやがれ?」


「あの、藤原君、私からも聞いていいかしら……?」


「東城?」


 何だ? 東城にも関係してる事? ますます分からん。首を傾げている俺に東城が問いかけてくる。


「藤原君、今……今、フィリスさんと同居してるんですか?」


「あ」


 東城の言葉に俺はただただ口を呆然と開けるしかなく、否定もできぬままにクラス中の人間に事実だということがバレてしまった。

 ――完全に失念していた。フィリスに口止めしとくのが先だったか!

 俺の背中に嫌な汗がわいてくる。残念ながら止める術など思いつかない。現状の最優先課題は、どうやってこの包囲網を突破するかだ。


「えー。やっぱり本当なんだ~」

「篠宮さんがいるのに、まだ美少女分が足りなかったんだ~」

「ふむふむ。藤原はハーレムルートを目指している……っと。よし、これはいい情報になりそうだ」

「藤原も大胆なんだな……寂しいなら私に言ってくれればよかったのに」

「キャー、優希大胆~!」


 面白がってる女子の方はまだなんとかなる。問題は――


「ああ、なんで聡太朗にばっかりっ!」

「お前は何人落とせば気がむむんだよ!」

「なんで藤原の周りにばっかりフラグが立ってんだよ?」

「篠宮、東城、そしてフィリスちゃんまで手籠めにしやがってっ!」

「ちょっと! 私がいつ彼の手籠めになったのよ!?」


 クラスの過半数を占める男子(+東城)だ。東城は……まあ、こういう事には固そうだし、龍平や鉄馬、秀介たちは全く引く気がない。てゆうか、冤罪が増えていくだけだ!


「フィリ、こっちに来てくれ!」


「……何?」


 栄養が足りていない所為か、どこか疲れ気味のフィリを呼んで、腕を掴む。


「逃げるぞ! これ以上騒がれてたまるかっ!」


 フィリが通ったことによって少し開けた道から全力で逃走を開始した。


「ものども、逃がすな~!」


『おおー!』


「どこの時代劇だよっ!」


 そんな台詞を吐きながら、俺とフィリは逃げ続けた。

 ――フィリの顔は見れなかったけど、笑ってくれてたらいいな。そんなことを思いつつ、俺達は走り続けた。

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