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少年は少女Aの優しさを知る! 

「聡、茜さんはいいの?」


「ああ。これ以上いられても喧嘩になるだけだし」


 ――フィリが泣きそうになってたから、無理矢理帰らせた――なんて気の利いたセリフを言えるのは、それこそ龍平の好きな世界の住人だけだろう。


「……彼女さんなのに?」


「ブッ‼」


 ――な、何を言い出しますか、この天然っ子はっ!


「あ、茜が彼女になんて、なるわけないだろ。あいつとは、ただの幼馴染だよ。少なくとも、向こうには"お節介な奴"位にしか思われてないだろうし」


――茜とは小学校以来の幼馴染だ。昔は今よりも意地っ張りで、真面目で融通が聞かない、いつも俯いている女の子だった。

自分の意志が上手く言えずに、いつも一人で教室掃除をしていた。それを見かねて手伝い始めたーー所までは良かった。茜は俺と一緒にいるのを嫌がり、まともに口を聞こうともしなかった。気を許してくれるまで一か月もかかった。

 そんな事をせずに、さっさと先生に言えばよかったのかもしれない。でもその頃の俺は”何でも自分で出来る”と、思っていたから、それをしなかった。

 結果として、打ち解けることは出来たけど、今度は俺に依存しがちになり始めた。友達が少なかったから、ある意味仕方がなかったのかも知れない。結局、俺一人では何も解決できなかった。

中学であのお節介女、榎本 恵子(えのもと けいこ)に出会ってからは少しずつ解消され始め、中学から入った空手部で才能を開花させ、今や学校のエースだ。

 正直、俺とは比べ物にならない程の成長だ、と思う。俺はまだ引きずってるから。


「フィリ、茜は正しいのかもしれない。結局俺がフィリに迷惑をかけているのかもしれない。でも、急にいなくなったりしないでくれよ。家族がいなくなったら、寂しいからさ」


 ――こんなことを言い出した理由は簡単だ。なんだかんだ言っておいて、俺はフィリとの生活が気に入っていたんだ。それは偽りのない気持ちだ。


「家族? 私が?」


「少なくとも、俺はそう思ってた。最初の日も言ったろ?」


 ――例えるなら、フィリは少々不器用な、可愛い妹かな……って、何可愛いとか考えちゃってんだよ、俺! い、妹だから、いいのか。やっぱ、恥ずっ!! 顔が茹で蛸のように熱くなってきた。何なんだよ、これ!


「聡、小百合以外の家族は?」


「いない。……両親は、両親は事故で亡くなったから」


 そう、いないのだ。小学校入学を間近に、両親は俺を残して事故で亡くなった。

 ――そういえば、まだ話してなかったか。いや、わざと言ってなかったのかもしれない。人に軽々しく話せるほど、軽い話でもないし、強くもない。


「まあ、フィリが気にする事は無いさ。実際小百合叔母さんが引き取ってくれたし、親と過ごした時間よりもこっちの生活の方が長いし」


 俺は努めて明るく言った。こんな事、フィリに言った所でなんにもならないからだ。――別に、家族がいなかった訳ではない。小百合叔母さんは優しかった。小学生のころ、親の亡くなった俺を引き取って、ここまで世話してくれた。いくら感謝しても、したりない。俺は下手な作り笑いを浮かべた。


「……聡」


――不意に、フィリが後ろから俺を抱き締めてきた。フィリの手は白くてか細く、今にも折れてしまいそうで。それでも精一杯俺をギュっと抱き締めている。


「聡、私に言ったよね、【家族だ】って。だったら、だったら無理しないで。私はここにいるから。そばにいるから。だから、一人じゃないよ」


 ――俺ってやっぱ馬鹿だ。何もわかっちゃいなかった。一人で頑張る必要なんて、なかったのに。一人で抱え込んでいた。そんな必要は、何処にもなかったのに。何が妹だ。俺の方がよっぽど子供だった。でも、無理なんてしなくてもいいんだよな、フィリ――

 今まで心の奥底に眠っていた何かがこみ上げてくる。フィリの方には振り返れなかった。こんなみっともない顔を見せたくなかったから。ただただフィリから、包まれるような優しさと温かさを感じていた。


 ――それから、数分後。ようやく落ち着いた俺は、目にあふれ出てくる物をぬぐってフィリから離れた。意識し始めると、色々とまずい気がした(具体的には、茜に殺される気がする)。


「さて、みっともない所を見せたな。もう大丈夫だ」


 ――小百合叔母さん以外にも、支えてくれる”家族”もいてくれる。それだけでも充分心が温かくなる。もう一人ではない。あの頃とは違うんだ。


「私こそ、聡の方に迷惑かけてる。料理も出来ないし、洗濯すら出来ないもの。もし迷惑でないなら、ここにいさせて」


「そんなの、気にしないさ。大体、料理が出来ないなんて慣れてるし」


 ――残念だが、小百合叔母さんはあまり料理が上手くない(よそ見してたり、他の事も一緒にしようとするからよく焦げる)。茜に関しては言葉に表せない程の恐ろしい料理だ(フィリはまだ頑張りが窺がえる)。東城は知らないけど。


「これからもよろしくな」


「こちらこそ、よろしく」


 ――こうして、茜との会合を経て、俺たちの距離はより近くなった。

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