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少女Aは少女Bと出会った!

「よっこいしょ……っと、これだけ買っとけば、一週間は持つだろう」


 ――教室を出てから一時間弱程経過した頃、俺は最寄りのスーパーで食糧を買い終えた。この店は品揃えもいいし、値段もそこそこだ。唯一の欠点と言えば、学校の反対側に位置するので、時間が掛かる点だろう。


「しかし、重い。何㎏あるんだよ?」


 俺一人なら一ヶ月は持つであろう食料を手に、俺は嘆息した。自転車は持ってきたが、籠に入りきらないので歩いている。正直お荷物だ。


「聡、なにしてんの?」


 不意にそんな声が後ろから掛けられた。声を掛けてきた主の顔は顔は、見なくてもわかってる。


「見てわかるだろ、茜? 買い出しだよ。そもそもお前部活はどうしたんだよ?」


「今日は早めに終わったから、聡の家に遊びに行こうと思って」


 —―その言葉を聞いて、俺は背筋に寒気を感じた。茜さん、うちに来る、とかおっしゃりませんでしたか? それだけはご勘弁いただけませんか! もし茜と家に帰れば、確実にフィリと遭遇して大喧嘩に発展する。


「何、そんなに顔を青くして。そんなに重いの、その袋?」


「いや、そうじゃなくてだな……」


 ――大体、なんで今日に限って家に来るんだよ。 事前に言ってくれれば、フィリを隠し通せたのに。


「聡、もしかして私と一緒にいるの、嫌……?」


 茜は茜で何か変な事を言い始めた。


「そうよね……私、(うるさ)いし、がさつだからしょうがないよね。聡は大人しい子が好きなんだもんね。……こんな私なんか嫌いだよね?」


 何か変な思い込みで、スイッチが入ったようだ。こうなられると、なかなか戻ってこない。

 ――ん。ちょっと待て。


「茜、俺が大人しい子好きっていう情報はどっからきてるんだ?」


 そんな事考えた事なんてない。


「だって、聡はいつも沖田君とかに振り回されてるから、おしとやかな子がいいんじゃない、って恵子が……」


 恵子? ……ああ、あのお節介女か.


「別にそんな趣味はないぞ。てゆうか、そんな事は誰にも言ったことなんてないぞ?」


 沖田に言ったところで、冷やかされるのが関の山だろうし。……どうやらまた担がれてしまったらしい茜に、俺は嘆息する。


「茜。無理に変わる必要なんてない。そのままの茜が、可愛いと思うぜ」


「か、可愛い? 私が?」


「ああ、黒の長髪も綺麗だし、人当たりもいいからうちのクラスでも人気だ。おまけに文武両道ときた。非の打ち所がない」


 正直、学年でも上位の可愛さだ。フィリとは反対の、活発な女子として。


「……ありがとう、聡」


 らしくもなく、頬を紅潮させながら、茜が上目遣いでこちらを見てくる。


「なーに顔赤くしてんだ。行くぞ」


「うん」


 俺はなぜか上機嫌になった茜と一緒に家まで歩きだした。……フィリのことは、うん。隠し通すか。それがいい。そう自分に言い聞かせた。


 ーー30分後。


「ただいまー」


「お、おじゃまします?」


 ――さっきから落ち込んだり、喜んだり、戸惑ったりと、茜が全く落ち着いていない。心当たりは全くないんだが。体調でも悪いんだろうか?


「どうした、茜?さっきから何か様子がおかしいぞ?」


「だって、聡が今までそんな大量に食料買い込んでるの初めてだし、誰もいないのに[ただいま]なんて、今まで言ってた?」


 ギクッ!?


「そ、そうだったかなぁ~。ま、まあいい。ちょっと散らかってるから、片付けてくる。ここで待っててくれっ」


 茜を玄関に待たせて、早歩きで扉に向かう。まだなんとかなる。女物の靴は小百合叔母さんの物、で誤魔化せる。問題はフィリが二階の部屋から降りて来なければ……

 ドアノブを回し、扉を乱暴に開けた先に見えたのは――


「お帰り、聡。お腹減った」


 リビングで俺を待ちかねていたフィリだった。


ーー終わったーー




 ーー十数分後。


「つまり、このフィリスって子は小百合叔母さんが拾ってきた子で、今は聡と同居している、と」


「はい……」


 現在、仁王立ちしている茜を、正座しながら見上げてる状態である。状況の分からないフィリは首を傾げてこちらを見ている。


「あの、茜さん。何をそんなに怒っていらっしゃるのでしょうか?」


「そんな事は自分の胸に聞きなさいっ!!」


 ややヒステリックぎみの茜。一体何が気に入らなかったのだろうか?


「……やっぱり聡はそういう子が好きなのね」


 また何かつぶやいてるよ……誰かこの子止めてください。いい加減、足の痺れが辛いんですが。


「聡、大丈夫?」


「ぶっちゃけ、きついです。なんでこうなったのか、皆目見当がつかないし」


 ――小百合さん。フィリを連れてきたなら、もう少し家にいてくれてもよかったんじゃないですか? せめて、茜に納得させてからにして欲しかったです――などと思えど後の祭り。誰か収拾してください、この状況。


「あなた、何か変なことされてない? 聡はこれでも積極的なんだから。危険よ」


「おい、何デマカセ吹き込んでんだ!」


 俺が龍平と同レベル? 冗談じゃない! ……あれ、東城にも同じことを言われたっけ?


「……特に、そういう事はない」


 胸を撫で下ろす茜。


「そんなに信用ないのか、俺?」


「……前に着替え覗かれた」


「何年前だよ! 小学生の頃の話を引っ張り出すな!」


 とっくに時効になってるはずだろ? そんな昔の話。


「……それはあった」


 ”ビシッ!!”


 ――何かが崩れた気がする。


「……へぇ、それはどうして?」


 茜さん? 顔にどんどん青筋が増えてきてますよ? 


「お風呂から上がって着替えてたら、聡が入ってきた」


 ――フィリさん、それを今言う必要がありましたか? 目の前の修羅場がわからないのか!? そもそも不可抗力だから! 電気がついてなかったから、誰もいないと思ってたんですよ! まさかお着換え中だとは、露ほどにも思ってませんでした!


「聡一郎……」


「お、落着――」


「天誅ーー」


 ”グボォッ!”


 茜の拳が目にも止まらぬ速度で俺に食い込んだ。……声が出せない。


「聡、大丈夫?」


 す、少なくとも、そんな事を言える程の余裕はない。


「と、とにかく! 聡なんかと一緒にいたら、何されるかわかったもんじゃないわ! さあ、あなたも家に帰りましょう! ね?」


 俺の扱いは龍平以下かよ……。あいつよりはましだと思ってたんだけどな……


「嫌」


 しかし、フィリは譲らない。どうしても家には帰りたくないらしい。


「嫌って、あなた。まだ4日しか過ごしてないのに、そこまで聡と一緒にいたいの?」


「おい、茜」


 確かに、茜の言葉は正しい。見ず知らずの男子との同居なんて、褒められた環境ではない。フィリの事を考えれば、すぐに家に帰るべきだろう。


「……家は、嫌」


 フィリの瞳には、戸惑いや不安、怯えなどの感情が入り乱れていた。


「いいえ。いますぐ帰るべきよ。あなたは……」

「茜、やめろ。」


 茜が次の言葉を言う前に口を塞がせる。


「何よ、聡。私はこの子と聡の事を思って言ってるの」


「その件に関しては、小百合叔母さんにしっかりと聞いた後で決めるから。それからでも遅くない」


 何より、フィリを追い出すような事は、結局何の解決にもならない。


「でも、それじゃあ聡が……」


「俺がいいって言ってるんだ。何も問題ない。茜、今日は帰れ」


 これ以上話しても、話がこじれていくだけだ。


「……分かったわ。聡がそれでいいなら、今日は帰るわ。なんだか、私が悪者みたいじゃない」


 不満そうな声の割には、茜はあっさりと引いてくれた。


「じゃあ、聡。くれぐれも、問題無きように」


 そう言い残して、茜は帰って行った。……嵐が過ぎ去った、かな。


「聡」


 涙目で俺を見るフィリ。……こっちはこっちで、また一難ありそうだな。

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