少女C(委員長)との、初めての共同作業! (旗新設!)
――昼休み、それは戦場。平穏な我が高校とて例外ではなく、数分の遅れが命とりとなる激戦である。
本来、俺は弁当派なのでこの戦いには関与していないが、今日に限っては別だ。昼の分どころか、冷蔵庫の中身を全て消費してしまったために、参加を余儀なくされてしまった。
しかし、運命は残酷であった。本日の4限は英語。俺の最も嫌いな科目で、先生の言ってる事は念仏にしか聞こえない鬼の授業なのだ。週末の疲れがたまっていた俺は爆睡してしまい、授業後に先生から説教をもらった挙句、宿題まで出された。
結果として、完全にスタートダッシュに出遅れ、残り物のアンパン1個だけしか手に入れられなかった。今日び、これだけで昼食が足りる男子高校生はいないだろう。龍平にでも分けてもらうかな。
――「無理」
きっぱりと即答された。戦利品五個もあるんだから、もう少し熟考してくれてもいいような気がする。
「あのな、お前とは違ってこっちはいつもエネルギーを補充しないとな、精力が持たないんだよ」
――お前帰宅部だったよな? そんなにエネルギー、何に使うんだよ? ……と聞こうとしたが、まともな答えは返ってこない気がするからやめた。
「そんなことよりだな総一朗。最近の――」
例によって始まった龍平の話(ヒロインがどうのこうの駄弁り続ける)から顔をそむけると、一人のクラスメイトが目に映った。
――名前は東城 凪。切りそろえられた長い黒髪が似合う、学年トップの成績をもつ我がクラスの委員長だ。しかし融通が利かないので友達が少なく、一人で過ごしてることが多い。
「ほう、藤原は委員長にも目をつけたか」
「なにぃ!? キサマ、篠宮という妻がいながら、委員長にまでその毒牙にかけるか!」
『リア充爆発しろ』
「なんで茜が妻なんだよ! 別にリア充じゃねぇし! なんなんだよ、お前らの連携プレーは!」
どうも最近俺はリア充として男子連中から嫌われているらしい(女子は知らん)。身に覚えが全くないのだが。どうしてそうよばれるのか、誰か教えてくれ。
「……あまりに日常すぎて飽きたな」
龍平はこういう時はそっけない。神様、俺何か罰当たりな事しましたか?この頃ハプニング大賞が取れそうな勢いでトラブル発生してるんですけど。
そんな感じで昼休みは終わった。
――「これでSHLを終わる。号令」
「起立! 礼!」
『さようなら!』
委員長の号令で、また1日が終わる。終礼は基本的に委員長の仕事だ。委員長がいない時は副委員長である俺(龍平の推薦で無理矢理決定された)の仕事だけど、委員長は皆勤賞を目指しているから、休む事はないだろう。下手な委員会に所属するよか、俺の仕事は少なくて済みそうだ。
「聡一郎、ゲーセンにでも行かないか?」
「わりぃ、今日は無理。買い出しあるから」
龍平のゲームスキルは高く、見てるだけでも楽しめるが、フィリの食糧を確保しなければ。
「んだよ、あれか。夫人とデートか? リア充はいいね」
「誰がリア充だよ? てゆうか、しつこい」
――もし俺がリア充だったら、もう少しトラブルが少ないんじゃないだろうか?
「おい、東城、藤原。ちょっと職員室まで来てくれ。明日のLHRで使うプリントがあるから、丁合頼む」
「分かりました」
「へーい」
真面目な東城とちがって、こっちは早く帰りたいのだがしょうがない。引き受けた仕事は最後までやりきる。これ大事。
――とは言ったものの、プリントを束ねる音とホッチキスを閉じる音しか聞こえない状況で、東城と二人きりなのは正直言って気まずい。何か話題を探さねば。
「東城。何か趣味は?」
「はい?」
――いきなり何言ってんだコイツ、って顔されましたよ。東城、眼鏡の奥の瞳が笑ってないよ。
「これはナンパですか? まったくあなたはどれ程女の子を泣かせるつもりなんでしょうか」
「別に好きで泣かせてる訳じゃないよ」
ーー正直、よくわからない。好きでもないのに好きなんて言えない。相手にも失礼だし、嘘をついてまで、彼女を作りたくもない。沖田にはいい顔をされないけど。
それでも、涙を見るのは辛い。
「篠宮さんも大変でしょうね」
「茜とはお互い様だ」
「お互い様ねぇ……」
何か含みがちなためいきをこぼしながら、作業に戻る東城。
「そういえば、茜とは仲がいいのか? 今まで聞いた事なかったけど」
「ええ。一年生の時はクラスメイトでしたから。明るくて、無邪気な方ですね」
「そっか」
茜は、いつも引っ付いてくるから、友達いないのか不安だったけど、杞憂のようだ。
「またあなたは他人の心配ですか? 目の下に隈まで作って。優しさは誰か一人にしとかないと身がもちませんよ……って、何で笑ってるんですか?」
「いや、東城が俺の心配してくれたのが嬉しくてな。つい」
「なぁっ!?」
委員長はひどくせき込み始めた。風邪でも引いたのかな。
「まったく、調子が狂うわ……」
東城が眼鏡をクイッと持ち上げる。
「東城。眼鏡は取らないのか?」
「なんで取る必要があるのかしら?」
「なんだか合ってない気がするんだよ。無理してつけてます、っていう感じがする」
「まあ、、当たってますよ。家にはコンタクトもありますし。私は人に顔を晒したくありませんから」
再び作業に戻る東城。正直これがなければ、もう少しなじめると思うんだけどな
「東城」
「何ですか?」
「ほれ」
顔を挙げた東城の眼鏡を取ってみた。
――やべぇ、超可愛い。
眼鏡がないから、上目遣いで俺を見つめる東城が可愛い。
何コレ。ギャップ萌え? 俺、龍平と同レベル?
「な、何するの!? 返してくださいよ!」
俺の元へ手を伸ばすが、焦点が定まってないのか、上手く掴めない。照れて紅潮した顔もかわいい。
「ほら、東城」
そっと眼鏡を東城に返す。
「はぁ……」
東城が胸を撫で下ろす。
「なあ、東城はあんまり人前に、立ちたくないんだよな? だったら、どうして委員長になったんだ?」
「別になりたくてなったわけではありません。でも、皆さん部活等で忙しいとの事で、私がなることになったんです」
なるほど。断れなかっただけなのに、いつの間にか「委員長」で定着していたわけか。昔の茜に似てる。
「嫌なら、嫌って言う勇気も必要だぜ? もし言えなくて悩んでんなら、相談に乗るし、いつでも頼ってくれ」
トラブルの解決なら、数えきれない程してきた。もう大抵のことには驚かない。……家出少女でも来ない限り。
「……世の中の皆があなたみたいに強くないんです」
「東城が好きにすればいいさ。東城が弱いなんて思わないよ。嫌な仕事でも必死にやったんだろ? そんな事、俺には無理だ。俺は弱いよ」
基本的に、俺は出来ることはやるけど、無理な事に背伸びしてやろうとは考えない。そんな事より、自分の出来る最大限のことをやっていくことが重要だ、とも考えている。
「あ、コレで最後だ」
最後のプリントを束ねて、ホッチキスを止める。
「ほい、終了。お疲れ様」
さて、そろそろ帰らねば。腹ペコ姫のために、買い物をしなければならないのだ。
「じゃあな、東城。困った時は何時でも言ってくれ」
東城に微笑んで、俺はスーパーまで駆け出した。
――「まったく、いつもああなのかしら」
人に優しい言葉を掛けるだけの浮わついた存在。その認識を変える必要があるみたいだ。
彼はいつもその人のことを一番に考えてる。自分からくびを突っ込むこともあっても、それは道を示すだけだ。決めるのはあくまで自分自身。
篠宮さんが惚れているのにも納得がいく。あんな人とずっと一緒だったら、さぞ楽しいだろう。
「弱い所も直していけば……って、何考えてるの私!?」
こんなに誰かのことを考えているのは初めてだ。頭から、彼の笑顔が離れない。
――ダメでしょ、東城凪! 彼には篠宮さんが、付き合ってないんだったっけ? でも、彼と一緒にいたいし……
――その後、私は考えのまとまらない頭で30分程悩み続けた。