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少年は旗をたてた!

 ――十数分後、とりあえず謎の少女にテーブルの向かいに座らせて、会議することにした。


「んで、お前はなんで行き倒れてたんだ?」


 いまだ寝ぼけ眼の少女に、俺は尋ねた。


「お腹、減って……」


「んな事は分かる。なんで公園に居たんだって聞いてんだよ」


「……迷子」


 少女の言葉に、俺は嘆息する。


「迷子ねぇ……お前、何歳だよ?」


「16」


 キッパリと言い切られた。てゆうか、同い年かよ。


「携帯とお金は?」


「持ってる。電池もまだある。財布には十五万円ぐらい残ってる」


 桁が違いませんか? 何処のブルジョワだよ。


「ナビってわかるか?」


「ナビゲーションシステムの略称」



「ちなみに、持ち物は?」


「スーツケースは空き部屋に運んだ」


「ははは。そうか、そうか」


 もう、笑うしかないだろ、これ。ひとしきり笑った後、俺は大きく息を吸った。


「そんな迷子がいてたまるかっ! お前、100%家出だろっ」


 俺はテーブルをバンッ!っとたたく

 ――言ってる事と行動の矛盾が多すぎだろっ! もはやこの少女、隠す気すらないのか?


「計画的迷子」


「そんな言葉はない! それは家出としか言わないっ! 親への些細な反抗心で片付けられるレベル越えてる、叔母さん、凄いの拾ってきたな!!」


 前は子猫拾ってきたし、赤の他人の家庭教師とかもやって、終いにゃ家出少女の保護かよっ!


「小百合は悪くない。いい人」


 ――そこだけは、初めて見る、強い目だった。自分の恩人への悪口 (のつもりはなかったのだが)は、見過ごせないらしい。


「まあ、そこだけは同意だな」


 小百合叔母さんは、見ず知らずの人にも優しくて、誰よりも親身になれる人だ。今まで、あんなに優しい人、他に会ったことがない。


「……正直不安だけど、今更言ってもしょうがないか。俺は藤原 聡太郎。お前は?」


「フィリス・アルティシア・ディライト。イギリス人」


「……まあ、日本人には見えないな。名前長いから、略称でいいか?」


 フルネーム言うだけで確実に噛む自信がある(威張れる事ではないけど)。


「そうしたいのなら」


「じゃあ、フィリ。改めて、よろしくな」


 手を差し出すと、フィリは顔を陰らせた。


「どうした? こんな奴じゃダメか?」


「……聞かないの?」


「何をだ?」


「私が行き倒れてた理由」


「ああ、それか。それなら、さっき聞いただろ?」


「え?」


 フィリが不安げに俺を見つめる。


「道に迷っていた迷子を、叔母さんが拾ってきた。それだけだろ? 悪いな、変に聞きすぎた」


「……迷惑になるかもしれないよ? 君はそれでもいいの?」


「人に迷惑かけない奴なんていないさ。今まで散々叔母さんに振り回されてるからな、馴れっこだよ」


 こんなレベルの騒動は、この家じゃ日常茶飯事だ。


「まあ、強いて言うなら、一つ条件」


「何? 何でも言って。私に叶えられることなら、何でもするから!」


 テーブルから、身を乗り出してきた。てゆうか、女の子が"何でもする"なんて言わないで欲しいのだが。


「君のお願いは何?」


「その"君"って呼ぶの、禁止。他人行儀は止めようぜ、家族なんだし」


 どうやら想定外の答えだったらしい。フィリは呆けた顔で、こちらを見つめる。


「そんな事でいいの? 男の子なら、もっとして欲しい事とか、あるんじゃないの?」


「……その偏見は、一体どこで覚えてんだよ? まあ、恋愛とか、結婚とか、そういうのはあんまり興味無いからさ」


 ――正確には、よく分からない、というのが正しい。リア充になりたいわけでもないし。

 告白されたことはあっても、付き合った子はいない。好きでもない相手と付き合っても、向かう先は破局だけだろう。それは好きだと言ってくれた人に対する侮辱だ。


「じゃあ、聡。これから、よろしく」


 白くて綺麗な、か細い手で、フィリは俺の手をそっと握る。


 ――フィリの浮かべる笑顔は、初めての事に対する希望と喜びに満ちた、なんとも可愛らしい笑顔だった。




「さて、夕飯でも作るか」


「待って。今日は、私が作る」


「フィリ、料理とか出来んの?」


 ――いいとこのお嬢様っぽいのに。そう言いかけたが、止めた。


「大丈夫。問題無い」


「ふーん。じゃ頼む。食材は冷蔵庫にあると思うから、適当に使ってくれ」


「任せて」


 ああ、たのしみだなぁ。俺に妹がいたら、こんな感じなんだろうか。今度龍平にでも聞いてみるか。

 出来上がりを楽しみにして、俺は二階の部屋に引っ込んだ。



 ――一時間後――



 正直、不安はあった。フィリは見た目、お人形のように可愛いし、いいとこ育ちっぽかったから、多少は失敗するかもなぁ、なんて考えていた。

 しかし、この並べられた料理を見て、思った事は一つ。



 ――目の前に並んだ現実は、そんな俺の想像を遥かに超越していた。――



 並んでいるのは、黒い物体に包まれた何かと、青汁っぽい液体と(俺の家にある材料で、作れるような物だっけか?)、白色の野菜スープ(牛乳でも突っ込んだのか?)。


「こ……これは、また、個性的な料理を……」


「……実は、料理は初めてなの」


 爆弾発言もいいとこだ。

 ――問題無いって言ってませんでした!? それは大問題ですよ!! それとも、何でもやりたがる癖があるだけか!?


「じゃあ、いただきます」


「い、いただきます……」


 ――食えないわけじゃない。食えないわけじゃない。――


 頭の中でそう唱えながら、勇気を振り絞った結果。


「うぐっ!!」


 一口目から、俺の幻想はぶち殺された。

 ――このオムライスであろう黒色の物体、中身が酸っぱすぎる。ケチャップの代わりに、酢でも使ったのか?


「の、飲み物っ!」


 俺は緑色の液体に手を伸ばす。


「うごっ!?」


 逆に口に含んだ物が、全て出てきそうになった。 

 ――この緑色の液体、見た目は青汁なのに、確実に食材を混ぜすぎだ。間違いなく紅生姜とバナナが、口の中で喧嘩してる。

 スープは、ジャガイモが「ガリッ」って音を立てる始末。お世辞にも美味しいとは言えない。


「ううっ」


 見れば、フィリも顔色が悪い。味覚は正常らしい。


「フィ……フィリ。これ、味見したか?」


 返事など分かりきっているが、聞かずにはいれない。


「味見……? なんで? しなきゃ、ダメ?」


 首を傾げながらこちらを向くフィリを見て思った。

 歩いた道は地雷原だった。しかも、空爆つき。


「まず、これ食ってから話するか」


「うん……」


 とてつもなく重い空気の中、俺達は夕飯を食べた。唯一の救いは、量が少な目だった事だ(生ゴミの多さからして、失敗に継ぐ失敗が原因だと思われる)。

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