少女Bの決心
「ではこれより会議を始めます」
生徒会副会長の山岸先輩が、よどみない声で会議を始めた。
「今回の議題は再来月に行われる文化祭についてです。各クラスに配布したプリントを来週の月曜日のLHRで配布してください。後、例年キャンプファイヤーに参加する為に交際をしているカップルがいます。くれぐれもそのような事が起こりないように呼び掛けてください」
――ああ、そんなイベントもあったな。去年は龍平が躍起になって彼女作ろうとしてたっけ……結局出来なくて、龍平は二次元の世界に逃避していったんだよな。ああはなりたくないものだ。
「葉月会長、何か連絡はありますか?」
呼び掛けられた葉月 奏(はづき かなで)先輩がニッコリと笑う。
「いや、特にないかな。あ、個人的には、何かイベントが欲しいかなー。何か案がある人は、私に相談しに来てねー! 誰でもいいから、待ってるよっ!」
イベントは充分過ぎるぐらいあると思うんでだけど、この会長に言われると、何とか叶えてあげたくなるんだよなぁ。
成績優秀、人に見えない所での努力、人懐っこい笑顔など、人を引き付ける才能がすごい。まさに生徒の鏡といえるだろう。
「では、他に無いでしたらこれで今日の会議を終了します。お疲れ様でした」
副会長の言葉で会議が終了した。今日の会議は連絡だけだから、早く終わったようだ……プリントなら担任に渡してくれればいいと思うけど。
「東城、このプリントを西山先生に渡せば帰っていいのか?」
「ええ。……よ、よろしければ、途中まで一緒に帰ってもいいかしら?」
東城がしおらしく頼んできた。俺相手にそんな事で緊張しなくていいのに。よっぽど人と関わらない生活をしてきたんだろうか。
「ああ、いいよ」
「ちょっと聡! 私は?」
「……茜、部活は?」
「……あ」
全く、茜はたまに抜けてるから困るんだよなぁ。もう少し考えて行動してほしいものだ。
「ごめんなさいね、篠宮さん。藤原君をお借りしますね」
「べ、べべべ、別にっ! わ、私の聡って訳じゃないから! どうぞ、お好きにっ!」
なんか捨て台詞っぽい言葉を残して、茜は先に歩いて行った。もう一人の茜のクラスの代表が、一人で職員室にプリントをを運ぶ事になってしまった。悪い事ちゃったなぁ。
――私は足早に教室に向かっていた。別に、仕事が嫌な訳ではない。ただただ動揺を抑えきれなさそうだから、私は部活に逃げるように教室に向かっていたのだ。
さっきの凪さんの聡への態度が、頭から離れない。私が知っている凪さんは、男子に話しかけたり、一緒に帰りたいなんて言う人物ではなかった。むしろ、あまり人に関わらないようにしていた節があったから、昔の私に似ていると思っていた。でも、さっきの凪さんにいつもの落ち着いた雰囲気は感じられなくて、戸惑いながらも自分から声を掛けて、聡に返事をもらった時には見たこともない笑顔だった。聡に対して少なからず好感を持っているのは確かだ。
「まったく、まさか凪さんまで……」
――いつまでも、私達の距離は変わらないと思っていた。聡太郎は、恋愛になんて興味なかったから。私がデートに誘っても、聡太郎は全く気が付かないし。
いつも笑いながら私に手を差し伸べてきた男の子。初めは信用できなくて、追い払おうとした。でもいつまでも諦めてくれなくて、仕方なく少し話しかけたら、満面の笑みでこっちに話しかけてくれて。気が付けばそれが嬉しくて、聡の事しか考えられなくなっていた。
なのに、向こうは全く気付いてくれない。感謝と恋愛を間違えている、とも言われた。
確かに昔は感謝だったかもしれない。でも、そんな間違えは絶対にない。優しくて、不器用で、それでも最大限努力しようとしている聡太朗だから、私は魅かれたのだ。
それなのに、唐突にフィリスさんと同居を始めちゃうし、凪さんと仲よくし始めるし、どうしたらいいのかわからなくなってきた。
恵子には頼りたくない。これまで散々助言をもらってきたけど、全く上手くできなかったし、無理に自分を変えようとしても、マイナス効果になりかねない。
「こうなったら……」
私の中に一つの案が浮かぶ。文化祭の最後に行われるキャンプファイヤーだ。あの催しは山岸先輩が言っていたように、カップルしか参加できない。それに参加したいと言えば、いくらニブい聡でも、分かってくれるだろう。
もう小手先の案に頼っていたら、フィリスや凪さんに取られてしまうのは目に見えている。ただ振られるならまだしも、彼女がいるから付き合えない、なんて絶対に言われたくはないから。聡太郎と、誰よりも一緒にいたい。この気持ちはだれにも負けていない。その自身はある。だから自分から聡に告白して、それで全てを決めよう。
私は決心を固めた。




