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番外編という名のリハビリ文章

本文の時系列には当てはまりません。

これはあくまでリハビリのSSなので、笑って読み流してください。

 ある晴れた日の午後。

 ゴーディン王国の王宮の政務館の一室で、二人の人物が向かい合っていた。



「ナイセイ、ですか?」

「はい。ボクに足りないのはボクツエー成分だと思うのです。だけれどもこの身はか弱い女の子だから大剣を持って走り回るなんてことは出来ません。たとえ出来たとしても、誰かを傷つけるのはちょっと勘弁です」

「はぁ……」



 机の上に置かれた手をぐっと握りしめる銀髪の美少女は、堅く瞑っていた目をカッと見開き、目の前に居る黒髪の青年に視線を向ける。



「そこで、ですよ! ボクが持っている前世の記憶を使って、この国を豊かにしていく【ナ・イ・セ・イ】しか生き残る道は無いと気付いたのです!!」

「なるほど。何と戦っていらっしゃるのかは分かりませんが、とりあえず何か仕事をして役に立ちたいということでよろしいでしょうか?」



 鼻息荒く自分を見つめるこの国の嫌われ王女に、内務長官たる青年レオ・ルブラント伯爵はとても穏やかな笑顔で問いかけた。

 王女は我が意を得たりとばかりに、小動物のように首を上下に小刻みに振る。



「で、具体的にどのような知識をお持ちなのでしょうか?」

「ナ・イ・セ・イといったら、まずは小麦とか穀物の増産だよね! 上手くいけば、収穫量が2倍3倍になるらしいんだ!」

「……かなり根拠が怪しげなのですが、ではその手法とやらをお教えいただけますか?」

「ふふふふ、聞いて驚かないでよ? 小麦とかを同じ畑で作り続けると収穫量が減るんだよ!!! これはボクのいた世界では常識!! だから、畑を4つ位に分けて、小麦を作る畑と……、なんか他の作物を作る畑と、お休みをする畑に分けてローテーションさせる、輪作? だったか、そんなやり方があるんだよ!」



 驚いたかと言わんばかりの王女の笑顔に、少しだけめまいを覚えたレオ。

 同じ土壌で同種の作物を作ると、年々収穫量が減っていく。

 これを連作障害といい、作る作物の種類によってはその周期も違ってくる。

 それを政務や農業に詳しくない王女が、あやふやとはいえ指摘出来るのは凄い事なのだろう。

 凄い事なのだが、そんなものは農家の人間達が一番よく分かっていることであり、当然対策も確立されている。

 レオは心の底から、農家の人たちにダイレクトにこの提案をしに行こうとした彼女を止めた衛兵を称えた。



「姫様。申し訳ありませんが、その手法はすでに確立されており、体系化も済んでおります。ですので、農業革新という訳にはいかないかと」

「なっ……なんと……。じ、じゃあ、肥料は?」

「肥料は、昔は人糞、家畜の糞などを発酵させたものを使用していたようですが、寄生虫問題で今では魔法で発酵させた腐葉土『魔肥』などを利用しております」

「へ、へぇ、い、意外とやるじゃん、農家の人」



 明らかに動揺し目線を彷徨わせる王女に、レオはどうフォローしたものかと頭をひねる。

 彼女の行動自体なんら評価するに値しないものだが、それでもこの国のためを思って何かを考える彼女の意思を、レオは貴いものだと思う。

 それがあるからこそ、忙しい時間をわざわざ割いて彼女の相手をしているわけだが。



「他に、他に何か有用な異世界の知識とやらはあるのですか?」

「あ、う、うん。そうだね……。あとは治水? 洪水とか、夏に水が足らなくなるといけないから、ため池やダムを造るのとか……」

「治水、ですか。具体的にどのようにするのですか?」

「え、えっと……こう川の両側を堤防で盛り上げて増水しても溢れないようにするとか?」

「その程度で洪水は防げるのですか? 我が国では特に河川が氾濫しやすい場所はほぼ決まっております。その辺りに村落は無く、逆に質の良い農耕地として有益であると判断しているのです。むしろ、その地域を如何に効率よく灌漑するかの方が求められる情報ではないかと」

「か、灌漑技術? ……あー、こう洪水した場所と川を堤防かなんかで仕切って早く乾かすとか? かな」

「他に何か活用出来そうなお話はありますか?」

「うっ……、え、えっと……」



 その後、涙目になった王女と心ゆくまでレオは語り合った。

 余計な事を思い付いて勝手に走り出さないように釘をさすというのが、主な目的ではあったが。

 陽もだいぶ傾いたころ、レオは抜け殻のようになった彼女の前にそっと焼き菓子と紅茶を差し出す。



「本日はとても有意義な会話をありがとうございました。姫様の異世界知識とやら、今後の国家運営の一助とさせて頂きます」

「あ、あは、あはははは。ホントすいません。調子のってすいませんでした」



 半泣きになりながら焼き菓子をリスのように囓る王女を、レオは優しい眼差しで見つめる。

 泣くまで追い詰めていながらも、彼はこの頭の悪いどうしようもなく善良な王女を愛おしく思っていた。



「姫様はもっとこの世界の事を、見聞を広めるべきかもしれませんね」



 ぽつりと呟いたレオの言葉に、頭の上に?マークを浮かべて無垢な視線をよこす王女。

 親バカ、というフレーズが一瞬自分の頭の中に浮かんだ。

 彼女がこの世界の常識を身につけるということは、ひいてはこの国の為にもなる事である。

 いずれこの娘はこの国の貴族か他国の王族と結婚しなければならないのだ。

 それまでの間に、せめて国の恥にならないように躾けるのも自分の仕事ではないだろうか。

 断じて、馬鹿な我が子を案じる親のような心境では無いのだ、とレオは心の中で誰に言うともなしに抗弁していた。


 ある穏やかな日の午後、とある政務館の一室での一幕。

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