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65話「王定裁判 その2」

 法廷の中央で、周りの貴族達の好き勝手な発言をスワジク姫はただじっと俯いて聞いているように見える。

 ふてぶてしいあの元姫が年貢の納め時となってようやく大人しくなったか、と多くの参加者は思ったに違いない。

 もちろん私も最初はそう思っていた。

 娘のアニスを庇ってくれたり、危険な場所から助けてくれたらしいのだが、どうにも以前の彼女を知る身としては納得しにくかったということもある。

 だが私は見てしまった。

 こぼれ落ちる一滴の水滴を。

 その後直ぐに顔に手をやって何やらしていたが、瞬間的に見えた目の周りが赤っぽくなっていた。

 もちろん、その涙が後悔の涙か悔し涙なのか、それとも別のものが理由なのか。

 私には分からないが、その邪気の無い瞳を見れば悪いものでは無いような気がした。

 なれば彼女の悪評は彼女自身のものでは無く、そうあった方が益があると考える者達の作り話であろうか。

 私は向かい側に座る剣聖殿を見る。

 剣聖殿もスワジク姫を見て何やら苦笑いをされている様子。

 きっとこの茶番の裁判を苦々しく思っておられるのだろう。

 昨晩はレオ殿に「お願い」をされたわけだが、この分ならあの姫に力添えしても良いのではないだろうか。

 私はそう思いながら、鼻息を荒げていかに自分たちが被害者であったかを述べる貴族達の話に耳を傾けた。






 いけない、いけない。

 あんまりに退屈で立ったまま寝てしまった。

 もしかしたら涎も落ちていたかも知れない。

 慌てて目元を擦る振りをしつつ、口元を拭う。

 あ、やっぱりちょっと濡れてた。

 僕は眠気で倒れそうになる身体を、被告台の手すりを掴む事でなんとかこらえた。

 そういえば裁判の途中だったと思い出して、今喋っている人の発言内容に注意を払う。

 ちなみに最初の議題であったラムザスの密偵疑惑はみごと有罪をもらいました。

 そら周り敵だらけだし、多数決とったら有罪になるわなと遠い目になりましたけど。

 で、今の議題が僕の処遇についてどうするかって話。

 被害の多寡で補償内容を決めるらしいので、皆さんこれでもかっていう位喋る。

 やっぱりどんだけ自分が可哀想な人かっていうアピールしておかないと損するものね。

 アピールするのはいいけど、遠回しな上に大げさに余計な事までつけて喋るので何言っているのかほんと分からなくなる。

 これはあれだ、スリープの呪文に違いない。


 と、とにかく気合い入れては来たものの、密偵の件も今までの悪行についてもこいつら僕に喋らせる気無いみたい。

 なもんだから僕は不本意ながら睡魔と戦うしかない現状。

 そして今裁判はフェイ兄が前スワジク姫の悪行を一つ一つ聞き取りし直しているみたいな感じ。

 補償内容なり僕の夜伽権が掛かっているのだ。

 皆結構必死にアピールして、レオさんがそれを無表情に記録していっているようだ。

 これ、今日中に終わるのかな……。

 ついでにフェイ兄、信じていいんだよね?

 僕、何もしなくてもいいんだよね?






 今のところ、予想通りに順調に作業は進んでいる。

 ついでに、スワジクも今のところ大人しくしてくれている。

 正直裁判中にスワジクがこちらの予想の右斜め上を行ってしまうのが一番の不安要素だったから、居眠りをしているぐらいの事は笑って許せそうだ。

 まぁ、自分の行く末が掛かっているというのに居眠り出来るその精神力には感心するが。

 


「どうだ、レオ。良い感じに過不足が出そうか?」

「ええ、言った者勝ちな雰囲気になっていますので、皆これでもかという位に盛ってきています。このまま行けばいがみ合いが始まるのも時間の問題ですね」

「トスカーナ卿はどう出てくると思う」

「スワジク姫の議題については完全に下駄をこちらに預けてきていますから、今回は無視してもいいのでは? ただこの件が終わった後、反ゴーディン派の中で唯一得をするのは彼でしょうね」

「一番追い詰めたい相手ではあったのだが、さすがに老獪だな」



 私は末席に座っているトスカーナ卿にちらりと視線を向ける。

 トスカーナ卿は、目を閉じてじっと発言者の言葉に耳を傾けているように見えた。

 もしかしたら、そう見せて寝ているだけかも知れないが。

 さて、当面の一番の相手はエフィネル侯爵である。

 トスカーナ卿ほど頭が回るとは思わないが、さりとて大貴族であるのは間違いない。

 その派閥の力は見くびっていいものでは無い。

 なんとか派閥の求心力を崩壊させなければ、結局は数の多さでスワジクの未来は閉ざされてしまう。

 幸いな事に、かの派閥の繋がりは「利益」を軸とした交わりだ。

 故に、利益を喪失させるか、利益を奪い合わせる事が出来れば、派閥全体の力としては弱くなるに違いない。

 この場合の利益とはスワジク本人なので、利益の喪失とはスワジクが死ぬか手の届かない状況に置く事。

 利益の奪い合いとは、被害の大きさに合わせての補償の多寡や夜伽権の回数になる。

 もともとが被害を受けたと称して、横流ししていたり裏金に回したりしているので、架空の被害も多く上乗せしてきている。

 実被害よりも多い被害額について、補償請求者はお互いに争い派閥内抗争にまで発展してくれるのが理想ではある。

 あとは父王の強権を発動して、スワジクを王家預かりとすれば丸く収まる。

 ……ただ、まぁ、その条件で行く場合、スワジクは私を含めた3人の王子の妾となるのだが、それは今は言わない方がいい気がする。

 兄達は基本戦好きだし、スワジクの事など眼中に無かったから、きっと大丈夫だろう……たぶん。

 まぁ、些末な事にこだわっている場合では無いので、頭を切り換えていく。

 今はどうやってあの貴族達をいがみ合わせるか。

 それが最重要課題だ。





「うはっ! せ、背筋に寒イボがっ」



 なんか急に僕の背筋に悪寒が走った。

 どうにも悪い予感しかしないんだが、気のせいだろうか。

 ほんと、フェイ兄、信じて大丈夫だよね?


短くてすいません。

とりあえずリハビリがてら、短いながらも更新させていただきました。

3月4月は更新無理なので、なんとか今月中にもう一回、短くて良いから更新したいです。

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