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02.己は不知を楽と語る

「今日はもう帰りなさい」


保健室。


体温計に記された、39度を越した僕の体温を見て先生は言った。


「そうします。入学初日からお世話になってしまってすみません」


「そんなに改まらなくていいのよ、もうここの生徒なんだから」


メガネの奥で目を伏せる。


さすがの僕にも、恥という感情はある。まさか入学式中に倒れて気を失うなんて…。


先生は少し笑い、体温計をケースにしまう。


「お家の人に連絡入れてくるから、待ってて」


「あ、はい、すみません…」


「ふふ、誤ってばっかり。肩の力抜きなさいね、裏野修守うらのしゅうまくん」


「!」


今日初めて出会った先生に、今初めて名前を呼ばれ、なんとなく黙ってしまった。


先生が保健室を出ていくのを黙って見送る。


未だクラクラする頭も、一人になれば少しは楽になった。


肩の力を落とせ、か。


今までも何度かそう言われたことはある。


僕はほとんどの規律を守っているつもりだ。集団行動は苦手だが、勉強だって人並みにはしている。


それに、自分から他人に話しかけることは多くないが、言葉づかいも気をつけてる。身だしなみも。


ただそれだけの、ごく普通のことなのに、周りはそんなに僕がカタく見えるのか?


そういう周りがユルいだけだったりするじゃないか。社会は劣化してる。


今一度真剣に考えてみたが、自分ではよくわからなかった。


それにしても、僕が気を失ってここに運ばれて、どれだけの時間が過ぎたのだろうか。


校舎内には人の声もしなければ気配も、音もない。まだ式は終えていないようだ。


「お母さん、これから迎えに来るって。帰る用意しときなさい」


澄んだ声にハッとして横を見れば、ドアの傍で先生が微笑んでいた。


「はい…有り難うごうざいます」


立ち上がり、座っていたイスから軋む音がした。


その微笑みの横を通って保健室を出れば、先生の白衣から微かに香水の匂いがした。


わざと目を合わせないようにしてその場を去り、荷物をまとめるため、僕は教室へ向かった。



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