第5話 影の案内人
街道を抜け、森を抜けると、古びた屋敷が現れた。
ピースは私の横で歩幅を合わせながらも、
どこか落ち着かない様子だ。
その目には、激しい戦いを潜り抜けてきたような、
張りつめたものがあった。
「ここか……」
私は小さくうなずき、足を止める。
深呼吸してから、二人で敷地に足を踏み入れた。
屋敷の中は、意外に整っていて静かだった。
窓から差し込む光が埃を浮かび上がらせ、
空気はひんやりとしている。
「来たか、ピース。……ラフルレッドだ。
ラルと呼んでくれ。レオンもそう呼んでいる」
声の主は、想像よりずっと落ち着いた男性だった。
ラルフレッド──
かつてのレオンの仲間で、
今は隠居して、情報屋みたいなことをやっていると
ピースが言っていた。
「ラルフレッド。貴方に会えて光栄です」
ピースがそう言うと、
ラルフレッドは私たちをじっと見つめ、
ピースに向かって軽くうなずいた。
「君の話はレオンからよく聞いていた」
ピースは言葉を返さず、ただ黙って彼を見つめる。
ラルフレッドの瞳は鋭くも優しく、
なぜかピースの決意を確かめるようだった。
「……ピース。せっかく来てくれたのにすまないが……
レオンの居場所は、俺もまだ目星が付かない。
ゼロという存在もまだ謎だらけだ」
ピースは静かにうなずく。
その瞳には、迷いや恐れはなく、
ただ前に進む決意だけがある。
ラルは静かに続ける。
「レオンとは違う形だが……
ゼロは、全人類がパーを出すことで
争いそのものを無くそうとしているらしい」
「その思想に賛同している国も出てきている。
いわゆるゼロ連合ってやつだ」
全人類がパーを出すことで、争いをなくす……。
──その理念は、
理想的すぎて現実離れしているように聞こえた。
でも、どこか心の隅で、
灰色の世界で争いのない日々を想像し、
微かな憧れが芽生えるのを抑えきれなかった。
「……世界中の人がパーだけを出すなんて……
そんなこと可能なの……?」
「わからない……ただ……俺も……
レオンのことを抜きにすれば、正直……
間違ってないと思う」
私には全ては理解できなかったけど、
理想に心を寄せるラルの瞳がどこか眩しかった。
ピースは目を閉じたまま、何も言わなかった。
その沈黙は、否定でも肯定でもなかった。
「レオンは君の幸せを常に願っていた。
復讐なんて辞めて、真っ当に生きろ」
その言葉に、ピースは一瞬、眉をひそめる。
拒絶の空気が、屋敷の静けさを震わせる。
「……ありがとうございます。
それでも……俺は、ゼロを倒してからじゃないと、
前に進めない」
ラルはため息をつき、椅子にもたれた。
「君の決意は揺るがないようだな……わかった。」
彼は静かに話を続ける。
「ゼロ連合の重要人物の所在を掴んでる。
君ならすぐに動ける場所にある」
「……えっ!?」
思わず声が出てしまった。
いつもクールなピースも、少し驚いた表情で
小さく笑っているように見えた。
その表情は少しの笑みさえも遠く、
まるで誰にも触れさせないように
心を閉ざしているようだった。
ラルは私たちを見送りながら、静かに呟いた。
「ピース。忘れるな。レオンも俺も……
君が不幸になることを望んでいない」
ピースは視線をそらさず、
胸の奥で覚悟を固めているのが伝わる。
その姿を、私はただ見守るしかない。
「……分かりました」
短い言葉だが、その中に強い決意がこもっている。
外に出ると、朝の光が森を淡く照らしていた。
ピースは足取りを崩さず、ただ前を見据えて歩く。
私はそっと、彼の腕に手を置く。
冷たい朝の風が、二人の間を通り抜ける。
彼の背中は頼もしく、同時に、
私が守らなければならない存在だと改めて思った。
理想の話を聞いたはずなのに、
ピースの背中は、さっきよりも遠く感じた。
もし、彼が間違っても、
私はちゃんと隣に立てるだろうか。
今日、私たちは少しだけ、
ゼロ連合への道を手繰り寄せた。
だが、この先に待つ戦いの大きさを、
私はまだ知らない。
ピースの決意が揺らぐことはないだろう。
私はその横顔を見つめながら、
ただそっと歩みを合わせた。
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次回:第6話 パーの街
何も奪わない街で、ピースだけが気づいてしまった“止まったもの”。




