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Scissors  作者: リコピン
3/8

第2話 姉の影

挿絵(By みてみん)


ネオンが滲む路地裏を抜けて、

私たちは歩いていた。


さっきまで震えていたはずの体が、

嘘みたいに前へ進んでいた。


頬の青あざはまだ痛む。

でも、胸の奥は妙に熱かった。


彼は無言で歩き続ける。

銀髪が街灯に映えて、まるで月光みたい。


「待って! あの……ありがとう。助かったよ」


振り向きもせず、彼は言った。


「……関係ない。去れ」


低い声。

突き放すようで、どこか疲れている。


私は、なぜか追いかけていた。


「待ってよ! 私、リナっていうの。あなたは?」


黒革の手袋が、かすかに鳴る。


「知る必要はない」


冷たいけど、どこか優しい響き。

私は慌てて追いかけ、息を切らしながら言った。


「ねえ、すごかった。どうやったの?」


彼の目がわずかに細くなる。

でも、止まらない。

街の中心部へ向かう。


私は彼の声色を真似しながら、


「『俺はチョキしか出さないのさ』って、

 まるで伝説のジャンケニスト……

 レオンみたいね」


その瞬間彼がピタッと歩みを止めた。


「……いい加減にしろよ。

 俺はお前と遊んでる時間なんてないんだよ」


その言葉は拒絶だった。

でも、歩き出すまでに一拍、遅れた。


彼の視線に、冷たい風のような孤独が宿っているのを

感じた。まるで、灰色の世界で一人、戦い続ける戦士

のように。


(でも……なんて言われても、私は……)


ふと、周りを見渡すと、

廃墟の合間に建つ、古びたレストラン。

戦前のメニューを再現した、貴重な場所だ。


「せめて……お礼させて」


彼は、深くため息をついた。


店内は薄暗く、合成肉のステーキと人工ビールが並ぶ。

座って注文を済ませ、私は意を決して切り出す。


「改めて、さっきはありがとう。私はリナ。

 あなたは?」


「ピース……ピース・シラヌイだ」


その名前を聞いてはっとした。


「シラヌイって、あの世界最強。

 レオン・シラヌイと同じ……」


彼の手が、一瞬だけ止まった。


「レオンは……兄だ」


短い言葉。

それ以上、何も語ろうとしない。


「兄弟?……あの強さ……通りで……」


私は息を呑み、言葉を選んだ。


「ねぇ、ピース。私、あなたにお願いがあるの」


「お願い?」


彼は視線を逸らしたまま、答える。


「姉が……さらわれたの」


その言葉に、ピースの指が微かに震えた。

ほんの一瞬。

けれど、見逃せないほどに。


言葉が、喉に引っかかる。

それでも、続けなきゃいけなかった。


「成金の男よ。

復興で金を掴んだゴールドマンってやつ」


テーブルの上で、私の指が震える。


「姉に求婚を迫って、断られたら……

 力ずくで連れ去ったのよ。助けてほしい……

 ピースなら、できるでしょ?」


姉の笑顔が脳裏に浮かぶ。

あの温かな手が、遠くに引き離された瞬間を

思い出すと、胸が締め付けられるように痛んだ。


ピースの顔が一瞬ピクッと反応する。

でもフォークを置いて、無表情で。


「自分でなんとかしろ。俺を巻き込むな」


胸が熱くなる。悔しくて、声が震える。


「出来ないから……お願いしてるんじゃない……。

 あれだけの力があるなら、助けてくれても

 いいでしょ?」


叩いたテーブルが、震える。

店内の客がちらりと見る。


でも構わない。涙がぽろぽろ落ちる。

ピースは呆れた顔で、私を見る。

銀髪の下の目が、わずかに柔らかくなる。


「……しょうがないやつだな。わかったよ。

終わったら今度は、もっといいレストランを奢れよ。」


私は鼻をすすり、頷く。

心が少し軽くなる。

でも、これが始まりだって、

まだ知らなかった。


その夜、私たちはゴールドマンの屋敷へ潜入した。

新宿の外れ、鉄壁の要塞みたいな建物。


黒服の男たちが門を守る。

ピースは無言で近づき、じゃんけんを仕掛ける。


「じゃんけんぽん!」


チョキの指が閃く。

相手の手が、勝手に開いたように見えた。


(手が……勝手に……?

 それとも、私の目が追いついてないだけ……?)


次の瞬間、黒服たちが吹き飛んだ。

あり得ない光景に、

私は、息を吸うことも忘れていた。


階段を駆け上がり奥へ進む。

その瞬間、3人組の黒服が飛び出してきた。


「ヒャッハー! じゃんけんぽん」


「無駄だ……」


三人の体が、同時に壁へ叩きつけられた。


「いまだ!出さなきゃ負けよ、じゃんけんぽん!」


その瞬間また新たな黒服が後ろからピースに

襲いかかる。


「後ろからっ? 卑怯よ、ピース!……うしろ!」


「不知火流……」


彼はそこで言葉を切った。


ドン!!!


「ぐふっ……死角からの攻撃も通じないのか」


屋敷のホールで、

待ち構えていたのはゴールドマンの用心棒。


細身の体、鋭い目。

赤黒のグローブが、手の動きを幻のように残像を残す。


「中々やるようだが……ここまでだぜ。

 俺は、元卓球日本代表。山崎聖也だ」


彼の赤黒いグローブが、わずかに揺れた。

視線が、ピースの指先から一瞬も離れない。


「俺の動体視力は、後から手を決める。

 お前が何をしようが関係ない。

 それだけで、全部勝てる世界なんだよ」


その目を見た瞬間、

私は理由もなく、不安になった。


ホールの空気が張りつめ、長い影が床に伸びる。

ピースの指が静かに、しかし確実に動き出した。


「じゃんけんぽん!」


ピースのチョキが出る。用心棒は後出しで、

完璧に勝つ手を選ぶはずだった。

だが——



読んでいただきありがとうございます!

ブクマしてくださっている皆さん、本当に感謝です。


読んでいただけるだけでも嬉しいのに、

ブクマや評価まで励みになっています。


まだの方も、

「続きが少し気になるな」と思っていただけたら

ブクマしてもらえると嬉しいです。


評価は★1からでOKです!

楽しんでいただけましたら、

ぜひ星を増やしてもらえると励みになります。


次回:第3話 斬瞳ざんどうの代償

私は彼の世界に足を踏み入れる。


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