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Scissors  作者: リコピン
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第17話(最終回)並ぶ手のひら

挿絵(By みてみん)


不知火流——

零瞳……


視界は、闇だった。


色も、輪郭も、光もない。

けれど、不思議と不安はなかった。


俺は今、初めて“見えている”。


(……ああ)


これが、零瞳。


視力を失って、

初めて、見えるもの。


それは、形じゃない。

動きでもない。


心だ。


ゼロ——

兄貴の心が、そこにあった。


重い。

深い。

そして、ひどく疲れている。


世界を背負った心だ。


憎しみも、怒りも、

期待も、恐怖も、

全部引き受けて、

一人で立ち続けた心。


(……兄貴)


その心は、今も震えている。


俺を倒すためじゃない。

世界を守るためでもない。


ただ——

俺を、これ以上壊さないために。


ゼロが、動く。


(……もう、十分だろ)


言葉にはしない。

言葉にしたら、それは命令になる。


零瞳は、願いですらない。

ただの理解だ。

——理解したから、選ばなくてはならない。


その瞬間、

ゼロの拳に、力がなくなった。


握り締めていた理由が、

ふっと消えたみたいに。


指が、一本ずつほどける。


抗おうとしない。


ただ、

「そうだった」と思い出したように。


指が開ききる、その直前。

ほんの一瞬だけ、力が戻る。

——世界が、よぎる。


それでも、手は閉じなかった。


パー。


零瞳は、切らない。

奪わない。

ねじ伏せない。


ただ、相手の心に、

そっと触れる。


俺の手も、動く。


迷いはない。


チョキでもない。

グーでもない。


「……パー」


重なる。


パーとパー。


そのまま、

時間が止まった。


勝ちでも、負けでもない。

裁きでも、断罪でもない。


ただ、

同じ手。

同じ選択。


——その沈黙を破ったのは、

兄貴の声だった。


「……なぜだ、ピース」


すぐ近くで、

静かに響く。


「お前なら……

俺がパーを出した瞬間、

チョキを出せたはずだ」


責める声じゃない。

試す声でもない。


ただの、疑問。


「なぜ……勝たなかった?」


俺は、少し考えてから答えた。


「勝てたからだ」


兄貴が、息を詰める。


「……?」


「兄貴が、パーを出した時点で……

もう、勝負は終わってた」


見えない目で、前を見る。


「チョキを出したら、

兄貴はまた“世界を背負う側”に戻る」


「俺が勝って、

兄貴が負ける……

それだけの話になる」


一歩、踏み出す。


「でも……」


胸に手を当てる。


「それじゃ、

何も終わらない」


兄貴は何も言わない。


ただ、呼吸だけが聞こえる。


「俺は……

兄貴と同じ手を出したかった」


「勝つためじゃない」


「止めるためでもない」


「ただ……

同じ場所に立つために」


兄貴の心が、揺れる。


「……パーは、

何も奪わない」


「だから、

一緒にいられる」


長い沈黙のあと、

兄貴が、息を吐いた。


「……そうか」


声が、少しだけ軽かった。


「俺は……

勝つか、負けるかしか

考えていなかった」


「だが……」


小さく、笑う気配。


「お前は……

勝たずに、隣に立つ手を出したんだな」


「……ああ」


短く答える。


そのまま、

俺たちは一歩、近づいた。


開いたままの手が、触れる。


握手だった。


敵でも、

代表でも、

裁く者と裁かれる者でもない。


ただ、

同じ場所に立つ二人の手。


——その光景を見て、

世界が、ようやく息を吐いた。


「……引き分け」


審判の声が、かすれる。


だが、

その言葉は、もう意味を持たなかった。


それは宣言じゃない。

確認だ。


世界は、

勝敗以外の答えを、

初めて受け入れた。


世界を背負っていた背中から、

そっと、力が抜ける。


ゼロは、

もう、そこにいなかった。



エピローグ


青い空


外は、静かだった。


騒音も、歓声も、

遠くに溶けていく。


俺は、歩いている。


正確には——

支えられている。


「ゆっくりでいいよ、ピース」


リナの声。

肩に、温もり。


見えない世界でも、

その存在だけは、はっきりしている。


「……なあ、リナ」


「なに?」


「空ってさ……」


少し間が空いて、

彼女は微笑った気配を出す。


「青いよ」


「すごく、青い」


俺は、息を吸う。


見えない。

でも、怖くない。


「……そっか」


灰色の空は、もう見えない。


争いも、裁きも、

誰かを切り捨てる視線も。


全部、

俺の視界からは、消えた。


俺は、前を向く。


見えなくても。


隣に、誰かがいるから。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

ついに、最終回を迎えました。


じゃんけんをテーマに自分なりに描きたいものは、

書けたかなと思います。何か少しでも皆さまの心に残るものがあれば嬉しいです。


では、また。

次の作品で✌︎('ω'✌︎ )( ✌︎'ω')✌︎


おしまいー(ˊ˘ˋ* )♡

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― 新着の感想 ―
なんだこれ。 じゃんけんで決める世界になったのはわかるけど、「へー、そうなんだー」とか思ってたら気づいたら読み終わってました。 ジャンケニストって名前もいいですね。面白かった。 失明まで残り○○回、の…
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