第15話 世界を賭ける手
世界が、静かだった。
いや、正確には違う。
世界中が、俺を……俺たちを見ている。
無数の視線。
無数の期待。
無数の恐怖。
それらすべてが、
この場所──国連中央会議場に集められていた。
円形の壇上。
中央に立つ俺と、向かい合う一人の男。
白いスーツ。
仮面。
そして──忘れようとしても忘れられない、目。
(……兄貴)
心の中でそう呼んだ瞬間、
胸の奥が、わずかに軋んだ。
ゼロは、俺を見ていた。
世界を見るようでいて、
最初から最後まで、俺しか見ていない目だった。
「世界は、お前に期待しているぞ。ピース」
ゼロの声は、穏やかだった。
演説じゃない。
威圧でもない。
まるで、兄が弟に言い聞かせるみたいに。
「代表として、ここに立つ覚悟はあるか?」
俺は答えなかった。
代わりに、周囲を一度だけ見渡す。
各国の代表。
武装した警備。
通信越しに見ている、無数の人々。
誰もが、
俺が勝つか、
ゼロが勝つか、
その結果だけを待っている。
勝者と敗者。
正義と悪。
救済と断罪。
世界は、結論を欲しがる。
「……覚悟なら、ずっと前から決めてる」
ようやく、声が出た。
「兄貴を止める……それだけだ」
ざわめきが走る。
兄弟。
血縁。
感情論。
誰かが、小さく舌打ちする気配がした。
ゼロは、仮面の奥で、わずかに笑った気がした。
「そうか……やはり、お前は優しい」
その一言で、
胸の奥に、鈍い痛みが走る。
優しさ。
それは、俺がここまで来るために
何度も切り捨ててきたものだった。
「優しさだけで、世界は救えない」
俺は言った。
「でも……兄貴のやり方じゃ……誰も前に進めない」
ゼロは、首を振らない。
否定もしない。
「前に進めなくていい……
誰も、撃たれないならな……」
その言葉が、胸の奥に、冷たく沈む。
パーの街。
引き分けの刃。
決めないことで、止まった時間。
(……分かってる)
兄貴が、間違ってないことくらい。
「でも……」
俺は、拳を握った。
無意識に、チョキの形を作りかけて、やめる。
「全部を背負うなんて、できない」
「そんなの……」
視界の端が、じわりと歪む。
目の奥が、熱を帯びる。
(……もう、限界が近い)
それでも、逸らさない。
「兄貴は、世界を守ろうとしてる
俺は……兄貴を守りたい」
一瞬、
ゼロの呼吸が、わずかに乱れた。
気のせいかもしれない。
でも、俺には分かった。
「だから──」
俺は、手を上げた。
「ここで終わらせる」
勝ち負けじゃない。
裁きでもない。
世界を賭けた勝負。
その中心で、
俺はただ、兄を見ている。
ゼロは、静かに頷いた。
「……いいだろう、ピース」
その声には、
諦めと、誇りと、
兄としての願いが、全部混ざっていた。
「世界がどうなろうと……俺たちの決着を着けよう」
審判の声が響く。
「両者、構え!」
俺は、深く息を吸う。
(……これが最後だ)
視界は、まだ見えている。
でも、確実に削れている。
それでも、止まらない。
「Ready?」
俺は、兄と向かい合い、
世界の中心で、手を構えた。
「Rock, Pape, Scissors——」
この先にあるのが、
どんな結末でも……。
俺は、もう逃げない。
「——Shoot!」
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次回:第16話 暗闇の中に
退かぬ兄と、折れぬ弟——激突は最高潮へ。




