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Scissors  作者: リコピン
13/18

第12話 止まった街

挿絵(By みてみん)


朝だった。


カーテン越しの光は、やけに柔らかくて、

目の奥に刺さらない。

それが、少しだけ——気味が悪かった。


「……起きてる?」


リナの声。


俺は、天井を見たまま、短く息を吐く。


「ああ」


夢は、見なかった。

兄の顔も、ゼロの声も、

何も出てこなかった。


ただ、空っぽだった。




パーの街を、もう一度歩く。


前に来たときと、何も変わっていない。

怒鳴り声はない。

喧嘩もない。

誰も、急いでいない。


穏やかで、静かで、

——完璧な、平和。


「……人、増えた?」


リナが言う。


確かに、通りには人が多い。

けれど。


(……動いてない)


露店の数は、増えていない。

修理中だった建物も、そのままだ。

前に見た壊れた発電機も、同じ場所に置かれている。


誰も、手を付けていない。


「使わないのかな……?」


リナが首を傾げる。


近くにいた男に、声をかけた。


「それ、直せば使えるんじゃないか?」


男は、少し困った顔で笑った。


「まあ……そうだけど」

「誰がやるか、決まってないし」


「決めればいいだろ」


俺が言うと、

男は肩をすくめた。


「決めると、揉めるからな」


……ああ。


胸の奥が、冷える。




別の通り。


若い連中が、道端に座り込んでいる。

仕事道具はある。

体力もありそうだ。


でも、動かない。


「仕事、探してないのか?」


一人が、気の抜けた声で答えた。


「まあ……やらなくても、怒られないし」

「別に、負けるわけじゃないし」


負ける。


その言葉に、指先がわずかに震えた。


「何か、作りたいとか……」


言いかけて、俺は黙る。


彼らは、顔を見合わせて、笑った。


「作って、どうする?」

「誰かより良くなったら、嫌われるだろ」


——嫌われる。


それを避けるために、

何もしない。


(……止まってる)


街が、じゃない。

人の心が。




広場に出ると、

子供たちが、じゃんけんをしていた。

全員、パー。


笑っている。

でも、その笑顔は、

どこか同じ形をしている。


「……ねえ、ピース」


リナが、小さく言う。


「ここ……優しいけど」

「なんだか、息が詰まるね」


俺は、答えなかった。


答えは、もう、

胸の奥に落ちていた。




兄は、全部引き受けた。


誰も裁かないために。

誰も勝たないために。

誰も撃たれないために。


——そのために、

世界を、止めた。


(……兄貴)


あんたは、正しい。

少なくとも、優しかった。


でも。


(それじゃ……)


俺は、拳を握る。


斬瞳を使わなくても、

チョキを出さなくても、

分かってしまう。


この街では、

誰も前に進まない。


誰も、挑まない。

誰も、負けない代わりに——

誰も、超えない。


兄だけが、

全部を背負って、

全部を考えて、

全部を止めている。


(……それは)


それは、平和じゃない。


「……なあ、リナ」


声が、少し震えた。


「兄貴の世界は……優しい」

「でも、あれは……」


言葉を探す。


「兄貴だけが、チョキを出し続ける世界だ」


リナは、黙って聞いている。


「それじゃ……意味がない」

「兄貴が、壊れるだけだ」


胸の奥が、熱くなる。


「……俺は」


息を吸う。


「俺は、あんたを止める」


誰に言うでもなく、

でも、はっきりと。


「引き分けじゃ、ダメなんだ」

「決めなきゃいけない時がある」


勝ち負けじゃない。

裁きでもない。


——進むために。


「兄貴の平和は、止まってる」

「俺は……」


言葉が、自然に出た。


「俺は、前に進む世界を選ぶ」




その瞬間。


目の奥が、じくりと痛んだ。


でも、前とは違う。

怖くない。


視界は、まだ、見える。


リナが、そっと俺の手を握った。


「……行こう」


ああ。


もう、迷わない。


復讐は、ない。

正義も、もう違う。


それでも、

兄を否定する理由が、ここにある。


俺は、チョキを出す。


兄のために。

この止まった世界のために。


そして——

俺自身が、進むために。


遠くで、風が吹く。

止まった街の中で、

それだけが、確かに動いていた。



読んでいただきありがとうございます!

ブクマしてくださっている皆さん、本当に感謝です。


読んでいただけるだけでも嬉しいのに、

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まだの方も、

「続きが少し気になるな」と思っていただけたら

ブクマしてもらえると嬉しいです。


評価は★1からでOKです!

楽しんでいただけましたら、

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次回:第13話 代表という名の刃

逃げないと決めた。それだけだ。


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