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Scissors  作者: リコピン
12/18

第11話 平等の亡骸

挿絵(By みてみん)


世界最強のジャンケニスト……。


そう呼ばれることに、特別な感情はなかった。

勝てばいい。ただ、それだけだ。


新ジャンケン法が制定されてから、

世界は「話し合い」を覚えた。

核も、軍隊も、ミサイルも要らない。


必要なのは、手だけだ。


その理念を、俺は信じていた。


——ジャンケンは平等だ。

——先に手を出した方が負ける。

——子供も、大人も、国も、同じだ。


だから俺は、アメリカの要請を受けた。

国家専属ジャンケニスト。

世界の均衡を保つための、切り札。


誇りがなかったわけじゃない。

少なくとも、その時は。



最初の違和感は、小さな条文だった。


「判断猶予時間の調整」


公式文書には、そう書いてあった。

安全保障のため。

誤認防止のため。

公平性の確保のため。


──聞こえは、良かった。


だが実際には、

大国にだけ、後出しが許される条文だった。


正確には、

「先に出した手を、一定時間内であれば修正可能」。


小国には、その猶予は与えられない。

通信遅延、設備不足、違反リスク。


結果として、彼らは必ず先に手を出す。


必ず、負ける。


「ルールは同じだ」


誰もがそう言った。

俺も、最初はそう思った。



ある日、俺は小国の代表と向かい合った。


年老いた男だった。

背筋は伸びているが、手が少し震えている。


賭けるのは、経済支援と軍事不可侵条約。

負ければ、その国は十年、身動きが取れない。


「……始めよう」


彼は、グー。


俺は、チョキを出した。


会場が静まる。


審判が、カウントを始める。


「……3……2……」


俺は、何も考えずに、

ただ、手を開いた。


パー。


ざわめき。


だが、誰も止められない。

規則通りだ。

猶予時間内の、合法的な変更。


勝敗は、決した。


会場は静まり返り、

次の議題へと移ろうとしていた。


そのとき、男が言った。


「ありがとうございます」


俺は、手を止めた。


「これで……我が国は、争わずに済みます」


その声は、穏やかだった。

悔しさも、怒りも、なかった。


ただ、諦めだけがあった。


その瞬間、理解してしまった。


俺は勝った。

だが、誰も救っていない。



それから、同じ光景を何度も見た。


勝つたびに、誰かが頭を下げる。

勝つたびに、誰かが未来を手放す。


誰も怒らない。

誰も抵抗しない。


争いは、確かに減った。


でもそれは——

撃たなくなっただけの静けさだった。


銃が、

手に変わっただけだった。


俺は気づいた。


ジャンケンは、平等だった。

だが——

運用が、平等じゃなかった。


そして、俺自身が、

その歪みの中心に立っていた。


俺はチョキを出し続けた。


迷わず、考えず、ただ正解をなぞるように。

それが正義だと、教えられていた。


だが、

チョキを出し続ける限り、

誰かは、必ず負ける。


それが世界なら——


「誰も勝たなければいい」


その考えは、自然に生まれた。

怒りからじゃない。

絶望からでもない。


ただ、「最悪」にならないように辿り着いた

俺なりの答えだった。


俺は、ゼロになった。


名前を捨てた。

顔を隠した。

立場を消した。


誰も裁かない世界を作るために。

誰も勝たない世界を作るために。


——俺が、全部引き受けるために。


憎しみも、怒りも。

その全部を、俺が背負う。


そうすれば、少なくとも、

誰かが「撃たれる」理由は、なくなる。


それが、正しいかどうかは分からない。


ただ一つ、確かなことがある。


あのまま、チョキを出し続けていたら、

俺は、俺自身を許せなかった。


そして——


もし、あいつがこの世界を見たら、

同じことを考えるだろう。


だから俺は、

あいつには、チョキを出させない。


俺が、ゼロでいる限り。


——ピース。

お前だけは、幸せに生きてくれ。


それだけが、

兄として、残された唯一の願いだった。



読んでいただきありがとうございます!

ブクマしてくださっている皆さん、本当に感謝です。


読んでいただけるだけでも嬉しいのに、

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まだの方も、

「続きが少し気になるな」と思っていただけたら

ブクマしてもらえると嬉しいです。


評価は★1からでOKです!

楽しんでいただけましたら、

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次回:第12話 止まった街

優しさが止めた世界に刃を向ける時、

ピースは兄の平和を壊す決意をする。


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