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【完結】【連載版】断罪された悪役令嬢ですが、国中の契約書に私のサインが入っていることをお忘れではなくて?  作者: 上下サユウ
第一章 国中の契約書に私のサインが入っていることをお忘れではなくて?

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第一話 断罪は結構ですが、この国が破産しますわよ?

本日、17時、18時にも五話まで投稿します。

※こちらは【連載版】です。すでに短編を見られた方は、第三話からお入りくださいませ。

【短編】は→ https://ncode.syosetu.com/n7157lj/

[日間]ハイファンタジー9位。

[週間]ハイファンタジー24位。

[日間]総合61位。

皆さま、高評価ありがとうございます!

 王宮の大広間は相変わらず無駄に眩しい。

 頭上には星屑を固めたようなシャンデリア、壁には金箔の装飾、足元の大理石は磨き上げられて私の顔を映している。


 その大理石の上で、私はこれから断罪される。


「リーティア・ヴァーレン伯爵令嬢!」


 玉座の前から、王太子シリウス・アウルム殿下の声が響いた。

 銀の髪を自慢げにかき上げ、隣には庶子の娘であり、聖女セシリア・ルーデリアがうるんだ瞳で私を見下している。


「貴様の数々の悪行は、もはや見過ごすことはできない! 重税を課し、弱き者を切り捨て、冷徹に契約を押し付けてきた罪は重い! よって、この場をもって貴様を断罪する!」


(ふむ。台詞回しにしては悪くありませんわね)


 私は軽く瞬きをして静かに微笑んだ。

 リーティア・ヴァーレン――王国財務を統括する会計院を任されたヴァーレン伯爵家の一人娘。王命によって王国のすべての国家契約に署名権を持つ、異例の地位。


 その結果どうなったか。

 無能な貴族どもからは、「金に汚い悪役令嬢」。

 真実の愛とやらを叫ぶ愚かな連中からは「民を苦しめる冷血女」と、散々に言われることになった。


 事実は少し違うが、訂正する義理もない。私は善人ではない。不備の数字と赤字を垂れ流す愚か者が嫌いなだけ。人の言葉や愛など、いくらでも裏切られる。だが、契約書と数字は唯一ごまかせない真実。


「シリウス殿下」


 私はゆっくりと顔を上げる。


「わたくしの悪行とやらを並べ立てるのは結構ですが、一つだけ確認させていただけます?」

「今さら弁明など見苦しいぞ!」

「いいえ、弁明などではございませんわ。ただの事務的な確認です」


 私は首を傾げ、広間を見渡す。

 廷臣たちの半数以上が、すでに青ざめているのが滑稽だ。


「本日ここで断罪されるのは『王国会計院副総裁にして、王国契約統括署名者リーティア・ヴァーレン』。この者で間違いありませんのね?」


 ざわ、と空気が揺れた。

 シリウス殿下は眉をひそめながら吐き捨てる。


「そうだ! お前のような女はもはや王家には不要なのだ!」

「そうですか。では、ここにいる皆さまの机の上に積まれているすべての契約書が、『署名者不在』で無効になる覚悟はお済みですわね?」


 王弟、公爵、軍務卿、商務卿。

 彼らの視線が一斉に自分たちの側近へと向く。


「リーティア、それはどういう意味だ?」


 王が低く問う。

 私は淑女らしく裾をつまみ、一礼してから告げる。


「先王陛下のご命令でございます。財政破綻寸前だったこの国を立て直すため、すべての国家契約は会計院総裁、もしくはその代理人の署名がない限り、法的効力を持たない。そのように陛下自らお決めになりました。覚えていらっしゃいませんこと?」


 王の顔色がみるみるうちに変わっていくのが分かるが、お構いなしに私は続ける。


「軍への武具供給契約、港湾整備の工事契約、諸外国との通商条約、国庫からの融資、各地の領主への補助金支給、王都防衛の傭兵団契約……一つ残らず例外はございません」


 私は右手を軽く持ち上げ、自分の指先を見つめる。


「この指で署名しておりますのよ?」

「お、脅しのつもりか! だが新たに署名者を任じればそれで済む話だ! そんなもの――」

「では、今すぐそうなさってくださいませ。もっとも、契約とは遡って書き換えられないからこそ契約と呼ばれますのよ。過去十年分の契約を、これからすべてやり直すおつもりで?」


 その時、軍務卿が耐えかねたように叫ぶ。


「待て、リーティア嬢! 先の戦で帝国から取り戻した北方領の講和条約も、そなたの署名だったはずだぞ!」

「ええ、わたくしの署名ですわ」

「では、そなたの署名が無効になれば——」

「条約は王国側の条件不履行として破棄されますわね。帝国にはすでにそういう文言を盛り込んでありますから」

「なっ……!?」


 私の隣で罪人を見るような目でこちらを見ていたセシリアが、かすれた声で口を開く。


「どうして、そんなひどい契約を……?」

「ひどい、ですか? セシリアさん、あなたにとってはでしょうね。ですが、あなたがふわふわと『真実の愛』を語っている間、この国の帳簿は毎日血を吐きながら均衡を保っていたのですわ。もっとも、その現実を直視なさったことなど一度もありませんでしょうけれど」

「わ、私はそんな帳簿だの契約だの、分かりませんっ! でも陛下も殿下も皆が言っていました! あなたのやり方は冷たすぎるって……愛があれば、そんな数字なんてどうでもいいでしょう……」

「あなた方はいつだってそう仰る。『愛があれば』、と。ですが兵の食糧も貧民街の救済も港の修復も、すべて数字でしか動きませんのよ。『愛』とやらで兵糧が湧いて出るのなら、わたくしなど最初から必要ありませんでしたわね?」


 セシリアは何かを言い返そうとしたが、結局、唇を噛んで黙り込んだ。

 私は小さく笑った。


「帝国はあの戦争で勝ったつもりでしたのよ。領土も奪い、賠償金まで要求してきた。ですが先王陛下は逆に帝国の兵站の穴を突いて交渉し、こちらに有利な形で条約をまとめた。その代わり……財務を握る者を条約の人質に差し出したのですわ」


 つまり、私だ。

 王はわずかに目を閉じる。先王が亡くなった今、あの密談の場を知る者は、もはやほとんど残っていない。


「戯言だ! 仮にそうだとしても、お前の代わりなどいくらでもいるわ!」

「では、殿下。わたくしを断罪し、爵位を剥奪し、追放なさいますのね?」

「当然だ!」

「よろしゅうございます。本望ですわ」


 私は深く一礼し、そのまま顔を上げずに告げた。


「それでは国中の契約書に記されたこの署名『リーティア・ヴァーレン』。この名前がたった今をもって、一切の法的効力を持たないことを、わたくしもここに認めますわ」


 私の静かな断罪とともに、王国の足元もまた静かに崩れ始めたのだと、皆が理解しただろう。愚かな王以外は。

お読みいただきありがとうございます!

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