右眼に宿る未来視
三条は落ち着きを取り戻そうと深呼吸しながら、俺に向かって言った。「とりあえず、眼帯つけましょう。」その声には、優しさと同時に、強い意志が感じられた。彼女の提案は、俺の右眼を隠すことで、変色や不安を一時的にでも和らげようとするものだった。
俺は一瞬迷ったが、三条の言葉に従うことにした。視界に流れ込む未来の断片が一瞬でも遮られるなら、それだけでも楽になるかもしれないと思ったのだ。彼女がバッグから取り出した黒い眼帯を手渡しながら、微笑みを浮かべて見せたが、その微笑みにはまだ不安の影が残っていた。
眼帯を手に取ると、俺はゆっくりと右眼に当てた。黒い布が視界を覆うと、未来の断片的な映像が消え、右眼の痛みも少し和らいだ気がした。完全に閉ざされた視界の中で、左眼だけで見える現実はどこか安定感があったが、それと同時に右眼を隠していることの違和感も少なからず感じられた。
「これで少しは落ち着くかもしれないな。」俺はそう言って、三条に感謝の意を込めて頷いた。彼女もまた、ほっとした表情を浮かべて頷き返してくれた。
眼帯によって視界が狭まった今、俺はこれからどうすべきかを考え始めた。右眼の異変が何を意味するのか、そしてそれが俺たちの今後にどう影響するのか。その答えはまだ見えていないが、少なくとも今は、目の前にいる三条と共にこの状況に立ち向かうことができるという安心感があった。
眼帯をつけた瞬間、俺ははっきりとした違和感を感じた。それはまるで、右眼から見えていた未来の断片が一気に途絶えたかのようだった。視界が黒い布で遮られ、右眼が機能を失ったことで、あの奇妙な未来視もまた機能しなくなったのだ。
不思議なことに、眼帯をつけたことによる安堵感と同時に、右眼が再び平穏を取り戻したかのような静けさを感じた。未来の映像が消え、頭の中で鳴り響いていた無数の声も止んだ。視界の左側は相変わらず現実を映し出しているが、右側はただの闇だ。その闇が、逆に俺を落ち着かせていた。
「これで、未来視は止まったみたいだ。」俺は静かに言い、三条の方を見た。彼女はその言葉を聞いて、ほっとしたように微笑んだ。
「良かったです。これで少しは落ち着けるかもしれませんね。」三条はそう言って、再び優しい眼差しを俺に向けた。
俺はうなずき、右眼を覆う眼帯を指で軽く押さえた。未来を見ることができなくなった今、右眼の役割は一時的に終わったのだろうか。だが、心の奥底では、この眼帯がいつか外れる時が来ることを感じていた。その時、再び未来視が始まるのか、それとも別の何かが待ち受けているのか、今はまだわからない。
だが、少なくとも今は、現実の中で目の前にある問題に集中することができる。それがどれほどありがたいことか、俺は身に染みて感じていた。