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忘れられた数

佐藤「そうですか、最後にもう一つ伺いたいことがあります。」

祖父の穏やかな表情に、一瞬だけ緊張が走ったのが見えた。俺はその微細な変化を見逃さず、慎重に言葉を選んだ。

「兵器とは、一体何ですか?」

静寂が部屋を包み込む。祖父はしばらくの間、沈黙を貫いた。まるでその質問に答えることが、過去を振り返る重圧と向き合うことを意味しているかのようだった。俺は彼の返答を待ちながら、緊張感に満ちた空気の中で時間が止まったかのように感じた。


「その兵器とは、"希望"と"破滅"の二面性を持つものだ。」祖父は低い声で語り始めた。「それは我が家の歴史に深く関わり、桜井家の命運を左右してきた。人類の進歩を促す力ともなり得るが、誤れば世界を破壊しかねない。雪がそれを守ろうとした理由も、そして彼女が辿った運命も、すべてはその兵器に関連している。」


彼の声には哀愁とともに、どこか諦めにも似た感情が込められていた。俺は、その言葉の意味を噛みしめながら、桜井家が抱えてきた重荷をほんの少し理解したような気がした。そして、この"兵器"がいかに恐ろしいものであり、俺がこれからどう向き合っていくべきなのかを考えずにはいられなかった。

祖父は、再び静かに目を閉じ、深く考え込むような仕草を見せた。薄暗い部屋の中、時計の針が微かに動く音だけが聞こえてくる。その音は、まるで祖父の内心の葛藤や過去の記憶を刻むかのように、静かに響いていた。


「最後に一つ、君たちに問いたいことがある。」祖父はゆっくりと口を開いた。「数字とは何だと思う?」


その問いは、予想外のものでありながら、どこか奥深い響きを持っていた。三条は一瞬戸惑い、少し考え込んだあと、慎重に答えた。「数字ですか…数字はありふれたものだと思っていました。日常的に使うし、どこにでもある存在だと。」


祖父はその答えに、静かに頷いたが、目は佐藤を見つめたままだった。まるで、彼の答えに特別な期待を寄せているかのようだった。佐藤はその視線を受け止めながら、少し考え込んだ。彼の中で、過去の経験や知識が交錯し、答えが自然と浮かび上がった。


「俺は…数字は発見するものだと思います。」佐藤はゆっくりと言葉を紡いだ。「概念的なものだと言えば、それで終わりかもしれない。でも俺にとって、数字はそれ以上の存在です。どこか生物のような…成長し、変化し、時には自分たちに語りかけてくるもののように感じます。」


祖父の顔に、かすかな驚きとともに、深い思索の影が現れた。彼は佐藤の言葉を反芻するかのように、静かに考え込んでいた。そして、しばらくの沈黙の後、祖父はやっと口を開いた。


「そうか…」祖父の声はどこか遠く、昔の記憶を辿るような響きを持っていた。「数字を生物のように捉えるとは、面白い見方だな。ある意味で、それは正しいかもしれない。数字には魂がある…そう思ったことが、私にもあった。」


その言葉に、佐藤は意外な共感を覚えた。彼の言葉が、祖父の心の奥底に何かを響かせたのだろうか。三条もその様子を見守りながら、ただ黙っていた。部屋の中には、祖父の言葉が残した深い余韻が漂っていた。

祖父は重々しく息をつき、視線を床に落とした。薄暗い部屋の中、彼の言葉が静かに響き渡る。彼の手はわずかに震えていたが、それを悟られまいと強く握りしめた。


「だが、この兵器によって…」祖父の声は低く、苦悩が滲んでいた。彼の言葉は、一瞬の間を置いてから再び続けられた。「あぁ、すまない。顔を…」


祖父は言葉を詰まらせ、ゆっくりと顔を上げた。彼の目には深い疲れが漂い、過去の重荷に押しつぶされそうな様子が見て取れた。彼は何かを言おうと口を開いたが、その言葉は喉の奥で詰まり、沈黙が続いた。


佐藤と三条は、その場の空気に緊張感が走るのを感じながら、ただ黙って祖父の言葉を待った。部屋の中に漂う静寂が、まるで祖父の心の中の葛藤を反映しているかのように、重くのしかかっていた。


「私が知っているのは…ここまでだ…」祖父はやっとのことで言葉を絞り出した。その声はかすれており、まるで彼自身がその言葉を信じたくないかのように聞こえた。彼の目は遠くを見つめ、過去の記憶と共に苦しんでいるようだった。


佐藤はその言葉に動揺を隠せなかったが、無言で頷き、祖父の苦しみに寄り添うようにじっと彼の顔を見つめていた。三条もまた、何も言わずにその場の重苦しい空気を共有し、祖父の言葉の重みを静かに受け止めていた。


祖父は深い溜息をつきながら、静かに目を閉じた。そして、まるで自分の言葉が彼自身を傷つけるのを恐れるかのように、再びゆっくりと口を閉ざした。その姿は、長い年月を経て積み重ねられた苦悩と後悔を象徴しているかのようだった。

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