交差する青春と数式【1】
俺は珍しく、朝に散歩しようと思い立った。朝の空気はひんやりとしていて、深呼吸をするたびに胸の中が清々しく満たされていく。まだ太陽が昇りきらない時間帯で、街は静寂に包まれていた。歩道には朝露がきらめき、鳥たちのさえずりが遠くから聞こえてくる。
普段は研究に没頭しているせいか、こうして外を歩くのは久しぶりだった。見慣れた景色も、どこか新鮮に映る。心の中にたまった重いものが、少しずつ軽くなっていくような気がした。
道を進んでいると、小さな公園に差し掛かった。まだ人影はなく、ベンチがぽつんと佇んでいる。俺はそのベンチに腰を下ろし、ぼんやりと周りの景色を眺めた。研究で煮詰まっていた頭が、少しずつリセットされていくのを感じた。
「たまにはこういう時間も悪くないな…」
そう呟きながら、再び立ち上がり、ゆっくりと家に向かって歩き始めた。今日は良い一日になりそうだ、そんな予感が胸の中に広がっていた。
そう思ったのも一瞬のことだった。
突然、遠くから誰かの呼び声が聞こえた。振り返ると、桜井が全速力でこちらに向かって走ってくるのが見えた。彼女の表情はいつになく真剣で、何か緊急事態が起きたことを瞬時に察した。
「佐藤さん、大変です!」
息を切らしながら、彼女は俺の前で立ち止まり、続けて言った。
「学校でトラブルがあって…すぐに来てください!」
心臓が一気に高鳴った。桜井がここまで慌てることは滅多にない。それが彼女にとってどれほどのことか、俺には理解できていた。すぐに歩みを早め、桜井と一緒に学校へ向かった。
道中、彼女から事情を聞き出そうとしたが、焦りからか言葉がうまく出てこない様子だった。結局、学校に着くまで何が起こったのか分からずじまいだった。
校門をくぐると、遠くで人々が集まっているのが見えた。胸に広がる不安を感じつつも、俺は桜井と共にその場へと駆け寄った。