御伽話
俺は気付けば悠真を止めていた。悠真は倒れた状態で、驚きと悔しさが入り混じった表情で俺を見上げていた。
悠真「なぜ、まだ立てる」
俺は息を切らしながらも、毅然と答えた。
佐藤「俺はまだ証明をしていない」
その言葉とともに、回想が甦った。
桜井の父が語っていたことを思い出す。彼は穏やかな目で悠真に言った。
桜井の父「悠真は始まりの男を知ってる?」
悠真はその言葉に疑問を浮かべた。
悠真「始まりの男?」
桜井の父は穏やかに頷いた。
桜井の父「始まりの男は数学とその優しい力で世界を平和にしたんだよ」
その言葉の意味を、今になって深く理解する。始まりの男が持っていた力は、単なる数学の知識にとどまらず、それを使って人々に平和と安らぎをもたらした力だったのだ。悠真との戦いを経て、自分の証明の意味と、それを通じて平和を築く責任を強く感じる。
桜井の父は、穏やかな声で語り続けた。
桜井の父「始まりの男は、数学だけでなく、その知識と力を使って、人々に真の平和と理解をもたらしたのです。彼の力は、単なる計算や理論を超えて、世界をより良い場所にするために使われました。」
悠真はその話を静かに聞き、少し考え込んだようだった。桜井の父は続けた。
桜井の父「彼はその知識を、戦いや争いごとの解決に用いたのではなく、協力や共感を生み出す手段として使いました。数学の力を通じて、世界の人々に愛と理解をもたらし、争いを解決したのです。」
悠真の顔に、何かが変わり始める兆しが見えた。彼は自分の力をどう使うべきか、桜井の父の言葉を深く考え直している様子だった。
桜井の父は、優しくも強い意志を込めて言った。
桜井の父「その力は、亡くなった命さえも取り戻せる可能性があるのです。数学の力はただの計算にとどまらず、宇宙の根本的な法則に触れる力を持っています。それを正しく使うことで、失われた命を取り戻すことができるかもしれません。」
悠真はその言葉を聞き、目を見開いた。彼の表情には驚きと深い考えが交錯していた。桜井の父は、さらに続けた。
桜井の父「しかし、その力を行使するためには、深い理解と真の意志が必要です。力を持つ者が、どのようにその力を使うかが重要です。もしあなたが本当に平和を望むなら、その力を善意のために使わなければなりません。」
悠真はその言葉に重みを感じ、己の行動を見つめ直す必要があると感じた。彼は、力をどのように使うべきか、改めて考え直さなければならないと認識した。
桜井の父は、少し笑いながら、しかしその目には真剣さを浮かべて言った。
桜井の父「実はね、それはただの御伽話だよ。数学や力がすべての問題を解決できるわけではない。ただ、数学が持つ力を最大限に引き出し、正しく使うことで、可能性を広げることはできる。それだけが、現実の世界でできることなんだ。」
悠真はその言葉を聞いて、少し肩を落としながらも、自分の行動とその結果について深く考え始めた。現実と理想の間で葛藤しながら、彼は自らの選択がどれほど重要かを痛感していた。