証明者たにの戦場
3日後
佐藤は再び悠真と対峙していた。これは四度目の対面となるが、彼にとっては何度目でもこの場の緊張は消えない。亡き恋人の兄である悠真に、今度こそ決着をつけるためだ。
「悠真…」佐藤の声には、複雑な感情が入り混じっていた。愛する人を失った悲しみと、その兄である悠真に対する複雑な感情が、心の中で交錯する。
悠真は無表情のまま、佐藤を見据えていた。「佐藤…」その声には何の感情もないように聞こえたが、どこかに深い憂いが潜んでいるようにも思えた。
佐藤は沈黙を破り、問いかける。「なぜ、こんなことを続けるんだ?もうこれ以上の破壊には意味がない。お前が求めているのは何なんだ?それが家族のためだというのか?」
悠真は無言のまま、ほんの一瞬目を閉じた。そして再び目を開くと、硬い決意を宿した視線を佐藤に向けた。「そうだ。私がもう一度家族と暮らせるために、何もかもを犠牲にする覚悟だ。誰が何を言おうと、私の決意は揺るがない。」
その言葉に佐藤は胸を痛めたが、それでも冷静さを保とうと努めた。「だが、悠真、お前の家族は…彼女はもう戻らないんだ。どれだけ世界を破壊したとしても、お前が失ったものは取り戻せない。それを知りながら、なぜこれほどまでに破壊を続けるんだ?」
悠真は何も答えず、ただ佐藤を見つめ続けた。その沈黙が、佐藤にとっては何よりも重く、答えのない問いを投げかけられているように感じられた。
二人はしばらく無言で向かい合い、その場の空気がますます緊張感を帯びていく。しかし、佐藤は決して引き下がらなかった。「悠真、お前を止めるためにここに来たんだ。たとえ相手が亡き恋人の兄であろうと、俺はこの狂気を終わらせるために戦う。」
その決意に、悠真は何も言わずただ微かに笑みを浮かべるだけだった。その笑みには何か哀しみが含まれているようにも見えたが、佐藤にはもうそれを確かめる時間は残されていなかった。
佐藤は自分の中に渦巻く感情を押さえつけるように、深く息を吸い込んだ。そして、冷静さを保ちながらも、決意を込めた声で言葉を紡ぎ出した。
「結局は、悠真…お前を止めてから、俺が証明をするしかないのか…」
その言葉には、避けられない運命と対峙する覚悟が込められていた。佐藤は、今目の前にいる悠真を止めなければならない。そしてその先に、自分が追い求めてきた数学の証明が待っていることを、彼は理解していた。
悠真はそんな佐藤を見つめ、その目の奥には深い哀しみと、何かを諦めたかのような諦観が浮かんでいた。しかし、その口からは何の返事も返ってこない。佐藤が覚悟を決めたことを悟り、悠真は自分もまた、選ばなければならないことを知っていた。
「俺は、数学を信じている。これが俺の選んだ道だ。だから、お前を止める。そしてその後に、俺が証明してみせる…」
佐藤の言葉は、静かにしかし確固たる決意を伴って響き渡る。悠真を前にしたその姿は、恐怖や迷いを振り払った、純粋な覚悟そのものだった。
これが、佐藤にとっての最後の決断だった。愛する人を失った悲しみを乗り越え、自分の信じる道を突き進む覚悟が、今ここに結実しようとしていた。悠真との対峙は、ただの戦いではなく、二人の運命が交差する瞬間でもあった。
やはり、佐藤は悠真との対峙で圧倒されていた。悠真の一挙手一投足がまるで全てを支配するかのように、佐藤の攻撃は空を切り、次第にその動きは鈍くなっていく。
悠真は冷静に佐藤の動きを見極め、一瞬の隙をついて反撃に転じた。その圧倒的な力と速度に、佐藤は防戦一方となり、徐々に追い詰められていく。
「これが、お前の全力か…佐藤」
悠真の声には、かすかな嘲笑が含まれていた。彼はその場に立ち止まり、佐藤を見下ろしながら、軽く肩をすくめた。佐藤は歯を食いしばりながら立ち上がろうとするが、体が思うように動かない。痛みに耐えつつも、彼の目は決して折れていなかった。
「それが私を止める証明者の力なのか…」
悠真の言葉には、冷酷さと失望の色が混ざり合っていた。佐藤が証明者として立ち向かおうとしたその覚悟を、悠真は一瞬で打ち砕いたかのように見えた。彼はその目で佐藤をじっと見つめ、微かな同情の色を浮かべながらも、その手を緩めることはなかった。
しかし、佐藤は諦めていなかった。悠真の圧倒的な力の前に屈することなく、彼は最後の力を振り絞り、再び立ち上がろうとしていた。彼の心の中には、愛する人々や守るべき未来が浮かび、それが彼の意志を支えていた。
「まだだ…まだ終わっていない…」
佐藤は力強く呟き、自分を奮い立たせるように前を見据えた。彼にとって、この戦いはただの力比べではない。自分が証明者として立つ理由、そして未来を切り開くための戦いなのだ。