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晴眼の魔人  作者: 沼田フミタケ
因果応報
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因果応報 6

006




 屋根の上や、家の周りで、園崎家の事後処理部隊が仕事をしている中、マイから託された和斗くんを寝室のベッドに寝かせ、私はその横でヘアゴムで髪を縛り、コーヒーを飲んで無理やり心を落ち着かせていた。




「ん……んぅ……」




「――! ……起きたか」




 ソファに寝かせていた和斗が起きて、私は心の底から安堵した。




「あれ……? 英美里さん? ここは……?」




「私の寝室だ。安心しろ。君を狙う魔術師はすでに消えた。明日……いや、もう今日か。家に帰ったら親御さんに心配をかけたことをちゃんと謝るんだぞ?」




「……はい。…………あの。マイはどこですか? もしかして、疲れて眠っていたり……?」




 その心配そうな顔をする和斗くんに、私は真実を話すか迷った。でも、彼には嘘は通じないことを思い出し、私は真実を話すことにした。




「あぁ……そうだな……彼女は眠った。そして、もう彼女はこの世界のどこにもいないよ」




「………………え?」




 全てを理解したように、和斗くんは目を見開く。この子には、下手にほのめかす必要も、意味もない。


 でも、それでも、私は、直接的にそのことを言うのは憚られた。




「なん、で……。どう、して……」




「彼女は、彼女を守ったことで瀕死、いや、すでに人間という生物の枠組みでは死亡していた君を、生き返らせたんだ。文字通り、命を懸けて君が彼女を守ったように、彼女も、命を懸けてね」




「そん……な。なんで……、どうしてそんなこと……」




「彼女が言うには。もらったものを返したかったと……。短い時間の中でも、君から貰ったもの、その全てを」




「――ッ……!」




 和斗くんは悔しさからか、歯を食いしばる。




「……じゃあ、僕がもっとしっかりしていれば……。僕が死んでさえいなければ……、マイは死ななかった、死ぬ必要がなかったってことじゃないですか……!」




 ポロポロと、和斗くんの目から涙が零れ落ちる。


 私はそこで、和斗くんに対して、一つの疑問が生まれた。




「なぜ……君はそこまでになれるんだ? 今日会った、たった数時間前、初めて会った程度の人間に、君はなぜ、そこまで彼女を思って泣けるんだ?」




「何を……、人が死んだんですよ⁉ 僕が信じた人が‼ 僕を信じてくれた人が……‼ そんな人に、僕は、もう会えない。マイとはもう……、僕は……」




 その反応を見て、私は危ういと感じた。


 マイは助けてくれたから助けたという、因果応報的な考え方だった。命を懸けてくれたから、命を懸ける。そんな歪で、とても分かりやすい思想。


 だが、この子は違う。この源和斗という少年は、自分が信じれる人間かどうかで極端に対応が変わるのだろう。さらにこの子には、自分を信じてくれた人間に対しての、異常なまでの自己犠牲がある。それこそ、たった数時間前に初めて出会った相手に命を懸けられるほどの。


 今回は、私やマイといった存在がいたおかげで一命をとりとめた。はっきり言って、運が良かった。


 しかし、今後何が起こるかは分からない。


 すでにこの子は魔術といった裏の世界。異常の世界のことを知ってしまっている。


 今後また同じようなことがあれば、彼はその足を躊躇なくこちら側に突っ込んでしまうかもしれない。


 マイという少女を自分のせいで死なせてしまった罪悪感から、『今度こそ、救わなければいけない』と。


 考えすぎだろうか。しかし、可能性はゼロではない。そこまで可能性を絞れるほど、私はこの源和斗という少年と親しくはない。


 少なくとも、自衛できる手段は持たせるべきなのだろうか。


 ポロポロと泣き崩れる和斗くんの横で、私は熟考する。


 考えうる様々な事柄を脳内でシュミレーションし、私は決断する。




「和斗。魔術を学ぶ気はないか?」




 私は、面倒を見ることを選んだ。




「……魔術、を?」




 疑問を向ける和斗くんに、私は思っていることを嘘偽りなく言葉に出す。




「ああ。君は信じてくれた他人にすぐ命を懸けてしまうほど危うい。おそらく、もう一度今回のことがあれば、君は間違いなく、こちら側に関わってしまうだろう。それでまた死んでしまったら、わざわざ命を捨ててまで君を救ったマイが浮かばれない。


 それに、君は存在するだけで魔術師に目をつけられる存在だ。自分を守れる程度の力は、つけておくべきだと、私は考える」




 彼に嘘も思いやりも必要ない。それらすべてを看破されるのだから。


 だから私は、まっすぐと、彼の目を見て、嘘偽りなく話す。


 その晴眼に、内の内まで視られてもいいように。




「もちろん強制はしない。君がもうこんな世界とは関わりたくないと言うのなら――」




「――やります」




 和斗くんは、涙を袖で拭って、力強く私を見返す。




「僕も、誰かを守れる力が欲しいです。――天蠍機英美里さん。僕に、魔術を教えてください」




 和斗くんはベッドから立ち上がり、頭を下げた。


 私は和斗くんが言った魔術を身に着けたい理由と、その姿勢に苦笑する。




「私は君に、自分自身を守れるだけの力をつけてほしいだけなんだけどね……。承知した。では、今から私たちは師弟関係だ」




「――はい! 師匠!」




「うわぁ……私これから師匠なんて呼ばれるんだぁ……」




「……イヤ……ですか?」




「いや……、よく自分の立場を分かっていてよろしい。……でも、師匠って呼ぶときは、ビシッとモードの時だけにしてね……?」




「……はい。分かりました。――これからよろしくお願いします。英美里さん」




 笑顔で、それでも真剣な表情を浮かべる和斗くんと、私は握手を交わす。

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