初めての魔法
「よかったーすぐ逃げてくれて!じゃ行こシュン!!」
ライトが振り返り、無邪気な笑顔を浮かべながら村田の手を引っ張る。
村田は顔を赤らめながら、怯えていた自分が恥ずかしくなるのを感じた。
「ライト君..今のって」
恐る恐る口を開くと、ライトが明るく答えた。
「今のは『ドゥーンバル』だよ!いつもはおとなしいんだけど、今は気が立ってる時期だから気を付けろってグレイスが言ってたんだ!」
「いやそうなんだけどそうじゃなくて!どうやってそれを追っ払ったんだ?」
村田は状況を理解できず、戸惑った様子で問いただした。
「え?」
ライトは首をかしげながら手のひらを差し出した。
「これだけど....シュン、魔法見たことないの?」
ライトの手のひらに、小さな火球がふわりと現れる。
その炎は静かに揺らめきながらも、確かな熱と光を放っていた。
「うぉおお....マジか!」
村田は目を見開き、一歩後ずさる。
火球の赤い輝きが彼の瞳に映り込み、信じがたい光景を前に言葉を失っていた。
「魔法って..存在したのか!なぁ、他にはないのか?」
興奮を隠しきれず、少し前の恐怖も忘れたかのようにライトに詰め寄った。
ライトはその様子を面白がるように笑い、
「えっと他は..こんなのとかかな?」
と言いながら、再び手を差し出す。
すると、手のひらから透き通った美しい水が湧き出し、まるで泉のように輝きを放ちながら溢れ出した。
「うわ綺麗だなぁ~」
村田は子どものように顔を近づけ、夢中でそれを覗き込む。
水面に映る自分の顔に気づきながらも、その美しさに目を奪われた。
ライトはそんな村田をちらりと見て、イタズラを思いついたように口元をニヤリとさせた。
「えい!」
と軽快な声を上げると、手のひらに浮かんだ水を勢いよく村田の顔面に向けて放った。
「ぶぇああ!?」
村田は突然の出来事に顔を仰け反らせ、びしょ濡れになった髪を振り乱しながら叫ぶ。
水が顔に滴り落ちる感触に目をしばたたかせ、呆然とした表情を浮かべた。
「シュンそんなに体大きいのに何も知らなかったんだ、変なの!」
ライトはケラケラと笑いながら、すばしっこくその場を離れると、楽しそうに走り出した。
「待てこんのクソガキがぁあああ!」
村田は拳を振り上げながら叫ぶ。
その声には本気の怒りではなく、どこか楽しさが混じっていた。
先ほどまでの疲労感が嘘のように吹き飛び、村田は全速力でライトの背を追いかける。