女湯
夕暮れの街を彩る灯りが少しずつ増え始める頃、
ケイラとライトは宿を出発し、並んで歩きながら銭湯へと向かっていた。
ライトは相変わらず顔を赤らめながらも、ケイラの手を握ったままトコトコと歩いている。
スカートの裾が小さく揺れ、帽子のリボンが涼しい風にそよぐたび、
彼の羞恥心がじわりと増していくのが分かった。
(うぅ..やっぱりこれ恥ずかしいよ..)
ライトは頬を染め、つま先を見つめるようにして歩く。
小さく震えるその肩が、緊張を物語っていた。
「可愛いんだから堂々としてなさい。あたしだってついてるから不安なんて何もないでしょ?」
ケイラは笑顔でそう言いながら、ライトの手をもう一度きゅっと握った。
その一言に、ライトは目を細めるようにしながら、わずかに頷いた。
やがて、角を曲がった先に現れたのは、年季の入った木造の小さな銭湯。
柔らかな灯りが外に漏れ、どこか懐かしい匂いが鼻先をくすぐる。
入り口をくぐると、受付には湯守の中年の男が座っていた。
その親父さんはちらりと二人に視線を向けた——そして、ライトに目を留めると、ふわっと頬を緩めた。
「おぉ..可愛らしいお嬢ちゃんだね。お姉ちゃんと一緒かい?」
ケイラの心臓が一瞬きゅっと強張る。
しかしその横で、ライトが背筋をぴしっと伸ばして、小さくコクリと頷いた。
「そうかそうか」
親父さんはにこにこと笑い、疑う様子もなく帳面に人数を記す。
「女湯はこっちだ。お姉ちゃんと仲良く入るんだよ」
「う、うん....!」
ライトは少しだけ声が裏返りながらも返事をし、ケイラに視線を向けた。
その顔には、安堵と羞恥が入り混じった微妙な表情が浮かんでいた。
ケイラはライトの背中をそっと押しながら、女湯の入り口へと導いた。
「ほら、大丈夫でしょ?堂々としていれば誰も疑わないわよ」
計画通り、何の問題もなく——というより、完璧なまでに自然に、
可愛い女の子として銭湯へ潜入することに成功した。
脱衣所は静かで、ほのかな湯気と木の香りが立ちこめていた。
白木の床は清潔に磨かれており、明かりの反射でほのかに光っている。
「あら、全然いない..いや、一人だけ入ってるっぽいわね」
脱衣かごの一つに丁寧に畳まれた衣服があった。
どこかで見たような色と形だったが、彼女は深く考えずにスルーした。
「まぁいいわ。ほら、脱ぎましょ?」
ケイラがさりげなくライトの方へ手を伸ばす。
指先が触れようとしたその瞬間——
「自分で脱げるからいい!」
ライトは顔を真っ赤にしてそっぽを向き、
手に持ったタオルを抱えて、壁の陰にすたすたと隠れてしまった。
「んもう、つれないわねぇ」
ケイラはわざとらしくため息をつきながらも、
くすりと笑みを浮かべると、手際よく自分の服に手をかけた。