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ゲノム~失われた大陸の秘密~  作者: Deckbrush0408
第四章【メガラニア王国編】
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昼食

コンコンという控えめなノックの音の後、病室のドアが静かに開いた。

姿を見せたのは、清潔感のあるナース服に身を包んだアネミだった。

その手には昼食のトレイ。

ステンレスの縁がわずかに揺れて、小さく音を立てていた。


アネミはいつも通りの、落ち着き払った足取りで室内に入ってくる。

だがその動きは無駄がなく、どこかしなやかで柔らかい。

患者に不安を与えぬように——それが彼女の自然な振る舞いとして滲み出ていた。


「村田さん、昼食をお持ちしましたよ」

その声はやさしく抑揚のあるトーンで、まるで朝露のように穏やかに響いた。

思索に沈んでいた村田の意識が、その声によってそっと引き戻される。

張り詰めていた思考の糸がふっと緩み、彼は目を細めて小さく笑った。


「ありがとうございます、アネミさん」

村田が素直に礼を述べると、アネミはにこりと微笑む。

それは形式的なものではなく、どこか温かく、安心感すら与えるような笑顔だった。


「スープは少し熱めなので、気をつけてくださいね」

そう言ってトレイをサイドテーブルに置き、器の位置を丁寧に整える。


「体調にお変わりはありませんか?些細なことでも大丈夫ですよ」


「いえ、大丈夫ですよ。特に変わりはないです」

村田がやや照れくさそうに答えると、アネミはホッとしたように小さく息をついた。


「それならよかったです。先生に報告しておきますね..あぁ村田さん、カルテ先生なんですが..」

ふと口調が少し曇り、アネミは周囲を一瞬見回してから、村田に身体を寄せる。

まるで誰かに聞かれたくない秘密を打ち明けるような、そんな距離感だった。


「その..大丈夫そうですか?例えばスキンシップが多いとか、問診中関係のない話をしてくるとか..色々」

その小声は、まるで囁くように耳元で響いた。

心配げな目線が真剣さを帯びていて、村田は思わず苦笑いしながらも首をかしげた。


「あぁ..確かに変な人だなとはずっと思ってました..でも、非常に仕事熱心な方なんだろうなぁって」

そう言いながら、村田は顎に手を添えて少し考え込む。

どこか憎めない印象を受けていたのも事実だった。


「仕事熱心....えぇ、まぁ、間違いではないんです。実力も確かですし」


「でもあの性格では、毎回こちらの神経が磨り減るんですよ」

最後の一言には、ほんのりと疲れが滲んでいた。


「なので、村田さんのこと少し気にしていたんです。言動で不快な思いをされてたら..と思って」


「な、なるほど..とりあえず今のところは問題ないですよ。むしろ、けっこう面白い人だなって思ってます」

そう返す村田に、アネミはようやく少し安心したように笑った。


「そうですか、それなら良かったです。でも、何かあったら遠慮なく私に言ってくださいね」

その言葉には、まっすぐな信頼と、守ろうとする意志が込められていた。

村田はその視線をしっかりと受け止め、軽く頷いた。


「そうだ、もうひとつ..」

アネミがふと思い出したように声を上げ、トレイの整理をしながら言葉を続けた。

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