問診と朝食
眩しい光がまぶた越しに差し込み、村田はゆっくりと目を開けた。
カーテンの隙間から射し込む朝日が、病室の白い天井をやわらかく照らしている。
その穏やかな光に包まれながらも、どこかひんやりとした空気が肌を撫で、
身にまとう病衣のごわつきが意識を現実へと引き戻してくる。
少しだけ顔をしかめながら、村田は布団の中で肩をすくめ、身体を丸めた。
目は覚めたものの、まだ頭の奥には眠気のもやが残っている。
(今日は、色々と検証しなくちゃな)
そう考えた矢先、病室のドアが勢いよく開かれた。
「グッモーニン村田君!問診の時間だよ!」
声とともに現れたのは、白衣を着崩したカルテだった。
朝からテンションが異様に高い。
両腕を大きく広げて、まるで舞台役者の登場のようなノリで入ってくる。
その後ろからは、朝食を乗せたプレートを両手で丁寧に持ったアネミが、
無表情のままゆっくりと続いてくる。
「あ..おはようございます」
村田は目を細めながら、困惑と戸惑いの入り混じった声を返した。
目の前で繰り広げられるハイテンションの波に、まだ起きたばかりの脳がついていかない。
カルテはベッドの横まで一気に駆け寄ると、いきなり村田の両肩をガシッと掴んだ。
「で、昨日はよく眠れたかい?僕がいなくて寂しくなかったかい?」
その顔は満面の笑み。まるで恋人にでも再会したかのようなテンションだ。
だが、村田は完全に引き気味で固まっていた。
アネミはそのやり取りに一瞥をくれただけで、冷静にサイドテーブルへ朝食のプレートを配置する。
動作一つひとつが正確で丁寧だが、容赦のない一言がその場に投げ込まれた。
「先生..キモイのでやめてください」
カルテの笑顔が一瞬フリーズする。
「酷いなぁアネミちゃんは..」
声を裏返しながらも肩をすくめて誤魔化すように笑うカルテ。
だがダメージは確かに受けていたようで、視線を宙に泳がせる。
「まぁ、いいや!問診を始めようか。あ、先に採血しちゃおうか!」
テンションを切り替えるように手を叩き、カルテは採血の準備を始めた。
村田は左腕を差し出し、アネミが消毒と針の挿入を手際よく行う。
痛みは最小限で、採血はあっという間に終わった。
問診では、睡眠の質や身体の不調の有無など、ごく基本的な内容が淡々と尋ねられる。
村田はそれらに「特に問題ないです」とそつなく答えるだけだった。
「..よし、終わり!昼にアネミちゃんが昼食運びに来るから、それまでは自由にしてもらって大丈夫だよ」
「わかりました、ありがとうございます」
村田は少し体を起こしながら丁寧に頭を下げた。
「あ、そうだそうだ!昨日採った血液の検査なんだけどね、今日中には結果出ると思うから——」
カルテはくるりと振り返りながら、片手をひらひらと振ってウインクを送る。
「——お楽しみに~」
そのまま機嫌よく足音を響かせて病室を後にする。
カルテの後ろ姿を見送りながら、村田は小さくため息をついた。
「では失礼しますね」
アネミも一言だけ静かに残し、カルテの後を追って病室を出ていった。
再び静かになった空間に、暖かい朝日がゆっくりと差し込んでいる。
村田はふうっと息を吐いて、背もたれに身体を預けた。
(検査結果か..とりあえず、これではっきりするな)
少し緊張したような、それでいてどこか楽しみでもある複雑な気持ちを胸に抱きながら、
村田はプレートの上の朝食に手を伸ばした。
意外にも、パンはふわふわで、スープは優しい味だった。