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ゲノム~失われた大陸の秘密~  作者: Deckbrush0408
第四章【メガラニア王国編】
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孤児院へ

夕暮れ時を迎え、冷え込む空気の中ケイラとセトはレンガ造りの 年季の入った建物 の前に立っていた。

三角屋根が特徴的なその建物は、どこか懐かしさを感じさせる佇まいをしている。


「ここは?」

ケイラは興味深そうに建物を見上げながら尋ねる。


「孤児院です、見回りの最後に必ず訪れているんですよ」

セトは淡々とした口調で答えた。


「へぇ、何か特別な思い入れでもあるの?」


その問いに、セトは一瞬視線を落としたが、すぐにまた建物へと向き直った。

その目には、わずかに 懐かしさ のようなものが宿っているように見える。


「小さいころ、私はここで育ちました。ここには色々とお世話になったので」

ふっと小さく微笑んだ。

その表情は普段の冷静なものとは違い、 どこか穏やかで柔らかい。


「そうだったのね..じゃあ両親についても..」

ケイラが続けようとすると、セトは一瞬だけ動きを止めた。


「えぇ、両親については何も..ただ別に知りたいとも思いません」


その言葉には 淡々とした諦念 が滲んでいた。

「....どうせ私は捨てられた存在なので、知ろうとするだけ無駄です」


ケイラはセトの表情を じっと見つめる。

どこか強がっているようにも見えるその横顔には、 寂しさを押し殺している気配 があった。


「なんか余計な事聞いちゃったわね、悪かったわ..」

申し訳なさそうに視線を逸らしながら、少し気まずく呟いた。


「あぁすみません、気にしないでください」

セトは無理に微笑んでみせるが、その笑顔には ほんの少しの硬さ が残っていた。

まるで、自分の感情に触れられることに 慣れていない かのように。


「では、入りましょうか」


そう言って、セトは扉を 三回リズムよくノック する。


扉の向こうから、 温もりのある声 が響いた。

次の瞬間、木製の扉がゆっくりと開かれ、 室内から温かい空気 が流れ出てくる。


同時に、セトは雪崩のような子どもたちの波に飲み込まれた。


「セトおねえちゃーーん!!!」


次の瞬間、子どもたちが 雪崩のように セトへと突撃してきた。


「どぅわっ——ちょっと、待って!」


次々とセトに抱きつく小さな手。

あまりの勢いに一瞬体勢を崩しそうになるが、彼女は足を踏ん張り、何とか耐えた。


「まったく..びっくりするじゃないですか。何度も言ってるでしょう、飛び掛かっては危ないと」

表情こそ困惑気味だが、セトの手は自然と子どもたちの頭を優しく撫でていた。

一応注意してはいるものの、その声にはどこか柔らかさが滲んでいる。


「だって待ちきれなかったんだもーん!!」

「今日は何して遊んでくれるの!?」

「今日も小さい―!」


次の瞬間、セトの手が伸び、無邪気に言い放った子どものほっぺを軽くつねる。

子どもは「ひゃあー!」と笑いながらも逃げる素振りを見せず、セトに抱きついたままだった。


「相変わらずねぇ」

扉の奥から、小柄な老婦人 がゆっくりと歩いてきた。

銀髪をきれいにまとめ、優しさがにじみ出た微笑みを浮かべている。

微笑むその目には、長年の愛情がにじんでいた。


「こんにちはミレーヌさん。みんな相変わらず元気そうで何よりです」

子どもたちにまとわりつかれながらも、礼儀正しく頭を下げる。


「ねぇセトおねえちゃん、そっちの人だぁれ?」

ふと一人の子どもが、セトの後ろに立っていたケイラの存在に気づいた。


「あぁ初めまして、私はケイラっていうの、よろしくね」

ケイラはしゃがみ、手を膝に置いて目線を合わせるようにしながら挨拶する。


その瞬間、子どもたちの視線がケイラへと向けられ、一斉に飛び掛かってくる。


「むほぉっ!」

あまりの衝撃に思わず声が漏れてしまう。


「じゃあケイラお姉ちゃんだー!」

「一緒に遊んでよー!」

「なんか臭いー!」

「大きい―!」


一瞬、子どもたちの率直すぎる言葉に眉をピクリと動かしたが、すぐに大人の余裕を取り戻し、鼻を鳴らした。

「..一部は聞かなかったことにしてあげるわ。遊ぶと言っても、私はいいんだけどねー」

そう言いながら、わざとらしくセトの方に視線を向ける。


「しっかりと遊んであげてください、見回りはここで最後ですし。ほら、皆さん待ってますよ」

いつものように淡々とした口調で答えた。

挿絵(By みてみん)

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