腹が減った
ケイラは机に頬杖をつきながら、最後の書類を「事件報告」の山に乗せると、大きく息を吐いた。
見渡せば、先ほどまで散乱していた書類の山はきれいに分類され、
それぞれのカテゴリごとに揃えられている。
そして終了を象徴するかのように警察署内のチャイムが軽やかに鳴り響く。
「ひゃーおわった~!」
両腕を大きく上げ、思い切り体を伸ばしながら、彼女は疲れを吹き飛ばすように声を上げた。
体をひねりながら首をポキポキ鳴らし、達成感に浸る。
書類を束ねると、それを抱えたまま軽やかにセトの席へ駆け寄った。
「ほらセトさん見て!ちゃんと終わらせたわよ!」
ケイラはドヤ顔で分類した書類を目の前に差し出す。
セトは手を止め、書類を受け取ると、パラパラとページをめくりながら確認する。
「ふむ..問題なさそうですね、ありがとうございます」
淡々とした声色だが、その目はしっかりとケイラの仕事ぶりを評価しているようだった。
「ふふ、やっぱりあたしってデキる女!もうお昼休憩にしても大丈夫?」
ケイラは満足げに鼻を鳴らしながら、両手を腰に当て、少し上から目線で問いかける。
「あぁはい..ライト君にも伝えておいてもらえますか?」
彼女の態度に呆れたようにしながらも、特に咎めることなく頷いた。
「承知!あぁ飯だ飯だ~」
ケイラは軽快に敬礼のような仕草をしながら踵を返し、鼻歌まじりに休憩室へと向かった。
ライトを呼び出し、どこでご飯を食べるか相談しようとしていたその時、
執務室のドアが勢いよく開き、寒気を少し引きずるようにパルマが堂々と姿を現した。
「お疲れーっす!午前中の見回り終わりました!特に問題無しっす!」
パルマは元気よく報告し、肩を軽く回しながら伸びをする。
セトは優しく微笑みながら、カップに口をつけた。
「お疲れ様です。パルマさんも昼休憩入ってもらって大丈夫ですよ」
「わかりました!おっ二人もこれから休憩っすか?良かったら一緒に飯食いに行きません?旨い店知ってるんすよー」
二人の姿を認めると、にこやかに声をかけた。
「パルマさんはこう見えて結構グルメなんです。ついて行って損はないと思いますよ」
セトはココアを啜りながら淡々とした口調で説明する。
「『こう見えて』は余計っすよもう!」
パルマは軽く抗議するが、セトは飲み終えたカップを机に置いただけで、特に反応しなかった。
ケイラはそのやり取りを見ながら、面白そうに笑った。
「へぇ、まぁちょうど悩んでたしそうさせてもらうわ。もちろんあんたの奢りよね?」
わざとらしくにじり寄り、パルマの腕をぎゅっと握る。
その圧にパルマは一瞬たじろいだが、仕方なさそうに肩をすくめた。
「うげっ..まぁいいっすよ、1週間だけとはいえ二人は後輩ってことになるし..」
そう言いながらも、財布の中身を気にするような複雑な表情を浮かべる。
「ねぇセトさんも一緒に行こうよー!」
ライトが明るい声で誘うが、セトは申し訳なさそうに小さく微笑む。
「いえ..私は遠慮しておきます。片づけておきたい仕事があるので、三人で楽しんできてください」
書類をトントンと整えながら淡々と答えた。
「じゃお留守番よろしくっす!」
パルマが軽く返すと、セトは頬をわずかに膨らませながら目を逸らした。
「また子ども扱いして..私は子どもじゃーー」
彼女が言い終える前に、受付へ続く扉が勢いよく閉まった。