深堀問診
村田は椅子に座り、目の前に座るカルテの表情をうかがった。
カルテは真剣な顔つきでペンを手に取り、ノートを開くと早速問診を始めた。
「じゃあ、まずは基本的なところからいこうか。これまでの病歴は?」
カルテは穏やかな声で質問を投げかけるが、その目には鋭い観察力が宿っている。
「ええと病気は..いえ、特にありません」
村田が少し考え込みながら答えると、カルテは軽く頷きながらペンをノートに走らせた。
「ふむふむ、特に慢性的な疾患はない、と。では、普段の生活習慣について。睡眠時間はどのくらい?」
「だいたい6時間くらいですかね。ただ最近は少し寝不足気味で..」
村田が苦笑いを浮かべながら答える。
その言葉にカルテは眉を少し上げ、興味深そうに反応した。
「なるほどなるほど、一応7時間睡眠がベストとはされてるけど、まぁ人によって異なるからね、参考程度に」
カルテはペンをノートから一瞬離し、次の質問に移る。
「じゃあ最近体調に変化は?倦怠感とか、痛みとか」
村田は少しだけ考え込み、淡々と答えた。
「昔に比べて少し疲れやすくなったくらいですかね。多分年齢の問題なので大したことはないです」
カルテは再びノートに記録しながら軽く相槌を打つ。
「さて、食事はどう?毎日3食しっかり取れてる?」
彼の声はどこか柔らかさを増し、村田の緊張をほぐそうとする意図が見え隠れしていた。
「だいたい3食取るようにはしています。忙しいときは抜くこともありますけど..」
村田は少し目をそらしながら答える。
ここまでは至って普通の問診だったが、カルテの目がキラリと輝いたのを村田は見逃さなかった。
「ほほういいねぇ。それじゃあ好きな食べ物は?苦手なものも聞いておこうか」
カルテのトーンが少し陽気になり、村田は戸惑いながら視線を戻す。
「食の好みですか..?えっとそれはどういった意図で..」
カルテはいたずらっぽく肩をすくめながら答えた。
「今後の病院食のメニューの参考までにと思ってね、しっかりと食べてもらわないと困るし」
「そういうことでしたか、特に好き嫌いはないです」
村田が納得した様子で答えると、カルテは楽しそうに頷きながらペンを動かした。
カルテは楽しそうに頷きながらペンを動かす。
「好き嫌い無しと、うん素晴らしいね村田君!で、女性の趣味は?好きなタイプは?」
「えっ?」
村田の目が見開かれた。突如として恋愛の話題に飛んだことで、一瞬言葉を失う。
「いや....えっ?いや関係なーー」
赤面しながら声を絞り出そうとする村田を前に、
カルテはおどけたように前のめりになりながら畳みかけた。
カルテはおどけたように肩をすくめた。
「関係大有りだよ!精神状態ってね、体の健康に直結するんだよ?恋愛なんて特に..ねぇ?
村田は押し黙ったまま、背中を椅子に押し付けるようにして距離を取ろうとするが、
カルテの圧は止まらない。
「で、身近に女性とかいないの?」
「います..けど」
村田は観念したように答えると、カルテの目がさらに輝いた。
「ほらいるじゃないか!で、どういう関係なの!?」
その時だった。
ドアが勢いよく開き、冷たい空気が部屋に流れ込む。
「もう我慢できません!恐縮ながら横入りさせていただきます!」
鋭い声が響き、村田とカルテが振り向くと、アネミが腕を組みながら立っていた。
「げぇっ!アネミちゃん、機材の準備してたはずじゃ..」
カルテは想定外だったようで、驚きながら椅子に縮こまった。
アネミはごみを見るような目でカルテを睨み、まるで説教する母親のように冷たい口調で言った。
「それはもう終わってます、なーにか嫌な予感がしたのでこっそり聞いていましたが..」
カルテは必死に言い訳を試みるが、アネミの視線に押されて声が小さくなる。
「わ、私はただ村田君と仲良くなりたいなーと思ってだね..」
アネミは容赦なく叱責する。
「だとしてもいきなり距離詰めすぎです!人には踏み入れてはいけない領域っていうのがあるんですよ、もっと考えて問診してください!」
カルテは子どものように肩をすくめ、拗ねたような声で答えた。
「はい、すみませんでした..村田君、問診はこれで終わりってことで..」
その後、残りの作業はカルテではなくアネミの主導で、淡々と進められることとなった。
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先日本編の外伝作品として「ゲノム外伝~アドリア大陸の日常~ 」を新たに更新開始しました!
そちらでは主に本編登場キャラクターの日常について描いていく予定です。
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