温もりを求めて
三人は宿の扉を開け、冷気が漂う部屋に入る。
壁はレンガ模様、乱形石の床はひんやりとしていて、足元から寒さが染み込むようだ。
箪笥の上にはシンプルなデザインの電話機のみがぽつんと置いてある。
木製フレームのダブルベッドはどこか雑然としており、すでに使われたかのようにシーツがわずかに乱れている。
視線を巡らせると、ダルマストーブが部屋の片隅に鎮座していたが、石炭は残っているものの火は起こされておらず、部屋は冷え切っている。
ケイラは、肩をすくめながら不満をぶつける。
「あの店主気が利かないわね!ストーブくらいつけておきなさいよ!」
不機嫌そうに言いながら、寒さで腕をさすり始める。
彼女の声には、部屋の寒さと同じくらい冷たい苛立ちが混じっていた。
村田はそんな彼女をチラリと見て、軽くため息をついた。
「ストーブあるだけありがたいだろが。まぁ確かに寒いからさっさと付けるか..」
と彼も震えを抑えきれず、ストーブの元へ向かった。
横には石炭が入った箱があり、村田は手をかじかませながら石炭をストーブに追加した。
冷えた手で石炭を掴むたび、凍える感覚が彼を苛んだ。
「よし..じゃあライト、着火頼む」
村田は振り返ってライトに頼む。
寒さで彼の声も少し震えていた。
「はーい!」
ライトは明るい声で応じ、ファイアをストーブに向けて放った。
石炭が赤熱し始め、やがて部屋に暖かい空気が漂い始める。
三人は、部屋が十分に温まるまでストーブの前に団子のように集まり、互いに体を寄せ合った。
冷気が次第に和らぎ、暖かさが彼らの凍えた体にじんわりと染み込んでいく。
「おいケイラ。お前幅取りすぎだろ」
村田は胡坐をかいて真ん中に居座るケイラに軽く肘を突いた。
「へぇ..そんなこと言っちゃうの?今こうして三人で暖まっていられるのは誰のおかげかしら?」
ケイラは自分の功績を誇るように、得意げな笑みを浮かべてみせる。
「ぐっ..」
村田は反論できず、悔しそうに顔を背けた。
負けを認めたくはないが、確かに彼女のおかげで宿が見つかったのは事実だ。
一方、そんな二人のやり取りを見ていたライトは、笑顔で和やかに声をかけた。
「シュン!じゃあこっち来なよ!」
彼は座りながら手のひらに小さなファイアを作り出し、楽しげにその炎を村田に見せた。
「おぉ..ストーブよりいいかもなこれ」
村田はライトの炎に手を近づけると、ふっと安堵の息をついた。
ファイアの暖かさが、冷え切った手に優しく染み込む。
その様子を見ていたケイラは、突然一人だけ置いてけぼりにされたような気持ちになり、軽い嫉妬心が胸に芽生えた
「ず、ずるい!私もライト君であったかくなりたい!」
と言いながら、ケイラは勢いよく立ち上がり、二人の間に飛び込むように割り込んできた。
「お前が言うと変な意味に聞こえるからやめろ」
村田は眉をひそめ、やや困惑した表情でケイラを見た。
結局、三人はストーブの前から離れ、ライトの小さな炎を囲む形で体を寄せ合った。
ストーブ前の席は空席となったが、誰もそこに戻ることはなく、
彼らはライトの温かな魔法の炎に包まれ、笑い声が寒い部屋に溶け込んでいった。