法律違反
「そうと決まればさっさと出発だな!..おい変た――ケイラ、この車運転してくれないか?俺らはあっちに乗るから」
村田は軽く声をかけたが、ケイラは目を輝かせながら、ライトの服に夢中になっている最中だった。
「おっふ..え?..えぇ、私は別にいいけどあんた犯罪者になるわよ?」
ケイラは服を顔にかぶりながら悶えつつ、すぐに現実に戻って切り替えた。
村田は、彼女の言葉を聞いて一瞬戸惑った表情を浮かべたが、すぐにその意味に気づいた。
「ん..?あぁ免許か、そりゃまずいな」
自分が運転免許のことを完全に失念していたことに気づき、気まずそうに頭をかいた。
ふとライトが、今のやり取りを聞きながら、疑問顔を浮かべて
「あれ?あの二人はどうしたの?」
と尋ねる。
彼の小さな顔には無邪気な心配が宿っており、村田はその純粋な視線に少し顔を曇らせた。
「ん..あぁ、あいつらはな..先に行ったよ。助けてくれたお礼にこの車をくれたんだ」
村田はライトから目をそらすようにして少し控えめな声で答えたが、
その言葉を聞いてライトの顔が安堵に変わる。
「そっか、無事だったんだね。よかった..」
ライトの表情が緩むと、村田はその純粋な安心に胸を締め付けられるような感覚を覚える。
ケイラは軽く肩をすくめながらさらりと言い放った。
「まぁ..ばれなきゃいいか、ばれなきゃね。もしサツに見つかったら実力行使すればいいだけだし」
その瞬間、ライトが真剣な顔で口を開いた。
「ダメだよ!決められた事はちゃんと守らないと!」
彼はしっかりと二人に向かって言い聞かせるように声を張り上げた。
しかし、ケイラはそんなライトに対して、にやりと笑みを浮かべて顔を近づけた。
「ライト君、よく聞いて。いい?法律ってね....破るためにあるのよ」
その言葉はまるで誰かに悟りを授けるかのような冷静な口調で、
ライトの純粋な心に迷いを引き起こそうとしていた。
「..え?」
ライトは明らかに困惑し、頭の中が混乱しているのが見て取れた。
彼の眉が少し寄り、法律という概念そのものが揺らいでいるようだった。
「さぁ行きましょ!」
ケイラはライトの反応を無視し、先を急ぐように無理やり話を進めた。
「法律は破るもの..だけど破ったら捕まっちゃう..あれ、法律って..何?」
ライトは考え込み、頭の中でゲシュタルト崩壊を起こしかけていた。
(あぁ..ライトが悪い大人に汚されていく..)
しかし、同時に自分も無免許運転を提案しようとしていることに気づき、少し罪悪感を覚えた。
ケイラはすでに運転席に移動し、ハンドルに手をかけながら一言感謝の言葉を呟く。
「ジレ..リオ。この車、ありがたく使わせてもらうわよ」
かつての所有者への感謝の気持ちを込め、彼女はその車を動かす準備を整えた。
二台の車はエンジンの音を響かせながら、ついに出発する。
ライトは後ろの車で蒸気自動車のボイラーを見守りながら、何か独り言をつぶやいていた。
炎の揺らめきをじっと見つめながら、
彼の小さな手はボイラーの温度を調整するために忙しなく動いていたが、
頭の中ではまだ「法律とは何か?」という迷いが続いていた。