別れ
村田は急いでリオの手当てに取り掛かる。
血が止まらないリオの胸を押さえつつ、なんとか応急処置を施そうと懸命になっていた。
だが、焦りと恐怖が彼の手を震わせる。
その間に、ケイラは仮面の魔人との対峙を続けていた。
「あぁそうだよ。僕はシャダール族じゃない、どうしてそう思ったんだ?」
仮面の魔人は、まるで何も緊張感を感じていないかのような無気力な声で問いかけた。
「この小屋、どうして灯りが付いているの?彼らに灯りは不要のはず..もっと早く気付くべきだったけど」
ケイラはその声に腹立たしさを覚えつつも、冷静さを保ちながら答えた。
「それに..こうして会話ができているのが何よりの理由よ」
ケイラは相手の仮面越しの視線を見据え、続けた。
「はは、それもそうだね。で、ここからどうするの?..逃げる?それとも僕を殺す?」
その言葉には奇妙な楽しさが滲んでいた。
「えぇ、もちろん殺すわ。あんたには借りがあるからね」
ケイラの目が鋭く光る。
「そっか、じゃあ..」
仮面の魔人は不規則なリズムで指先からファイアを明滅させた。
彼の動きは、まるでこれから何か恐ろしいことが起こる前触れのように見えた。
「今、彼らにこの小屋内の生物を皆殺しにするよう命令を与えた。まずそこの兄弟が優先的に狙われる..けど、同時に君たち三人は逃げる絶好のチャンスだ。どんな選択をするか楽しみだね、それじゃあ」
その言葉は冷たく、無慈悲な響きを帯びていた。
そう言い終えると、仮面の魔人は床に隠された扉を開け、石造りの階段をゆっくりと降り始めた。
「なっ!?..ま、待ちなさい!」
ケイラは焦り、すぐに彼を追おうする。
「おねえちゃん!こっちに大量の魔力反応が向かってくる!」
ライトが焦った声で叫び、彼の目には恐怖が浮かんでいた。
魔力の波が押し寄せるように迫り、まるで彼らを飲み込もうとするかのようだった。
「くっそ!二人とも、さっさとあいつ追うわよ!」
ケイラは強い口調で命じ、すぐに行動しようとしたが、村田が動かないことに気づいた。
村田の手は震え、リオの胸に当てられたまま、彼の命を繋ぎ止めようとしていた。
「村田、そいつはもう『死んでいる』!銃創の位置からして間違いなく心臓を貫かれている、あんたもわかってるんでしょ!?」
ケイラは苛立ちを隠せず、厳しい言葉で村田を現実に引き戻そうとした。
彼女の声には冷酷さが滲んでいたが、それは村田を救うための必死の行動だった。
村田はその言葉に動揺しながらも、唇を噛みしめていた。
「..わかってる....わかってるよ、だけど!」
その時、リオの隣に横たわっていたジレが、かすかな声で言葉を発した。
「いいんだ..村田さん、彼女の言うとおりだ。俺の弟は..リオはもう..」
彼の目には哀しみが深く刻まれ、死んでいく弟を見つめるその表情には、諦めと無念が滲んでいた。
村田は目線を下に落とし、言葉を失った。
彼は現実を直視せざるを得なくなり、心の中で苦痛と向き合っていた。
「それに、俺もじきに殺される....だから、最後にお願いしたいことがある..」
ジレの声がかすかに震え、彼の手が村田の腕を弱く掴んだ。
「あいつを殺してくれ..奴はアトラス王国で発生した連続殺人事件の犯人だ..頼む、俺らの両親もあいつに殺されたんだ..」
ジレの言葉は、絶望と復讐の念が込められており、その声には痛みと悲しみが混ざり合っていた。
「....わかった、だがこれだけはやらせてくれ..」
村田は覚悟を決め、ジレの傷に簡単な応急処置を施す。
「あと、これを。魔力濃度の高い血液だ、上手く使ってくれ」
村田はジレにライトの血液が入った小瓶を差し出した。
ジレは小瓶を受け取り、疲れた声で
「あぁ、ありがとう」
と感謝を述べた。
彼の手はわずかに震えながらも、小瓶をしっかりと握り締めた。
ライトはジレを見つめ、決意を込めて声をかけた。
「すぐに..戻ってくるからね..」
その言葉には、彼の純粋な思いやりと、仲間を救いたいという強い意志が込められていた。
三人は決意を新たにし、仮面の魔人を追うべく再び立ち上がった。
復讐と生存をかけた戦いが、今始まろうとしていた。