強奪
四人はシャダール族の集落付近の茂みに身を潜め、息を潜めていた。
周囲には音もなく、ただ風が木々を揺らす音と、時折聞こえる森の動物の声だけがかすかに響いている。
「..結構いるわね、おおよそ50人ってところ？」
ケイラが鋭い目つきで隙間から集落の様子を覗き込む。
「てか暗すぎだろ、俺には全然わからん」
村田は顔をしかめながら呟く。
魔力を持たない彼にとってこの闇はあまりにも深く、シャダール族の存在を感じ取ることができなかった。
「シャダール族に灯りは必要ない、彼らにとっては魔力が視覚情報だから..」
リオは冷静に説明しながらも、僅かに震える声で答えた。
「リオさん、ジレさんの場所はわかるの？」
ライトが小声で問いかける。
「兄貴の魔力反応はあっちの方からする..おそらくあの小屋の中だろう」
リオは集落の端に位置する古い木造の小屋に視線をやる。
小屋は風化が進み、今にも崩れそうなほどの古びた外観だったが、その中にジレがいるという確信が彼の中にはあった。
「そういえばさっき言ってた作戦って何なの？そろそろ教えなさいよ」
ケイラが村田に問い詰めるように言った。
彼は一瞬、彼女の問いを無視するように視線を外し、
「あぁ、説明する前に水を飲ませてくれ。喉乾いた..」
と呟きながら、水を飲むふりをした。
「私も飲もーっと♪」
ケイラは何気なく胸元から小瓶を取り出し、栓を抜こうとした。
だが、村田はその瞬間を狙って素早く小瓶を奪い取った。
「ちょ、何すんのよ！！」
ケイラは驚きと怒りで声を荒げる。
彼女の目には険しさが増し、まるで獲物を奪われた猛獣のような表情を浮かべていた。
「ふぅ、これが必要だったんだ、悪いなケイラ」
村田は冷静に言ったが、その手はしっかりと瓶を握って離さなかった。
「返しなさい！まだそれ新鮮なの！」
ケイラは小瓶を取り返そうと村田の腕を掴んで引っ張る。
「さっきも飲んでたじゃないか..いいだろ一つくらい」
村田は少し呆れながら言い返したが、ケイラの執着心に驚いていた。
彼女は納得いかない様子で村田を睨み、まるで子供のように唸り声を上げた。
「これが終わったら、い..いっぱい飲ませてあげるから、それでいいでしょ？」
ライトが少し怯えながらも、ケイラをなだめるように提案した。
「へぇ....その言葉、忘れないでね？」
ケイラはライトに向かって妖艶な笑顔を浮かべたが、その声には狂気が滲んでいた。
その一瞬、彼女の目は獲物を前にした捕食者のように光った。
（す、すまないライト..）
村田は心の中で申し訳なく思いながらも、これが作戦を成功させるために必要な手段だと自分に言い聞かせた。
「な、なぁ..さっきから気になっていたが彼女はなんであそこまで血に執着しているんだ？」
リオが少し戸惑いながら、声を低くしてライトに問いかける。
「僕にはよくわからないけど、そういう『せーへき』みたいだよ」
ライトは少し困惑しながらも正直に答えた。
三人は緊張感を帯びたまま、村田の次の言葉を待っていた。
