救済
三人はジレたちの援護を受けながら、何とか危険な区域を抜け出すことに成功していた。
車を路肩に停車させ、息をつく。
「とりあえず、ここまでくれば大丈夫か..」
村田は息を吐きながら言った。
その声には安堵の色が濃かった。
「そうだ、ケイラ!ライトもこっちに!」
急いで立ち上がり、車両後部のケイラの元に向かう。
彼女は胸元に矢が刺さった状態で仰向けに倒れていた。
服には紫がかった血が染みており、その光景は異様だった。
「大丈夫かケイラ!」
村田は震える手で彼女の肩を揺さぶり、必死に呼びかける。
「あ..ちょっと体がうまく動かないけど、痛みは大丈夫よ。これが守ってくれたみたい」
ケイラは胸元からゆっくりと割れた瓶の破片を取り出し、息を整えながら言った。
「よかった..滲んでいた血は瓶に入っていたライトの血だったのか」
村田は瓶の破片を見つめ、ほっとした表情を浮かべた。
「そっか、ライト君のが私の体に....あぁやばい、なんか興奮してきたわ..」
ケイラが急に上半身を起き上がらせ服を見つめる。
明らかに息が荒くなっていた。
「えっ..」
ライトはその言葉に引いていた。
彼の顔には戸惑いと恐怖が浮かんでいた。
「..理由はともかく、元気になったようでよかった」
村田は一瞬の戸惑いを見せながらも、ケイラが元気になったことに安堵した。
その時、ガソリン車が慌ただしく到着する。
車体には矢が突き刺さり、かなりの傷がついていた。
「お、そっちも無事だったか!..あれ、そっちの男はどうしたんだ?」
村田はジレがいないことに気づき、運転席のリオに問いかける。
「兄貴があいつらに連れていかれた!..た、頼む、助けてくれ!」
彼は声を震わせながら必死に懇願する
「連れていかれた!?何があったんだ?」
村田が驚きながらリオを見つめる。
「兄貴は銃で応戦していたんだが、矢を命中して、バランスを崩しそのまま..」
彼は顔を下に向け、悔しさと無力感に打ちひしがれていた。
「連れていかれたってわけね。..はぁ、悪いけど私たちは急いでるの、他を当たってくれない?」
ケイラはため息をつきながら冷たく言い放った。
「ふぇえ、でも、兄貴がいなくなったら、俺は一人じゃ何もできないんだ...」
リオの目に涙が浮かび、その顔は絶望に染まっていた。
「いや泣かれても..そんなことしてもリベルタスの奴らなんかに手を貸すつもりは無いわよ」
ケイラは呆れた声で言い放った。
「なんかこの人可哀想だよ..ねぇ、助けてあげようよ?」
ライトはリオの姿に同情の色を見せ、ケイラに向かって訴えるように言った。
「本当に優しいわね、ライト君。でもあなたも見たでしょ..あいつらに勝てる保障はあるの?」
ケイラは厳しい表情でライトを見つめた。
「そ、それは....でも!放っておくわけにもいかないじゃん!」
ライトは珍しく声を少し荒げながら言い返した。
「ありがとう..でもいいんだ、俺一人で助けてくるよ。せめて死ぬときは一緒の場所がいい..」
リオはライトに作り笑いを向けながら、覚悟を決めたように動き始める。
その動作は鉛のように重く、彼の決意が伺えた。
「..いや、俺も一緒に行こう。戦闘には期待しないでほしいが、的くらいにはなれるかもだしな」
村田がリオに向かって優しく言った。
「それに、一応俺は元看護師だ。お兄さんの怪我の処置くらい出来る奴がいた方がいいだろ?」
彼は笑顔で続けた。
「もちろん僕も行くよ!シュンならきっとそうすると思った!」
ライトは嬉しそうに言った。
「ありがとう..本当に、ありがとう....!」
リオは堪え切れずに涙を流しながら感謝の言葉を口にした。
「さて、運転手と燃料が無くなったわけだが、ケイラは先に行ってるか?」
村田はにやりとしながらケイラに尋ねた。
「うぐぐ....あーもー!わかったわよ、一緒に行けばいいんでしょ、行けば!!」
ケイラは不貞腐れながらも渋々承諾した。
「だとさ、よかったな。さっきはあんなこと言ってたけど、本当はあんたの事心配してたんだよ」
村田はリオに向かって微笑んだ。
(こいつ後で殴る..!)
ケイラは内心で怒りを抑えながら、村田に冷たい視線を送った。
こうして、村田たちはリオと共にジレを救出するため、シャダール族の集落へと向かう決意を固めた。