レース
蒸気自動車は速度を上げて進んでいたが、やがて後方から再びガソリン車が迫ってきた。
エンジン音が近づき、蒸気自動車の横に並ぶと、陽気な男が顔を覗かせた。
「やぁやぁ、お三方!また会ったねぇ!」
男は笑顔で手を振りながら言った。
「レースで決着をつけようじゃないか!この先にあるアルディナ山の頂上がゴール!」
男は興奮した声で提案する。
その目には競争心と挑戦の光が宿っていた。
「レース?わかってるとは思うが、こっちは蒸気自動車だ。勝負にならないと思うが..」
村田は呆れた表情を向けながら答える。
彼の声には冷静さと警戒心が込められていた。
「それに参加するメリットは何?私たちが勝ったらその車くれるとか?」
ケイラは疑問をぶつける。
彼女の目には不信感が浮かんでいた。
「まぁまぁ落ち着けや。ハンデはやるよ、俺らは10分遅れでスタートする。あとお前たちが勝ったら....車やる、やるよ!」
男は覚悟を決めた表情で言った。
「そんなノリで決めていいのか兄貴?これはコツコツ貯金してようやく購入した大事な..」
運転席の弟が兄の決断に心配しながら問いかける。
「俺らの稼ぎならまたすぐに買えるだろ!今は車なんかより仕事を全うすることが第一だ」
男は弟の意見を切り捨てるように言った。
「ちなみに、俺らが勝ったら少年..そして君も組織に入ってもらおう。さっき派手な一撃をかましてくれたからな」
男は二人を指さしながら続けた。
ケイラは一瞬の間を置いてから、
「..じゃあ断った場合は?」
と尋ねた。
「死ぬまで追いかける..それだけだ」
男は自信満々に答えた。
「メンドクサ..どうする村田?」
ケイラは大きなため息をつきながら村田に問いかけた。
村田は一瞬の沈黙の後、
「..もう話しても解決しなさそうだな。受けるしかない..とは思うが、ライトは大丈夫か?」
と自分の考えを述べ、ライトに問いかけた。
「レースって..僕は何をすればいいの?」
ライトは首を傾げながら尋ねた。その目には純粋な疑問と一抹の不安が見えた。
「ライト君はいつも通りで大丈夫よ、ただちょっと火力を上げてもらうわ」
ケイラはライトを安心させるように笑顔で答えた。
「わかった、頑張るよ!」
ライトは決意を新たにし、元気よく答えた。
村田は深く息を吸い込み、覚悟を決めてから
「よし....わかった、その勝負受けよう」
と男にはっきりと答えた。
「ははっ、そうこなくては!..そういえば自己紹介がまだだったな。俺はジレ、こっちは弟のリオだ」
男はにやりとしながら答えた。
「そして間もなく山の入り口だ、準備はいいか?」
その目には勝負を楽しむような光が宿っていた。
ライトは火力を上げ、蒸気自動車は加速しアルディナ山の険しい道へと進んでいった。
その先に待つゴールを目指して、三人の冒険が続くのだった。