かけっこ
三人は車を降り、広がる草原の中に立った。
周囲には風に揺れる草花が広がり、青空が一面に広がっていた。
これから魔人と変態による白熱したかけっこが始まろうとしている。
二人はスタートラインに立ち、目指すは約100mほど離れた木だ。
「準備はいい？」
ケイラはライトに確認した。
彼女の声には挑戦的な響きがあり、その目には勝負への意気込みが感じられた。
「うん！僕ね、足の速さには結構自信あるんだ！」
ライトは元気に答え、胸を張った。
その顔には自信と期待が溢れていた。
「へぇ、楽しみにしてるわ。じゃ、スタートの合図は村田に任せたわよ」
ケイラは村田に視線を向けながら微笑んだ。
「じゃいくぞ、よーい....どん！」
村田は満を持してスタートの合図を出した。
その瞬間、ライトは勢いよく飛び出した。
彼の小さな体が草原を駆け抜け、そのスピードは目を見張るものがあった。
対照的にケイラはスタートせず、棒立ちのままライトを見送る。
「ん、行かないのか？」
村田は困惑しながらケイラを見た。
「ハンデよハンデ、にしても確かに早いわ。歩幅の短さを足の回転でカバーしている感じね」
ケイラは冷静にライトの走りを分析しながら微笑んだ。
その目には興味深そうな光が宿っていた。
ライトが半分あたりに差し掛かったところで、ケイラは静かに
「よし..」
と呟いた。
彼女は体を前に倒し、一歩を踏み出す。
その踏み込みは強烈で、地面が軽くえぐれた。
瞬時にケイラは急加速し、一気に半分の距離を駆け抜けた。
（あともう少し..！）
ライトはあと10m地点まで到達していた。
しかし、その背後から物凄い気配を感じた。
強烈な風圧と共にケイラが抜き去り、木に到達した。
彼女のスピードは圧倒的で、その瞬間に勝負は決まった。
「はぁい私の勝ち～！」
ケイラはライトを見ながら余裕の表情で
（うわぁ、大人げねぇなあいつ..）
村田の目にはケイラの圧倒的な強さと大人気なさが映っていた。
ライトはその場に立ち止まり、体をわずかに震わせながら俯いてしまった
（あ..しまった。やりすぎた..？）
ケイラはまずいと思いながらライトに近づいた。
「す、すごい！どうやったの？」
ライトは好奇心を抑えられない様子でケイラの顔を見上げた。
その目には興奮と敬意が宿っていた。
「..へ？あぁ、これが私の特殊魔法『キネティック・サージ』よ。運動エネルギーを増幅させることができるの」
ケイラは困惑しながらも答えた。
「今みたいに踏み込む力を強くして加速したり、相手の物理攻撃を受け流すこともできるわ」
ケイラはライトに自分の魔法の説明をしながら、その手を軽く握りしめた。
「かっこいい！やっぱりおねえちゃんは強いんだね！」
ライトは輝く目でケイラを見つめた。
その顔には憧れと尊敬が浮かんでいた。
「へへ、当たり前よ。..あぁ、運動したら喉乾いたわ..」
ケイラは嬉しそうに答え、ライトにゆっくりと近づいた。
「..どうしたの？」
ライトは近づいてくるケイラに対し問いかけた。
「ライト君、ちょっと水分補給がしたいな..」
ケイラは息を荒くしながらライトの両肩を掴む。
「あぁじゃあ少し待っててくれ、俺が採るから。ライト、こっちに来てくれ」
村田はケイラの行動を止めるように、ライトを誘導した。
ライトは少し困惑しながらも、村田の指示に従い、彼のそばに寄り添った。
「何をするの？」
ライトは尋ねながら、村田の顔を見上げた。
「ライトの血が欲しいみたいだ。採血するが、すぐに終わらせるからな」
村田はライトを安心させるように、優しく微笑んだ。
村田はライトを木に寄りかからせ、慎重にライトの腕を取り、静かに血液を採取し始めた。
慣れた手つきで行われ、ライトが痛みを感じることはなかった。
「よし終わり、ありがとうな」
村田はライトに礼を言い、その顔には感謝の表情が浮かんでいた。
「ほら、これでしばらくは持つだろ？」
村田はケイラに血液の入った注射器を渡した。
「えへへ、ありがと！」
ケイラは嬉しそうにそう言いながら、小瓶に血液を注ぎ始めた。
彼女の手は手際よく、注射器内に残った血液を飲み干すと、満足した表情を浮かべた。
その顔には一瞬の安堵が広がり、瞳と頬が紅潮していた。
「やっぱり..おねえちゃん変態なんじゃ..」
ライトは小声で呟いた。
彼の目には疑念と驚きが入り混じっていた。
「まぁ..色々な人がいるってことだな..」
村田は頭を掻きながら苦笑いした。
彼の目には理解と寛容の色が浮かんでいた。
