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第8話 予期せぬ再会?

「そうか……あやつは死んだか」

「はい。あの屋敷に魔術、呪術に長けた者はおりませんでしたので、おそらく気づけた者はおりません。万が一気が付けても、何者のせいかも気づけないかと……」

「だが。マミトニア商会の次男が関与したとはいえ、領内の建て直しにあれほど早く動いている。万が一を考えた方がいいかもしれんぞ。

サリュマンの娘。バカではなかったということか……」

「いや……なんの取柄もなく、貴族でありながら魔力の才能もなく。親戚であるアルバート様に縋る知性しか持ち合わせていなかったとの報告が……」

「そう……『演じていた』ということも考えられる……か?」





 トリアンド王国、王都シューダ―ーソルシーナ城内。

直線の長い石作りの廊下を二人の男が歩いていく。

周りには人はいない。それを良いことに、二人は何かしらの話をしていたが、低くひそめた声音から、あまり人に聞かれたくもない様子も垣間見える。

「……しかし……潜入させた者から気になる報告が。……あの(・・)熱のあとに、生還してからは性格が変わったようだと。まぁ、生死の境をさまよったことで、考え方が変わったのかもしれません」

「ほう。それは様子をみることにしよう……」



 尋ねた者の身なりは、貴族の間で流行っているオリエントな模様を金色の糸で織りあげた衣装の豪華さが目立つ。隣のグレー色の服を着ている男がひどく地味に見えてしまうほどだった。

年齢はいずれも四十は超えているだろう。特に身なりの良い男は、四十も半ばを超えた貫禄すらあった。

「フロテリューダ様。この後はどうされますか?」

廊下を歩く中、前を向いたまま互いの顔を見ることはしない。

「……とりあえずは、今日はこの城に来るという。領地の相続手続きをわざわざこの王都でという話だ。その時に会ってみようと思う。……この私が振られたのだ。どんな娘なのか興味が沸いたぞ。

だが、ガグル。娘が城を出たら、後はお前に任せよう……」

「……は」

主であるフロテリューダに命じられ、口元に笑みを称えると、その瞬間にガグルはフロトリューダの前から消えた。

「さて。新しく人を増やしたというが。マミトニア商会もどのぐらい使えるものか」



 フロテリューダが歩き始めると、廊下の角から男が二人やってくる。

「これはフロテリューダ様」

「おうこれはコロンデ殿とファンス殿……」

フロテリューダはにこやかに挨拶を交わした。




★★★★★




《マリアーナside》

 「……本当か」

私の問いに、マーカスはふてくされ気味に頷いた。

「いくら聞かれても……それ以上はわかりませんよ」



 ここはソルシーナ城内の聖騎士団の館にある、私の部屋。副団長室となる。

私はここにマーカスを呼び出した。

要件は――リューリの屋敷でのこと。そしてルガーソの死のこと。この男には詳しく聞く必要があった。



 現場を検分した私たちは、何者かによって首を斬られたことによる、出血多量による死亡と見ていた。おそらく間違いはない。そしてそれを行ったのは、マーカスがリューリの護衛として連れてきたナンティという女――と考えていたのだが……。

「最初、モーリーとロディの報告を聞いた時は、ナンティが殺したと思いましたよ。

俺がナンティに頼んでいましたからね。あの男はリューリに害でしかないと判断したので。

しかし……ナンティが地下牢に来た時には、もうあの男は死んでいたと言ってました。

嘘をついたとも思えなかったし。状況からもナンティだったら、もっとうまく殺っただろうと思えますからね」


 傍で聞いていたら、なんとも物騒な話だが。

あのナンティという女。元は暗殺を生業としていたという。ならば、あんな首をかき切るという、一見して殺されているというわかるような、雑な殺し方はするまい。と、マーカスは言った。

「もしかしたら、リューリが見たかもしれないんだ。俺もそれは気を付けるように言った。

とてもナンティがそんなことするとは思えないね」



 「……そんなにリューリを気に入ったか?」

問うアルバートの体から、不穏なオーラが感じられる。

マーカスはそんなアルバートを一瞥し、「ええ」と短く答えただけだった。



 「それはリューリ本人に感想を聞いてから争いなよ。僕らが迷惑だから」

そう言ったロディは、アルバートとマーカスを迷惑そうに睨みつけている。

「……マーカスには、前から色々協力してもらっているんだし。うまくやろうよ」

と、言ったのはモーリーだ。

男たちの会話を聞きながら、私はマーカスに聞きたいことがあった。

「マーカス。リューリはルガーソの死に対して、なんだか納得していなかったな」

「……あの子は勘がいい……。ルガーソの言動に、あいつを傍に置いておくと危険だと感じたらしい。

だから対応が早くて助かったんだろう。

ルガーソの異常なくらいの『生』への執着は、とても自殺という道を選ぶとは思えなかったらしい。

さすが人の見る目も確かだし、洞察力もある。

いくら引きこもって本を読んで知識をため込んだからって、あれは天性のものかもしれない。

なら、()にいて、見届けてみたいから。俺ならあの子に色々と手助けをしてやれる」

マーカスのやつ。

「ねぇ、マーカス。あんまりアルバートを煽るのやめてよ。

アルバートには聖騎士団の団長へという推薦の話がきているんだから、最近、リューリが心配で、その話も辞退しかねない勢いなんだからね。そうなったら、マーカスを恨むよ」

ロディにしてはめずらしいほど、かなり心配をしている様子だ。

「そうだ、そうだ。そうしなければ、私も安心してリューリに会いに行けないではないか」

「……あんたが一番煽ってるだろう……マルアーナ姫」

私は本音を言ったつもりだが、マーカスの言葉に、モーリーやロディまで私を睨む。

「ロディ。誤解しているようだから言っておくが、俺は団長の推薦の話はとっくに断っている。

俺は今年のうちに騎士団を退団して、あいつの仕事を手伝うつもりだ」



 「「「「えええぇぇぇっ!!!」」」」



 「考え直せアルバートっ。陛下がお前の退団を認めるわけがないだろうっ!!」

モーリーが叫んでる。さすがに四人全員が驚きのあまりに声を出してしまったが……。

「マリアーナっ。あなたにも責任があるんだから、何か言ってよっ。

アルバートは変に頑固なんだから、言い出したら人の意見なんて聞かないでしょう?

それはあなたがよくわかっているんじゃないっ!?」

すでにロディは涙目だ。今は隣国のコレタート王国との関係も良くはない。この男の存在感は隣国にも知れ渡っている。それは私もわかっているが……。



 今、アルバートにリューリを独り占めにされるのは、とても悔しい。

「……アルバート。これからリューリも来る。私はマーカスに止められたが、私はカトルアン領の聖騎士常駐の話をその場で、父上に進言するつもりだ。それならお前も納得するだろう。

そして、ひと月前の『魔物討伐』の功績に対する褒美も、お前も私もまだ父上に何がいいか申し上げていなかったはずだ。今、それを条件に使う時ではないか?」

「……俺はそれが三件ほど溜まっている。退団の件はそれを褒美として願い出るつもりだ」



 モーリーとロディの困り果てた視線は、二人揃ってマーカスに縋っているようだが。聖騎士ともあろう者が。まったく情けない。

「……だったら、ひとつ考えがあるんだけどね……俺としては、窮屈になるから、あまり言いたくなかったんだけど……」

マーカスがそう言って嘆息した。




☆☆☆☆☆




 「……どうしてこうなるの……」

三日前。アルバートのお父上のロナウド様が治めるタロトローラ領の、カトルアン領との境にある一番大きい町ハッティに、ユトが領地の相続証明書と見届け人証明書を提出しに行ったら、サインしているメンバーが凄すぎて、王都の登記所でお願いしたいと丁重に断られたんだそうで……。



 その日のうちにロナウド様を通してアルバートに連絡が行き、翌日にはマリアーナから私のところへ手紙が届いた。

「私のところへ持ってきてくれ。父上にじかにお願いしてみよう。三日後、ソルシーナ城に来てくれ」

要件のみの短い手紙……なんだけど。



 「ユト。こういうのって、断っていいと思う?」

手紙を読んで、即ユトに尋ねると……ユトは困惑した表情だった。ごめんね、本当に。

「リューリ様のお気持ちはよくわかります。

でも嫌なことは一度に終わらせてしまうつもりで行くというのも、良いかもしれません」

「……やっぱり……そうかぁ」

私はおもいっきりため息をついた。気が重いよ……。




☆☆☆☆☆



 三日後。私はユトとナンティ、カカルと四人で馬車に乗っている。

ナンティとカカルは、正式に私の屋敷で務めることになった。そのせいで、マミトニア商会の屋敷に挨拶を兼ねて私物を取りに戻りたい用事があるということで、近くまで馬車で送ることになった。

帰りは二人を回収してカトルアン領に戻るという予定になっている。


 


 でもせっかくなんで、マーカスがシューダ観光に行こうということで、一日シューダは泊まることになっていた。

「リューリ様はシューダに行かれたことはあるのですか?」

カカルが尋ねてきた。聞かれると思ったんだよねぇ……。

「幼いころに何度かシューダに、連れていっていただいたことはあるけれど。

ほとんど記憶は残っていないわ。初めてと言っても変わらないわ」

私は――転生する前のリューリの記憶はない。しかも、細かく幼いころの設定もしていないので、そんな記憶なんて『まったくない』。

屋敷には何人か、サリュマンお父様のころから仕えていた使用人がいるんだけど、ルガードのせいで、

私の幼いころから勤めていた使用人はまったく残っていない。

あいつが自分に合わない人をほとんど辞めさせていた。

ルガーソにとって、あの館が自分の世界に、すべてになってしまったんだろうな。なんて思う。



 あいつの自殺は――やっぱり自分の未来に悲観したせいなのか。

ルガーソの遺体は、その日のうちにアルバートたちによって、領内の神殿に霊園の身寄りのない遺体の墓に埋葬された。手際がいいようにも思うけど……。

結局、私は一切あいつの最後の姿を見ていない。



 「リューリ様にひとつ聞きたいんだが……」

こう聞いてきたのはナンティ。

「なぁに?」

「リューリ様は、まったく魔術は使えないのか?貴族って、何かしらの魔術を使える人って多いからな。

血筋だとは言われているけど……」

「……ほとんどの適性はなかった。ひとつだけ……あったけど」



 貴族の高い確率で、魔力適性のある者が生まれる。という設定にした。

でも私の小説の中で、リューリには魔力適性ほとんどなかった。でも、ひとつだけ使える能力があった。



 『遠隔操作能力』。なんだろうけど、対象に対して五百メートル内だったら、『必ず的中させる』こと。強力ではないから、的中させる物体は重量のあるものは不可。人一人は無理。剣一つならいけるかな?()になってからやったことがないからわからないけど。



 小説では、リューリはこの能力を狙われたということでもあり、彼女はこの能力を使って、マリアーナの命を狙うことになる。当然、アルバートは知っているから、阻止できたんだけど。という展開にした。

 




 ユトに話して、この能力の強化を現在考えている……という最中。

でもこのユト以外は話していない。しばらくアルバートにも、言わないでおこうかなとも考えているんだけど。あんまり心配させたくないし。私の中で、あの婚約を断ったことはトラウマでもある。

自分がいけないんだけどなぁ……。余計、話しづらくしたんだよね。



 遠隔操作能力――その中でも対象に対しての的中能力の話をした。

「んじゃぁ、弓でも武器に使ったらどうだ?」

「それは考えたんだけど。私、今まで弓術とか、武術系をまったく習ったことがないの……」

「これからでもやってみてもいいと思うぜ。あたしもそういうのなら教えてやれるし」

「う……ん。ユトとナンティにそういうことをお願いすることになると思うな」

「おう。いつでもいいぜ。身を守る術は覚えておいて損がないから」

「そうだねぇ……」

と、視線がユトにいく。ユトは「そうですね」と微笑んでいた。

「リューリ様はユト様と仲が良いですよね。主様と使用人との関係の風通しがいいことは、そのお屋敷、しいては領主様なら、その領内の民にもいい結果となりますから」

それはカカル。そう褒めてくれるのは、すごくうれしいけど、恥ずかしくもあり。

「カカル。それはリューリ様がすばらしいからだよ」

……カカル以上に、ユトの方が問題だな。




☆☆☆☆☆




 カカルとナンティをマミトリア商会の前で降ろして、私たちはソルシーナ城へ向かう。

「……今回のルガーソのことで、自分の身辺のことを考えたなぁ。

早いうちに、ナンティの言う通りに武術の訓練でも始めた方がいいかもね」

「けして焦る必要はありませんが、適性を伸ばせる方が上達が早いかもしれません。

しかしリューリ様は、領内の仕事も多いですので、無理のない形で私が予定を組みます」

笑顔のユトだけど、きっと本当に無理のない(・・・・・・・)スケジュールを組むんだろなぁ。

優秀な執事ってこういう人のことなんだろね。






 マミトリア商会から、ソルシーナ城までの距離はさほど離れていなくて、マーカスの実家は、この国でも影響力の大きさが、この城からの近さでもわかるかなぁ。





 馬車を宿屋に預け、ソルシーナ城の正面門の門番に、マリアーナから送られた身分証を見せる。

門番は慌てて城の中へ走り――間を置かずして、知っている顔が出てきた。

「お久しぶり。待っていたよっ」

モーリーだった。なんだか、モーリーって器用貧乏な面があるから、こんな場面で使いっぱしりのようなことに使われるんだよね。

って、考えて設定してるんだけど……。

「マリアーナ様のわがままでごめんね。でも来てくれて助かったよ」

なんだか状況がつかめないけど、なんだか慌ててるような?

なにがあったんですか、モーリーさんっ。顔がやけに疲れてますけど……。

よくいらっしゃいましたという顔で、私とユトの背中を押して、城の中へと半ば強引に連れていく。

「いやぁ。ちょうどマーカスも来ているんだけどねぇ。ちょっとアルバートがさ」

小声で私とユトに話しかける。モーリーさん……なんか切迫してますよ。



 


「……おや?」

声がした。モーリーの強引な押しも止まる。

突然、私の目の前がユトの背中に遮られた。

「これは。もしかしてサリュマン殿のご息女ではないかな?」

……誰?と、ユトの背中から顔を出した。

「やはり。覚えておいでかな?シーバレン・フロテリューダですよ」

こいつが……。というか、イメージ通りだなぁ……。でも小説で書いたときより、なんかラスボス感の迫力があるなぁ。こんな感じだったか?

ここでは、貴族の礼儀で応える。あからさまに敵対しても仕方がないもの。



「私とサリュマン殿とは、学友でね。彼には世話になったんですよ。

その彼が亡くなり、ご息女がどうされているかと、ずっと心配しておりました。私に力になれることがあれば、と、彼との思い出の地で彼の執事であるルガーソ殿に出会いましてね。あなたのことを聞いたのですよ。ぜひに私を頼ってほしいと伝言を頼んだのですが……。

それからまったく連絡がないのでね。まさか、ここで会えるとは思いませんでしたが……。

しかしここでこうして会えるとは。しかし今日は何用で?」

ものすごくわざとらしい……。

「頼ってほしい」という伝言が、どんなゲームして「私の愛人になれ」という伝言に変わるんだよ!



 「……フロテリューダ様。リューリ殿は、幼馴染であるアルバートに会いに来たんですよ。

それに彼女はマリアーナ様の友人でもありましてね。マリアーナ様とも領地相続の相談でも来ているのですから」

モーリーが私たちとの間に割って入って、フロテリューダに私に代わって来訪の意味を説明してくれた。

「そうですか。それは申し訳なかった。では今度招待しますので、わが館にも遊びに来てください」

「……ありがとうございます。それでは……」

笑顔のフロテリューダに具体的な返事をさけ、モーリーの先導で、先を急ごうとした。

「そうだ。それで、ルガーソ殿はどうされましたか?」

……こいつ。

直観的に、ルガーソのことを知っていると思った。知っていて、無理やりにでも私の口からその『結果』を言わせようとしている。と。



 「私はリューリ様の執事をいたしております、ユト・ファンダルと申します」

「……ユト」

ユトは、私とフロテリューダとの直接な接触を避けるように、私を背にかばってくれている。

「残念ながら、カトルアン領の活動資金の横領の疑いが見つかり、謹慎いたしております」

「……それは。とてもそのような者には見えなかったが。サリュマン殿の信頼も厚かったように思っていた。それは残念だ……。

大変な時に失礼したね。しかしファンダル家の者を執事に迎えるとは、リューリ殿は人の見る目があると見える。近いうちに会えることを楽しみにしていますよ」

礼をしているユトと私に、一礼すると、フロテリューダは私たちが来た方に去って行った。



 「モーリー様。さっ、参りましょう」

何事もなかったように、ユトは呆然としているモーリーに声をかけた。

「あ、そうだね。じょ、行こうか」

モーリーは笑顔で、私とユトを促した。



 フロテリューダとの出会いの余韻もないまま、マリアーナとアルバートの元へと急がされた。

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