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第4話 いきなり?

 「……はぁ、疲れた」

私は今、馬車の中。

領地内の村を視察のために移動中。

「大丈夫ですか?一日で三か所なんて無理です。今日は次のタッタ村を見たら帰りましょう。

リューリ様の体調を見て、ストルト村にいつ行くかは決めましょう。

リューリ様はまだ体調が万全ではないのですよ」

ユトが有能すぎて、こういうことには一歩も譲ってくれない。

「できれば……」

「リューリ様」

「……はい」

本当にユトは有能すぎて……。以下同文。

でも、生き急がないって私も反省したばかりだったんだけど……。

それに日にちが経つにつれて、ユトの性格もよくわかってきた。いいことなんだけど……。




 「それでも……くそルガーソ。あいつ本当に最低なやつだったんだね」

「そのような下品は言葉はいただけませんが、ここまでひどいとは……。

私がもっと調べるべきでした」

「ユトは頑張ったよ。だからこうして先に進めるんだもの……」

ユトもあのじじいの悪事の証拠は集めていたんだけど、天候不順で農作物が不作だったとか、流行り病で人手不足だとかぬかしておきながら、勝手に税金を二割も上げていやがったことまでは把握できていなかったらしい。証拠も残らないように、書き残さなかった。



 地下牢でのやり取りから五日。あの出来事の翌日に、最初に行ったツゥトト村でその事実がわかった。すぐに税金の引き上げの件を取り消しにした連絡を各村に伝えて、今は天候不順による被害状況の確認と税金の交渉に、村々を巡っている。

確かに農作物の不作は深刻で、通常の五割~七割の収穫量というんだから、それが二年続いてたらかなり厳しい。

でもあのクソじじい。それに税金を二割上げるだと……。地下牢で閉じ込めておくだけじゃ物足りなくなってきた。




☆☆☆☆☆




 「ここもなのね」

タッタ村について、小麦畑が一面に広がっていた。

小麦の需要があるから、より多く収穫しようとなるだろうけど。

カトルアン領のメイン作物は小麦や大麦。

野菜が少々。少し偏りすぎのような……こんな天候不順とかだと、一斉に打撃を受けやすいやり方ではある。

「……農業に詳しいわけじゃないからなぁ」

 場所によって土地の状況は違う。天候や気候は大きく変わらないから、作る作物にバリエーションがあれば、だいぶ違うと思うんだけど。

それに酪農とかも組み合わせたらどうだろう?領地の多くは森林なんだし。開拓して土地を広げるって手もある。

という話をタッタ村の村長と、ユトに話してみた。

「……リューリ様。あなたはいつそんなことを学ばれたのですか?」

「あぁ――。本で読んだの。一年間は閉じこもっていたし。どこかで役に立つかなぁって……」

ユトに感心されて、とりあえず誤魔化してみた。

「でも、開拓と言われましても……簡単には」

「人手が足りないよね」

村長もいきなりこんなこと言われて困るよね。どこでも人手不足は否めない。

不作が続いたことで、王都などの都会に出稼ぎに行かないと生きていかれないんだもん。

本当になんとかできないかなぁ……。




 「よろしければ、森で取れるキノコの揚げ物ですが……」

村長の家でお茶受けのお菓子感覚で、そんな食べ物を出された。

森で取れるキノコなどで、食料不足を補っているのだそうだ。

油も高級品でしょうに。私のために振舞ってくれたんだろうな。



 そんなことを話すと

「いいえ。油の質はよくないのですが、あふれ花を絞ってまかなっています。この先の小川の川岸によく生えるので、春先に収穫して絞ったものを使っているのです。

風魔術で空気を抜いた空間に置いておけば、あまり劣化も進まず保管できますので」

「……真空保管かぁ。それなら長期保存もできるのね」

私、そんな設定してたっけ?あとでよく思い出そう……。それにしても物忘れがひどい。

そんなことを考えながら、キノコの揚げ物を口にする。

「これ……シイタケ?」

味がシイタケっぽい。でもさくさくしててそれなりに美味しいかも。

「シイタケというのはわかりませんが、センタというキノコです」

ここでちょっとひらめく。

「村長さん」

「フランです」

そうそうフランさんだった。来た時、名乗ってもらってた……。

「このキノコって栽培できないかな?」

「……はい?」

フランさん。驚くというより、呆れてる。そうなんだけど。

「……本で読んだことあるの。そんなキノコがあるって」

「そうですね……ええ、私も聞いたことあります。元になる木にそのキノコの種になるものを植え込んで管理すると、そのキノコが生えてくる……と」

ユト、すごいっ。執事って、知識量半端ないのね。それともユトがすごいのか。

「そう、それ。これ、そのキノコの味に似てるの。

それに、そのあふれ花なんだけど、油をとるために栽培してみない?キノコより現実味があるかもしれない。それを売ることができれば、この村の収入にもなると思う。うまくいけば、誰も出稼ぎに行かないですむかも」

あくまで希望の話なんだけど。

「リューリ様」

「……お嬢様……なるほど」

ユイとフランさんがなんだか感動してる。いや、でも上手くいくかはわからんよ。

「ねぇ、そのあふれ花とセンタのキノコの生えている場所を教えてくれる?他の村にも教えてあげられるかもしれないし」

「はいっ」

まぁ、とにかくやってみないとね。



 



 フランさんが立ち上がって、ドアを開けると……。

「……マーカスさん……」

一人の男性がドアの前に立っていた。フランさんがマーカスと呼んだ男性。

赤味がかった髪に、黄金色の瞳。

貴族というよりは、少し野性味のある顔つきだね。

マーカス?また設定外の人物。四百十二人の登場人物っていい気になってた自分が情けない。



 「お久しぶり、フランさん。そちらはこの領地の新しい領主様みたいだね。

フランさんに用事があったんだけど、ちょっと面白い話が聞こえてきたんで聞いてた」

「あまり感心できないことですが……」

ユトってば。私を守るためなのか……そう言って私の前に立って、後ろに私をかばう感じになってる。

「これは失礼、執事さん。俺はマミトニア商会のマーカスといいます。

以前から、この村の農作物を取り扱わせてもらってます。

でもここのところの天候不順でどの村も辛いときに、この領地で税金を上げたバカ者がいると聞いたんですよ。そのことを村々を廻って詳しい状況を聞いてから、領主様に文句言いに行こうと思ってたんですけどね。

ツゥトト村に行ったら、新しい領主様が逆に免除してくださったって聞いたから。

この村にも聞いてみようと来てみたら……。あんたがその新しい領主様だったんですね」




 笑顔が爽やかぁ……ワイルド系のイケメンか。ポイント高っ。

ユトと対峙しているイケメン同士の感じが……また、いい感じ。ってそんなことじゃなくて。

「私はリューリ。リューリ・ツァーラント。こちらは私の執事のユト。

あなたのマミトニア商会って、この国ではかなりの大手でしょう?

たしか代表はハセル・マミトニアさんと言ったかしら。クリクさんは……?」



 実はこの二人が私の設定したキャラクター。

のちのち、トリアンド王国が戦争で財政難になった時に、救いの手を差し伸べるのが、このマミトニア商会の長男クリク。でもマーカスは……設定してないよなぁ。

「よくご存じで。クリクは俺の兄貴ですよ。でもさっきの話といい、あなたはよく勉強されているなぁ。

一年間引きこもりしてるって聞いてて、跡継ぎがそんなお嬢様だったら、妾にされてこの領地もフロテリューダ伯に奪い取られて終わりかなって思ってたけど……いやぁ、根性ある人でよかった。

引きこもりも無駄じゃなかったってか」

「先ほどから、あなたは失礼な方ですね」

マーカスって、ストレートな毒舌家ってか。

それでもさすが商人だけあって、情報網がすごい……。

あ……でも、今は。ユトが怒ってる……。

「ユト、ありがと。私は大丈夫。マーカスさん。あなたもよく調べてるのね。じゃぁ、ルガーソのことも知っているんでしょう?」

「……まぁ。税金上げたのそいつだろ?それもわからんお嬢様かと思ってた。で、そのルガーソはどうしたん?」

「地下牢に閉じ込めてるわ。私がぼけっとしている間に、うちのお金もずいぶん使われてたけどね」

「ほう……」

マーカスは感心したように声を漏らした。




☆☆☆☆☆




 「ははは。それは派手にやられたな」

フランさんの家で、マーカスと話すことになって。

成り行きでルガーソのことを話すことになった。

で、笑われた。私の後ろに立っているユトは完全に怒ってる……私がいたらないせいで笑われているわけだし、それはあとで謝らないと。

「でも、その骨董品とかどうするつもりだ?」

「もちろん売って、少しでもお金に換金するわ。あんまり高値は期待できないと思うけど。

いろんな村を廻って困っているところも多いのがわかったから、税金をどうにかするだけじゃなくて、助ける形で使えればって考えてはいるんだけどね」

「……お嬢様……」

フランさんが感動してるけど、マーカスは懐疑的って感じね。初対面だし、それもそうか。



 「……リューリ。その骨董品とかうちで買い取ってやる。ルガーソが買った時の値段でな」

「はっ?え……どういうこと?」

「だから……そういうことだよ」

一瞬、マーカスが何言っているかわからなくて、思わず聞き返してしまった。

ユトが私に耳打ちしてくれて、なんとか理解する。

「でも、趣味悪いし、偽物みたいのもいっぱいあるみたいだし。私、価値がよくわからないのよね。

いくらになるかなんて……」

「あははははは」

さっき以上に笑い出すマーカス。そんなに笑わなくても……。

ああ。私が笑われて、ユトの怒りが限界にきているかも。

「じゃぁ、明日にでも屋敷にお邪魔していいなら、その骨董品の価値を見てやるよ。

これでもそういう勉強はさせられているんでね。

なんなら、ルガーソとかが使い込んだという三千五百万ペント(一ペント=一円)はうちで立て替えようか?」



 マーカス……あんた何言ってるの?

「ちょっと。いきなりそんなこと言っていいの?私たち初対面でしょ?」

「初対面でもあんたが面白いやつだって言うのはわかるからなぁ。

ちょっとした投資だよ。それで村を助けようって言うんだろ?

それにさっきのキノコの栽培の話。うちでそのノウハウがあるから、方法を教えてやってもいい。

うまくいけば、センタのキノコは需要が見込める魅力的な品だ。

だからこの話には、ちゃんと儲けられる可能性があるから金を出すと話した。

どうする?」

私はフランさんとユトを見る。

フランさんは「ぜひ」と言ってるし、ユトの怒りはなんとか治まってくれて、「いいお話かもしれません」と前向きの意見をくれた。



 「ぜひお願い、マーカス」

マーカスは「わかった」とうなずいた。

「それでな。あふれ花の油のこと。それは絞り出す技術しだいで品質を上げられる。

商品価値をあげれば、収入も増やせる。俺たちも儲かる。それも任せてもらえないか?」

「……わかったわ。明日でよかったらうちの屋敷に来て。その話を詰めたいし、正式な話なら、契約もちゃんとしたい。それでどう?」

話が大きいし、相手は大手の商会だから、こういうのは文章で残しておきたい。

「……気に入ったっ。明日その話をちゃんと決めて契約だ。それでいいか」

マーカスがそう言った直後。ユトがとんとんと私の肩をつついた。

「リューリ様。今、うちの屋敷で専任の者がおりません。ルガーソが辞めさせてしまったもので」

「なっ……」



 ……そんなことになっていたとは。今までの書類関係はユトが頑張ってやってくれていたし。

「トコトン疫病神に迷惑かけられたなぁ。わかった。そっちも任せておけ。

うちの商会からお墨付きのやつを紹介してやる。あんたとは、末長いお付き合いをしてもらいたいからな」

「……そういうことなら、お願いしたいけど……うちはあんまりお給金高くはないわよ」

「そっちも大丈夫。あんたのとことのお財布事情はだいたい把握できたから」

「……それでお願い……」



 大きいこと言っておいて、ちょっと決まらないなぁ……私。

なんとかしたい……はぁ。

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