第23話 冒険の終わりと新しい仲間と不穏な何かの始まり?
投稿時間が安定しなくてすみません。
ここで、プロローグ部分の説明とエピソードがひと段落です。
長々とすみませんでした。
最後までお読みいただけると幸いです。
<ではリューリよ。早速そなたの『可愛い』と思うものを思い浮かべよ>
え?いきなり何を言ってるの、この狼……。
あの流れから、どうしてそうなるわけ?無茶ぶりすぎるでしょ。
<なんじゃ、その抗議の目は?わしはこれからそなたと行動をともにするのだぞ。
この姿のままでは何かと不便であろう>
「そ、そうかもしれないけど、いきなり言われて、すぐに思い浮かばないでしょうよ」
<リスターの時は……『しばいぬ』とかいう犬じゃったな。そなたは何がよいのじゃ>
「え……『柴犬』のこと?ちょっ……リスターってまさか……?」
すごく重要ワードが飛び出してんだけど……。
<ほら、早くせいっ>
なんか私の周りって、せっかちな奴多くない?すぐに思い浮かぶわけないでしょっ!?
ああ、もうっ。ご先祖様が『柴犬』だったら……同じってなんか嫌だし。でも、リスターって一体……。
<集中せんかっ。イメージが伝わってこないぞ>
え、私の考えがノックスに伝わるのっ!?すごく嫌なんだけどっ。
可愛いもの、可愛いものっ。えええっと……しば……え、え……。
<はよせんかっ>
私はたぶん涙目になっていたと思うんだけど……周りの皆に縋る思いで見回した。
私に同情的な表情をしている……ユトとか、アルバートも……マーカスやトーマもだね。
マリアーナやナンティは「がんばれ」と言っているような。モーリーは少し心配そうにしてくれてる?
ロディは……完全に楽しんでいるだろう。カリスは笑顔で「正念場です、リューリ様」だと。
皆の顔を冷静に観察している場合じゃないけど、おかげで、ひとつ『可愛い』と思うものを思い浮かべることができた。
<それでよいのじゃな、リューリ>
「はいっ」
<では、始めるぞっ>
なにを!?と言いたかったけど、ほんのりと光り輝いていた氷の塊の光が、かぁぁっと一気に輝きを増していく。
「……まぶしっ」
まともに目を開いていられない状態になって、私は顔を庇う様に両手で光を遮る。
「……どう……なったの?」
ほんのわずかな時間だったと思うけど……ドームの中の光は落ち着いたみたい。
それでもドームの中は、壁が氷の放っていた光を受け継いだかのように、淡く光っている。
「……氷の塊が……」
天井に届きそうな大きさがあった氷の塊――そう、あの漆黒のドラゴンの姿が消えている!?
「……リューリ、前」
アルバートの声が聞こえて。天井など高い方へ視線を向けていた私は、自分の目の前を見る。
「……は?誰……この子!?」
私の目の前には……黒髪をツインテールにした、赤い瞳の女の子がいる。貴族のお嬢様が身につけるような黒と白のドレスがまた可愛い、けど。マジ……この子、誰?
この女の子が私の前にぱたぱたと駆けてくる。その姿がまた可愛いんだけど……。
そしてじっと私を見つめると、にっこりと笑う。かーわいいっ!!
で、この子がいきなり、白く……ひ、光ってるっ。
先程ではないけど、やっぱり目を開いていられない光に、反射的に目を瞑ってから、開くと。
「え?」
今度はこの子の髪が……栗色に変わって、瞳は翠緑色になっている。
まるで、これじゃ……。
「ママぁっ!!」
え……えええええっ!?これじゃぁ私の『娘』じゃないですかぁっ!!
<慌てるな。これは幼体の『擬態』じゃ。これからそなたがわしを育てるのだから、人の世界に馴染むように、わしの幼体は養育者に合わせて姿を変える。
これは幼体が養育者を、自らを任せられるだけの『適任者』として認めたことでもある。
わしの『意識体』と『幼体』の自我は、一体となるまでは別々なのでな。『意識体』が認めた人間であっても、『幼体』が認めるとは限らないのが困りものだったが……。
そなたはまったく問題はなかったようじゃ>
「ちょっ……そういうことは、こういうことが起きる前に言うものでしょうっ!?
って……はいぃ!?」
ノックスの『意識体』の声が聞こえて……と、その『意識体』に文句を言おうと、私がその声の聞こえた方へ怒った顔を向けると――。
パタパタパタパタパタ――と羽音が聞こえていて……。
「か、かわいいぃぃぃっ!!」
私の目の前にいたのは、精一杯羽ばたく一羽の……『シマエナガ』だぁぁっ!!
思わず両手で掴もうとして
<何をするっ!?この姿はそなたが『可愛い』と思った生き物の姿に『擬態』したのじゃが、こんな小さな小鳥を考えるとは思わなかったぞっ>
「ええっ、可愛いじゃないのぉっ!!真っ白でつぶらな瞳の小鳥さんだよっ。そのがんばって羽ばたいている姿も愛くるしいったら、たまらないっ!!」
私――この時、少し冷静だったんだよね。
『シマエナガ』は、この世界にいない鳥だもんね。その単語は言わない方がいいと考えて、「真っ白で愛くるしい小鳥」という表現に変えたのよ。
「……ほ、本当だぞリューリ……。君の『可愛い』のセンスはすばらしいぞ」
そうか。マリアーナも転生者だったね。『城田桜』さんという女子大生だったというから。
『シマエナガ』の愛くるしさは、たまらないでしょうねぇっ!!(もちろん個人的感想だけどね)
「でしょっ!?この子たまらないよね」
「ああ。本当にたまらないっ」
パタパタと私とマリアーナの前をホバリングする『シマエナガ』に集中していたら。
「ママっ!!こっちもっ」
と、ノックスの『幼体』である少女もいたっ。
ほほを膨らまして怒るこの子も、たまらず――可愛いっ!!
「ノックス様。この子の名前は、やっぱり『ノックス』なんですか?私がつけちゃダメ?」
<好きにつけよ。当然わしもじゃ。『ノックス』の名前が、この世界では『邪神』扱いなのだろう?>
「そうだ、リューリ。可愛い名前を頼むぞっ」
マリアーナは興奮気味。私もなんだけど……。
でも、この時の周りはどうだったんだろうね。見たくないな。
そうとう呆れていたんじゃなかろうか……。でも、ずっと緊張を強いられていたんだし、こんな『可愛い』が目の前にいたら、興奮するぐらい許してほしいかなぁ。
「じゃ、この『幼体』ちゃんは『ノエル』で、こっちの小鳥ちゃんは『おもち』にしよう」
「ノエルにおもちかぁ。うん。すごくいいぞっ」
「私、ノエルだね。ありがとうママ」
名付け……マリアーナとノエルには好評。でもノエルの『ママ』ってさ。ノエルって五~六歳ぐらいに見える容姿なんだよね。それに結構な美少女ぶりで……。
でも私の『娘』には、かなり無理ないか?『お姉ちゃん』の方が。
<私は『おもち』か?なんか棘を感じるが……>
『意識体』の方は嫌そうだね……まぁ、それも想定してはいたんだけど。
「どうして?このマリアーナには好評だったじゃない」
「ノックス様。私もリューリの名付けた『おもち』は可愛い名前と思いますよ」
ナイス、マリアーナっ。
<う、ん。そうかのぅ>
イマイチ納得していない『おもち』に、マリアーナの笑顔がトドメになったようで、<仕方ないのう>と渋々受け入れていた。
「ねぇ、おもち……さま」
<呼びつけでよい。わしに『様』つけはおかしかろう>
「じゃぁ、おもち。ノエルが私のこと……」
「ママっ」
『ノックス』改め、『おもち』にさっきの疑問を聞いてみようと思って話しかけると、ノエルが私のことを案の定『ママ』と呼んだ。
「私、十七歳なんだけど。ノエルの見た目って五、六歳の女の子に見えるでしょ?『親子』より『姉妹』の方が釣り合うかなぁ……と」
<わしに言ってものう。先程も話したように、わしとノエルでは別々の自我を持つから、ノエルが納得せんと……>
ここで何を思ったか、ノエルはユトの元へぱたぱたと駆けて行った。
「……ノエル?」
私たちが不思議がっていると。
「ユトパパ」
え……。何、この子。
「……ノエルお嬢様?」
執事であるユトは、ノエルをそんな呼び方になる。まぁ……当然、なのかな?
「ユトパパ」
「……あ……なんだい、ノエル」
ユト。なんだか満更じゃなさそうで……。どうしてくれるんだ、これ?
満面の笑みで……ユトを見上げるノエル。そして私をちらりと振り返り。
「……おう……これはこれは」
モーリー……血の気が引いている私とほほを少し紅潮させて、私を意味ありげに見つめるユトに……なんだか不穏なアルバートと……。
これらを見ながらニヤニヤと笑うモーリー。なんだかすごくムカつくんだけど……。
で、問題のノエルは、今度は不機嫌そうなアルバートに駆けていく。
「アルバー……アルパパっ」
「……お……おお。そうだな」
アルバートの不穏な空気を一気に払ってしまったノエル。
『パパ』と呼ばれて、アルバートもなんだかどこか……うれしそうで。
私にとっては、ますます泥沼にはまっていく仕打ちなんだけど。ノエル……。
今度は……それまで無言を貫いていたマーカスに駆けて行って。
「……ノエル?」
マーカスはノエルを緊張気味に見つめているし。
「マー……マーパパっ」
「あ、ああっ、ノエルっ」
マーカス……笑顔でノエルを抱き上げてる。傍から見ると、親子にしか見えません……。
ノエルは、今度はしっかりと私を見て、「ママっ」と呼ぶ。
<あれはお前の知識と無意識を読み取ったのだろうな。
しかし三人の『父親』とは……確かもう一人、おらなんだか?>
余計なこと言うのやめてくれる、おもち。ちゃっかり、私の右肩に止まってるし。
まぁ、ずっとホバリングというのも疲れるとは思うけどね。
これさぁ……最悪の状況というのではないか?完全に私がこの三人を意識してるってバレバレじゃん。周りの方々には周知の事実なのかもしれないけどさぁ。
こうして形にされると、どうしたらいいのよ。
『修羅場』という言葉しか、頭に浮かんでこないんだけど……。
すべての元凶のノエルは、今度は不機嫌になってしまったマリアーナに駆けてくる。
「マリア姉っ」
たどたどしい言葉で、マリアーナにしっかりと抱きつく。
「……ノエルっ。可愛いから許してしまうなぁ。私はお姉さんなのだな」
そうか。この子。究極に『あざとい』んだ……。まさか私が、こんなにあざといのか?
いやいや。ここまでじゃないと思いたいんだけど。
ノエルってば、『美少女』という状況を最大限に利用して、こんな短時間に色々してくれて、私の立場を奈落に叩き落としていることわかってくれているのかな?
「モーリー師匠」
おいっ。どさくさにまぎれて、マリアーナから離れると、今度はモーリーにそう言って抱きついている。
「……なに。俺は師匠なのか、リューリ?」
ノエルを抱き上げながら、満更ではないモーリー。
私の意識下では『私の指導係』という思いが、『師匠』という表現になったか……ノエル。恐ろしいな。
「え、僕は、僕は?」
当然、そういう反応になるよねロディ……かなりヤバいんだけど。
ノエルにずいと、自分を指さしながら歩み寄るロディ。ここでノエルの表情がなくなって、小さな手ですっとロディを指さす。
「……ロディ……」
「はぁっ!?僕は呼びつけなの、リューリっ!!」
ただ一言、ロディを呼びつけにしたノエル。たぶん、それでもかなり控え目な表現だと思うんだよ、ロディ……。
「私に聞かれても、どうしようもないんだけど……」
「そうだぞ、ロディ」
「リューリを困らせるな」
私が困っていると、アルバートとマリアーナが悲しそうなロディに言い聞かせる。
「……それにロディは『仲間』だからさぁ」
私は精一杯のフォローをしてみるけど。
「全然納得いかないんだけど……」
君にとってはそうだよね、ロディ。あとが面倒くさそうだな……。
このあと、ノエルはカリスは『先生』。トーマはロディと同じく呼びつけの『トーマ』。
そしてナンティは……『姉御』。と、それぞれを呼んでいた。
「リューリ様。あんた、あたしをどう見ているんだい?」
「……あはは。そのまんまだけど……」
呆れ気味のナンティに、私はそれ以上なにも言えない。たぶん、一番的確な表現をしていると思うな。
でも、恐ろしいな、ノエル。私の意識がまんまノエルに伝わっているということでしょ。
「ママっ」
私のところに戻ってきて、なんだか褒めてほしいような顔してるし。
「ノエルってば……」
対応に困るよぉ。けして褒められるようなことはしてないのよ、ノエルぅ。
「ノエル……ママが困っているよ。疲れることが多かったからね、こっちにおいで」
と、ノエルを抱き上げたのは……ユトぉっ!!ちょっと、その対応は……。
「はい、ユトパパ」
だからさぁ……それが疲れる原因なんだって気がついてよぉ。
「ノエルお嬢様は私が抱いていきますので、リューリ様は休んでいてください」
そう言えば、私はずっとユトの上着を羽織ったままだった。
……これじゃぁ、若夫婦が幼い娘を連れて洞窟までハイキング……なんて姿にも見えなくともないよ?洞窟にハイキングというシュチエーションはありえないだろうけど。
<ではこれでわしからの頼みも終わった。『幼体』の引継ぎも済んだゆえ、洞窟の外まではわしが連れて行こう。
そなたたち、リューリとノエルのそばに近寄ってくれ。洞窟の入口まで連れていく>
私の肩の『シマエナガ』……ことおもちが、皆に呼びかけ、それぞれが私とノエルを抱いているユトのそばに近づいてきた。
<行くぞ>
おもちが一言、そう言うと、私の体にかかっていた重力から解放されたように、体が浮き上がる感覚を抱く。
私が顔を上げると――そこは確かにこの洞窟の入口で、私たちは元の場所に戻ってきていた。
☆☆☆☆☆
そして事態は私たちが来た時よりも、一気に動いた。
おもちは私が洞窟に誰も入れたくないという願いを聞いてくれて、洞窟の入口を隠すほどの大きな岩で塞いだ。
そのあと、村人たちには二度と洞窟には近づかないように言い聞かせ、もし私の言いつけを破ったらどうなるか――今度はおもちがいるので、一本の丸太を何も道具を使わずに『粉砕』するという恐怖を上書きした。
フロテリューダの関係者が来たとしたら、すぐに私に連絡するようとも付け加える。
どっちにしても、フロテリューダも手の出しようがないだろうけど。
帰りの馬車は、カリスとトーマ、ノエルとおもちが増えて色々と賑やかだった。
大き目の馬車でよかったと思ったけど、ずっとユトとマーカスの膝の上を交互に移動しつつ、ご満悦のノエルに、時々馬車の中をのぞくアルバートの視線がものすごく痛くて……怖かった。
☆☆☆☆☆
「マリアーナ様っ」
屋敷に戻ると、そこにはマリアーナとロディ直属の近衛部隊が二十人ほどやってきていた。
なんでも王様に様子を見てくるように言われたそうで、エルマたちがなんとか対応をしてくれていたらしい。
自分の部隊を指揮するロディは――とても、あの『かまってちゃん野郎』の面影などなく。
本来の役目である『聖騎士』としての凛々しさが目立つ。
「ロディ様、いつも以上に張り切っておられるな」
「ああ。いつもあれだとありがたいんだが……」
ロディの指示で動きながら、隊員の騎士たちの会話が聞こえてくる。
ロディ……かっこいい一面があるのは認めるから、普段からそう凛々しくしていたらいいのに。
どうして私たちの前だと、ああも『お子ちゃま』なのか。
「どう?少しは見直した?」
ドヤ顔のロディが、入口のところでカリスとトーマの部屋について話していた私たちの所にやってきた。
「……わかったから……できれば、ストルト村の村人の……」
まだ村にいて、村の外には特別な理由がない限り出入りを禁じてしまった村人たちの処遇を、急ぎどうにかしないといけない。
とりあえず、離れの屋敷に一時的の滞在をさせたいと考えて、カリスと話した私がロディにそれを頼もうとすると、
「それは俺とアルバートがやるよ。アルバートならこの領地のことは詳しいし、俺はストルト村のことにはある程度詳しいからな」
と、どこからかモーリーがやってきて、そんなことを私に言ってきた。
「そう……じゃ、あとはマリアーナの指示待ちってことか」
「……なんだよ。リューリとノエルにいいとこ見せようと思ったのにな……」
不貞腐れたロディが、自分の部隊に戻っていく。
ロディを見送るモーリーの横顔が……洞窟の中の、あの顔を思い出す。
私がロディに言った――『仲間』や『家族』だという話を聞いて、笑顔になったロディの『違和感』と、それを見ていたモーリーの剣を帯びた『怖い』と感じた表情。
「……リューリ、いつでもいい。ロディのいないタイミングで皆に話したいことがあるんだ。頼めるか、リューリ、ユト」
ここにはカリスもトーマもいる。ナンティだって……それを知っていて、モーリーが私たちにそう告げてきた。
「はい」
「……わかった……」
ユトと私はモーリーに返事だけはする。
「これは誰もロディには話さないでくれ。絶対に頼む……重要なことなんでな」
モーリーの笑顔が……とても寂しそうで。私は「うん」とうなずくだけで、精一杯だった。
とりあえず、私たちの『ダンジョンクエスト?』は、こうして終わりを告げたのだった。