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第2話 熱で性格は変わるもの?

 それから……なんやかんやで三日が過ぎた。

一週間寝込むって、すっごい体力落ちるのね。まいった。体力だけは自信あったんだけど。

これでも中学の時はバスケ部だったんだよねぇ。高校は……漫画研究部に入りたかったんだけど、壊滅的に絵が下手くそで。結局、帰宅部になった。

漫画原作みたいな手もあったと思うけど……。



 

 私のいた中学は運動部に力を入れていて、バスケ部も県大会出場常連の強豪校。

でも私は三年間……補欠。結構努力したつもりだったんだよねぇ。やり方ダメだったのか、全然上手くならなかった。

そんな私を哀れに思ってくれた先輩と顧問の先生が、頑張りを認めてくれて部長にしてくれた。

まぁ、マネージャーもいなかった部だったし、どこか部長『兼マネージャー』という感じだったな。

都合が良かったのかもね。

高校でバスケ部入れなかったの、その時のみじめな気持ちをしたくなかったのもあったかな。

一番は才能なかったからだけど。




 だけど、おかげで体力は人一倍ついたよね。って、これは転生前の『林田香織』の体のことだ。

このリューリは……お嬢様だもんね。体力ないかもって思ってたら、歩けるようになるのに二日。そう昨日だったのよ。体力なさすぎじゃない?



 でもね、でもね。デメリットよりも、ずっと…ずぅーっとメリットの方が高かったのっ。

だって、アルバートが三日間、ずぅっと私のそばにいてくれたのっ。

「あ――ん」もしてくれたっ!!

もう最高すぎない??「ずっとそばにいる」って……アルバート最高っ!!!



 生まれ変わって、アルバートとこうして過ごせるなら、今までの私の人生も報われるってもんよっ。

マリアーナには申し訳ないけど、このままアルバートとのハッピーエンドルートも『あり』かもしれないなぁ。



 となると、死亡ルートは回避することも考えないといけないかもね。

幸い、ここは私の書いた小説の世界なわけだし。




☆☆☆☆☆




 三日間も騎士団の仕事を休んで来てくれたアルバートも、さすがに王都のシューダに戻らないといけなくて、この日の朝に館を出た。



 私の物語では、アルバートは次期騎士団長として期待されている有望な騎士、としてたはず。

アルバートが騎士団長になるのは二十一歳だったから、来年ということだね。

そんな騎士がこんなところに三日間も休みを取ってきてくれたのだから、リューリは大事にされてたんだよね。初めの頃は――。




 と、なるとだよ。

リューリの『かまってちゃん』な性格も直さないといけないか。

だったら、清楚で気品のある貴族令嬢なリューリ――というキャラクターに変えてみるか。




 「悪い……もう王都に戻らないといけない。まだ体調の戻らないリューリを置いていくのは心配なんだ」

ああーっ、アルバートっ。心配性すぎっ……惚れてまうやろっ。まぁ、もう惚れてるんだけど。

と、いう私の心の叫びを微塵も感じさせず、

「忙しいあなたがここまでいれくれたんだもの。それだけでとてもうれしかった」

ここで最大限の感謝を込めて……天使のほほ笑み。

に、なってるかどうかは知らんけど。精一杯、清楚な貴族令嬢を演じてみせる。

「妹のようなお前を、いつも心配しているんだ。いつでも俺を頼れよ」



 ……妹?あれ、私……あ、ああ。そうだ。そんな設定にしてた……。

だから、アルバートはリューリになびかなくて、焦ったリューリはそそのかされて、アルバートの想い人のマリアーナの命を狙うんだった。

そうだ、そうだったっ。あ―――しまったぁ……。



 「どうした、まだ無理しているんじゃないかっ?」

頭を抱えていた私を、馬に乗りかけてたアルバートは慌てて支えてくれてたっけ。

「な、なんでもないの。少しめまいが……」

「単なるめまいなのか?」

このまま「あーん。立っているのがつらーい」とか言って、アルバートの帰還を遅らせてやろうかとも思ったんだけど。

ウザい女って思われても嫌だし。アルバートならそうは思わないだろうけど、やりすぎもちょっと、ね。



 「本当に大丈夫。アルバートのおかげで、元気をもらえたんだもん。これから頑張らないといけないから、こんなことで倒れてられないよ」

しまった……『素』が出た。言葉使いがとても貴族の令嬢じゃなくなった。

これじゃ『林田香織』だよ。

アルバートに興奮しすぎて、自分が抑えられてないかも。これから気を付けないと……。



 「お前は。一週間寝ていたせいで、少し性格が変わったように思うよ」

やばーっ!しっかり、バレてんじゃんっ!

「自分を懸命に看病してくれるエルマたちに触れて、人の優しさを学んだんだな。

そんなお前に安心した。またすぐ来るよ。無理せず、まずは体を大事に過ごすんだ。

手紙を書くから……寂しいかもしれないけど、またな」

あれ。もしかして、結果オーライ?……アルバート、いい方にとってくれたんだ。さすがは推しっ。

まぁ、エルマうんぬんは問題あるけど。

「うん。待っているから、アルバートも無理しないでね、お兄様」

「……ああ、なんかこういう見送りもなんかいいな。後ろ髪も引かれるが……。

無理はするなよ、リューリ」

アルバート、満面な笑みで私の頭をなでなで。はぁ……幸せぇ。

って、そんな場合じゃない。

馬で去っていくアルバートを全力で追いかけたい気持ちを抑え込んで、見えなくなるまで見送った。





☆☆☆☆☆




 「リューリお嬢様。少しお話がございます」

と、館に入った……ってこの館、文章だけだと私の中のイメージだから、そこまで考えてなかったんだよね。『立派な貴族の館』程度しか書いてなかったし。

本当に、中世ヨーロッパの観光名所になりそうな大きなお屋敷。

白い壁に屋根は青。外から見た時、ちょっと感動したよね。周りの森との調和がすごくいいっ。

現代だったら、管理維持費大変そう……。

でも私の小説は、貴族が税制面でも優遇されているってことにしてたわね。ご都合主義だけど。

いやー。わが館は安泰だね。お父様、お金たくさん残してくれてありがとう。

しばらくは自由を謳歌できるかな。




 と、執事のルガーソが私に話しかけてるんだった。

白髪をオールバックにして……今年で六十歳と言っていたかな。

たしかに執事という役目だけあって、所作にも丁寧さが感じられる。

これが『執事』という人ってことだよね。

「どうしたの、ルガーソ」

「お話は居間で……込み入ったこともございますので」

と、ルガーソは私を居間に連れて行った。



☆☆☆☆☆



 「え……このままじゃ、この家が危ない?」

私の淡い考えをすぐに打ち砕いてくれたルガーソ。

険しい表情で、今はテーブルをはさんで私を見つめてる。

「はい。昨年サリュマン様とキュリナ様が亡くなられ、跡継ぎはあなた様のみ。それだけではなく、この二年間、領地内の村々では天候不順による農作物の不作。流行り病もございまして、領地内の税の収益がかなり落ち込んでおります。

借金こそございませんが、一年も持たずに、借金を頼まねばならないかもしれません」



 え?そんな話になってたの?

 この三日間、リューリの設定とかストーリーのエピソードとか立ち位置とかを、よーく思い出していたんだけど、ストーリーの大筋に関係のない本人以外の設定は、父親の名前とか、領地の名前とかしか考えてなかったんだよね。エルマとかは名前だけは考えたけど、ルガーソなんて、はっきり言ってこの世界の中のオリキャラ――というのもおかしいけど、私が考えたキャラクターじゃない。

まぁこれは『リューリ』の視点なわけだから、リューリの周りにだって、大勢の人が一緒に生きているわけだし。おかしい事ではないか……。

 


 でもひとつだけ。私の設定だと、母親はたしかに流行り病で亡くなったということにしたけど、父親のサリュマンは生きていたはずだった、と。

「私」という異物が物語に入り込んだから、設定が変わったのか?とも考えたけど、私――リューリなわけだから、設定がそんなに変わるだけないと思うんだよね。

自分で考えた話が知らない誰かのせいで、勝手に変わるのは気持ちのいいもんじゃない。

例え、とっても人気の無さ過ぎた話だったとしてもだっ!



 「お嬢様。話を聞いておられますか?」

「あ、ああ。ごめんなさい。続けて」

「はい。それで、お嬢様には……ご結婚をしていただきたい」

「……そう……はぁぁ?」




 どうしてそうなるっ!?

「お嬢様は十七歳。嫁がれるにちょうどよいご年齢。お嬢様でしたら、どこに出しても恥ずかしくもない素敵なお嫁様になりましょう。幸い、いくつかの縁談の話がきておりますので」

「……嫁ぐ?婿を取るじゃなくて?」

ついそんな話をする。だって、領地を守るのに嫁ぐわけにいかないでしょ?

私はこの話では男女隔てなく、遺産を継げるとしていたはず。そんな……設定まで変わってるわけ?

「お嬢様が嫁がれても、まったく問題はございません。

家名は無くなりますが、領地はお嬢様のものとしてそれを条件に嫁がれれば、変わらずこの領地はお嬢様が治めることができます」

「……ルガーソ。なんであなたが決めつけるの?」

「え……いや。お、お嬢様がご苦労することなく安寧にお過ごしになれる環境がよろしいかと……」

すごく慌ててるな、ルガーソ。

「で、あなたが勧めるその相手は誰なの?」

「はい。フロテリューダ伯でございます」




 はっ?たしかそいつ……マリアーナ王女の最初の敵役として考えたやつの名前じゃない!?

どうしてリューリに関わってくるのよ!?

こいつ、隣国のコレタート王国とつながって、この王国に騒ぎを起こさせたり、国の情報を流したりと、中ボスぐらいのつもりで設定したんだよね。

それに五十オーバーの設定だったはずだぞ、年齢はっ。

「……フロテリューダ伯は奥様がいらっしゃるわよね?」

「はい……まぁ、第ニ夫人と申しましょうか……」




 ちょっと。こいつなに言っているわけ?

どうしてお前が勝手に私の物語を進めてるんだ……。

「ふざけるな、ルガーソっ。自分の主人に愛人になれとっ」

こいつの神経はおかしいのかっ!?私はソファから立ち上がっていた。

「さ、されどお嬢様っ!!この領地を守るには、フロテリューダ伯を後ろ盾に持つことができれば、この国での立場は安心でございます。一生お金に困る必要もなくなります」

自信たっぷりに言い切るルガーソ。サリュマンお父様はよくこんなやつを雇って、執事なんかやらせていたなっ。

「ねぇ……。フロテリューダ伯っていい噂を聞かないわよね。どういうこと?」

原作者をなめるなよ。この世界では、私は創造神なんだからな。

「ど、どうしてそんなことを……。お嬢様は世間にはまったく興味は……。

ですが、それはあくまで噂でございます。フロテリューダ様の発言力は王のお認めになるところですので……」

そうだろうなぁ。だから力ある敵として、設定したわけだし。世間知らずだったリューリが利用される情報もこいつがティルに流したわけだしね。というか、私がそう書いたわけだし……。

なんか罪悪感あるな。

「……あなたは私が何も知らないことをいいことに、そんな話を勧めるわけね。

わかったわ。以後、あなたから勧めてくる結婚の話は受け付けません」

「お嬢様っ……」

私はルガーソを見下ろす形で、睨みつける。



 なんか……このままこいつをそばにおいて置くの……危ない気がする。



 「決めた。この領地の経営は私が見直します。

まずそこからよ、ルガーソ。これから使用人をすべて広間に集めて」

「お、お嬢様っ」

私は扉に向かって歩き出すと、ルガーソは私の前に立ちふさがった。

「このお屋敷のことは私にお任せくださいませっ。お嬢様にご迷惑をおかけいたしません」

このクソじじい。本気で言ってるのか?

「ねぇ、ルガーソ。今、この領地の財政は危ないのよね?」

「は、はい。それは……」

「それはあなたに(・・・)任せていたから(・・・・・・・)だとも言えるんじゃなくて?」

「りゅ、リューリ様……」

ルガーソの表情が強張ってる。そんなに私が怖いかしら。

「これからこの屋敷の資金、領地の税金など、()が確認して、変えるべきところは

()が変えていきます。あなたは見ていてくれればいいわ」



 ちょっと、大見えきりすぎたか……。

こんな領地経営なんてやったことないのに。

でもここは『林田香織』の知識もフル活用してやるしかないっ!不安だらけだけど……。

「し、知りませんぞ。このお屋敷のことも領地のことも旦那様の時から、ずっと一任されてきたのですから。このお話も、お嬢様のことを考えて、(らく)したいというお嬢様のご希望に沿った事でいただいてきたご縁談なのですから。

私がいなくなったら、この領地はすぐにやっていけなくなりますぞ。世間知らずなあなた様にどれほどのことができるというのですかっ」

聞いていればこのじじい。歳は六十とか言ってたか。見た目は優し気な爺さんに見えるのに。

「……聞いていれば、仕えるべき主人にその暴言。お父様はどうだったかわからないけど、私は私。

やり方が違うのは当然でしょ?いいから黙って見てなさい」

「すぐに私に泣きついてきますよ。……そう、すぐにっ」





 ルガーソってこんなしょうもない爺さんだったんだ。

でも少し気になる言い方だよね……って、そんなこと気にしてる場合じゃないわ。

「エルマっ、いる?」

扉の前でばたばたという音がする。こいつ……扉の前で立ち聞きしてたのか?

「は、はい。リューリ様」

「広間に使用人を全員集めて。皆に話すことがあります」

「はい、ただいま」

「それから、ルガーソ。あなたは部屋で謹慎してなさい。

いろんな意味で聞きたいことが出てきそうに思うから」

「……お、お嬢様……」

「私は本気よ。熱が一週間続いたせいで、性格が変わってしまったみたいなの」





 ああ、言っちゃった……なんにも考えていないのに。

やるしかないと思ってたけど、自分で自分の首をしめることをするとは……。

  




 これが私の小説なら、一番最初の盛り上がり……なのかなぁ。

自分でやるとなると、こんなに不安だったとは。

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