第10話 二度目だからやること?
「……あ、あの。マリアーナ様のお気持ちはよくわかりました。
それで、この世界はどなたかの書かれた小説の世界……ということなのですね。
すでに決まった結末があると……」
え……私、なに言ってるの?
これって……。私、マリアーナ……『城田桜』さんの好意を無駄にしようとしてる?
その前に、すでに決められた運命ということに……抗おうとかしているの?
「……ち、違う……いや、そうじゃないな……。たしかに君の言う通りだ。
自分がいる世界が、誰かの書いた小説の世界だと言われ、嫌悪するのは当然の反応だ。
だがこれだけは信じてほしい。このままでは、君はニ十歳で死んでしまうんだ。
君はアルバートと結ばれることに憧れていたのに、それが叶わないために……だ。
そんなこと、私が耐えられない……」
マリアーナ……私を説得しようと必死になってる。
これ……感謝するべきだよね。
私なんかの書いた小説を読んでくれて、この世界に転生までしてくれて……。
感謝するべきはそこじゃないけど。
ブクマゼロだったけど……ありがとう城田さん。これで、『林ひびき』はきれいに成仏できました。
城田さんには大変申し訳ないけど。本当にうれしかった……。もう……これだけで充分ですっ。
でも、そっか。二十二歳か。私より若かったのか……。
就職内定してたって言ってたな。顔は寂しそうだった。彼氏いたのかな?
もっと、もっと……生きたかったよね。
なら。第二の人生が、こんな私にかまっているべきじゃないと思うんだよね……。
うん……決めたっ!!
「マリアーナ様。アルバートはマリアーナ様を選んだのでしょう……!?
でしたら私は、この世界がどなたが書いた小説でも、アルバートはマリアーナ様を選ばれると思います。私はアルバートから、妹のようだと言われていますし……」
「いやいや。すでにアルバートは、あなたに求婚しているだろうっ?」
半ギレ状態で、マリアーナが私に言い放つ。
……あ、そうだよね。この間、婚約を申し込まれてた……。
マリアーナの転生者が『城田桜』さんだったという事実で、全部持っていかれてたわ……。
「そうなんですけど……」
「そうか。小説には、アルバートがあなたに婚約を申し込むなんてことはなかった。
第一、リューリが領主のなるなどということはなかったな」
なんだか……マリアーナの方が、この小説を書いた人みたいになっている……。
「マリアーナ様の言われている小説は、誰が主人公なのですか?
私も本は好きなのでよく読みますが、登場人物の立ち位置で、見方はずいぶんと変わりますから。
誰が主人公かで、小説の内容は全然違うことになるのか、と」
そう。リューリ目線の私の周りでも、すでに小説に関係ないキャラクターなど、うようよしているからな。
「マリアーナ……私が主人公だったな」
「それでは、私……リューリが主人公でしたら、ずいぶんと物語は変わってきますね。
だからアルバートが誰を選んだとしても、私は素直に受け入れられると思うのです」
「では先日アルバートがあなたに求婚したことは、素直に受け入れられるのだな?」
間髪のマリアーナのツっこみっ!せっかくいい事を言おうと思ったのに、その返しはないだろうっ。
それにどこか、アルバートの押し付け合いになっているような感じだぞ、これ。
「私は立場上、領地のこともあって、アルバートの求婚を受け入れる余裕は全然ありません……」
「だろうな。執事のユトに、商人のマーカス……あの二人、どう見てもあなたに気があるよな。
だからあれほど冷静なアルバートも、気が気ではなかったのだろう。
それに、今のあなたは小説で読んだかまってちゃんの『リューリ』とは、まったく別人のようだ。
あなたに転生した方は、よほどしっかりとした性格のようだ……少し安心したよ」
マリアーナがまるで私の保護者のように、安心した笑みを向けてくれた。
ってか、私がしっかりとした性格だったとはとても思えないが……。
でも『城田桜』さんのおかげで……少しふっきれた。
ここは私の書いた小説の世界。でも……ここに出てくるキャラクターたちの世界でもある。
『城田桜』が『マリアーナ』として、第二の人生を悔いなく、楽しく生きていけるように。
『林田香織』が『リューリ』として、ここでしっかり人生を全うできるように。
だったら、今の私が出来ることはひとつ――。
「マリアーナ様。本当にありがとうございます。
でもアルバートが私と結ばれるのか、マリアーナ様と結ばれるのか。
私は本当に二十歳で死んでしまうのか……。
その小説通りの結末になってしまうのか。
せっかくここに『転生』したのなら、少し抗ってみませんか?」
――とんでもないことを言ったな……私。でも……これはもう「私だけじゃないから」。
「リューリ……君は……」
「ねっ、マリアーナ様」
笑顔、笑顔。できれば光り輝くようなまぶしい笑顔っと。
あざといかもしれないけど、ここはやらせてほしいな……。
「……うん、ありがとう。リューリの言う通りだ」
よかったぁっ、伝わったぁっ!!
「ならば、私も。もう我慢はいらないな」
「そうですよ、マリアーナ様」
「それ、その「様」つけはやめてくれ。君とはぜひに友達になりたい」
「よろこんで。では、マリアーナ」
うん、ここはこうだよね。
「今は「友達」だが、いつか必ず、君に告白するからね」
「はい……って……えぇぇっ!??」
「冗談だ。まったく、君は見ていて本当に飽きないな」
やめろぉ、マリアーナぁ……。一瞬、冗談に聞こえなかっただろう。
自由な生き方はあるけど、色々と心の準備ってものが、さ。
ま、でも愛の形は色々だよね。
「まぁ。でもマリアーナとはいいお友達になりたいな」
「ああ、私もだ。と、手始めに、まずお父様のところに行こう。
前置きが長くなったが、これは真剣に聞いてほしんだ、リューリ」
「はい……」
なんだろ。顔つきが『マリアーナ』という感じになった。
この国の第一王女で、聖騎士団の副団長。大変な責任を背負って頑張ってきたんだね。
そこに『リューリ』のことまで、背負いこむことはさせられないよ……。
「ルガーソだが……君が気にしていた通り。彼の死は自殺ではない。
おそらく何者かによるもの。この城にマーカスを呼んだのは、彼の仕組んだことかと私が疑ったことだったんだが、それはとんだ濡れ衣だった。
第三者の仕業……と、考えてよいだろう」
「……それって。私たちの身近に、たぶんフロテリューダの手の者がいる……と」
うそ、でしょ?一体……誰、が。
「リューリ。君はマーカスが言っていた通り、勘が鋭い。ユトやナンティがいたとしても、君自身が自分を守るために、今の君は無防備すぎる。しかし君には魔術の才があまりなかったと思った。
小説だと、「物体を百パーセントの確立で対象に命中させる」という特殊な能力……あまり重量のある物は無理だったんだが……」
「……そうなんですか?たしかに私にも、そんな能力はあるみたいなんですが……」
「そこは小説通りか……簡単に君の能力を把握しておきたいんだが……。
どうだろう。まず、このカップぐらいからやってみようか。
このカップを、あの扉のノブを目掛けてぶつけられるかい?」
「え……と」
ユトが教えてくれた時は……せいぜい一番重いので、手袋ぐらいだったんだよねぇ。
距離は、十メートルぐらいが限界で……。
でもこれは……小説にないことだもん。そして今は、私の命が狙われているかもしれない。
マリアーナを殺すために、この能力を使うためじゃない。自分を、皆を守る力と考えたい。なら。
「では、少し手伝ってみようか」
マリアーナがカップを持ち上げて……ちょっと待って?そのカップ、とっても高いんじゃないのっ!?
きゃ――っ!マリアーナがカップを放り投げたぁ――っ!!
ぽんっとマリアーナが私の肩をたたいた。
「ほら、あの扉のノブに向かってっ!!いっけぇっ!!」
うわぁーいっ。あの「扉のノブに向かってっ」っ!!
カップが光って……ドカン、バキャと、思わず目を閉じたくなるような……扉の真ん中に、三十センチぐらいの穴が……あれ?音が二回しなかった?
「……すっげぇなぁ……」
「驚きました……リューリ様がこれほど」
扉の外から声がする。で……なにが起こったの!?って、まさか……。
「想像以上だな……リューリ。これを上手く使えば、君は身を守れるぐらいにはなれると思うぞ」
「……ねぇ、マリアーナ。もしかして、外で誰かが立ち聞きしてるから、あそこに狙ってぶつけるように誘導したのかしら?」
「ああ。途中から気がついたのだがな。大事な人との話を立ち聞きするとは、とても許せん行為だからな。しっかし、これほどの威力とは思わなかった。軽くぶつけて脅かしてみようと思っていたが。
扉をぶち抜いて、おそらく向かいの廊下の壁にめり込んだようだな。
だが、あいつらには良い薬になろうっ」
……マジか?え、ここお城の中だよね??嬉しそうに話すのやめてくれる、マリアーナ……。
修理費……払うとなったら。どれだけかかるのようっ!
「大丈夫。君のせいじゃないのは、外の彼らが証言してくれる。
それよりお父様のところへ参ろうか。かなり待たせしてしまった」
悪夢のようだ……。私は、マリアーナの何かを解放してしまったのかしら??
それでもマリアーナは私の右手をつかんで歩き出す。
もう、あんまりこの先のことを……考えたくないかも。




