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サンタクロースの恋人

作者: 神先紗有

ユダヤのベツレヘムで、救い主がお生まれになった。


星に導かれて、この幼な子を訪ねあてた東方の三博士は、三種の宝物を捧げた。


それは、黄金と乳香と没薬であった。



懐かしい匂いがする。


その甘い香りに鼻腔をくすぐられ、少女はゆっくりと目を覚ました。


部屋のなかは薄暗い。

冬至をすぎたばかりの朝は、街全体がまだ眠りから醒めていないかのように静かだ。


あたたかな羽根布団のなかは心地よく、いつまでもくるまれて眠りつづけていたい誘惑にかられてしまう。

グースの子供は、母親の羽根の下でさぞかし気持ちがいいことだろう。


しかし、少女はかろうじて甘い誘惑に打ち勝つ。

今日は眠っていてはいけない日。

どうしてだかはわからないが、そんな気がする。


部屋を満たす甘い香りに励まされて、少女は体をおこした。

森に抱かれているような芳香が鮮明になる。


ベッドわきの窓から外をながめると、真っ白い世界が目にとびこんできた。

見わたす限りの景色が雪に埋もれている。


窓に息を吹きかけると、ガラスはうっすらと白くなった。

近づけた顔に冷気がつたわり、少女はぶるるっ、と小さく身震いする。


外はひどく寒そうだが、部屋のなかはぬくぬくとあたたかい。

暖炉からはパチパチと小枝が爆ぜる音が聞こえてくる。


それでも、お気に入りのピンクのネグリジェだけでは心もとなく、ベッドからおりると赤いナイトガウンを上から羽織り、羊毛のルームシューズを履いた。


薪のようすを見ようと暖炉に近づくと、上の煉瓦の壁にかざられた沢山の写真が目に留まる。

大小さまざまなフレームのなかで、少女の家族が微笑んでいる。

両親に祖父母、姉と弟、そして愛犬。

にぎやかで、そしてとても幸せな家族。


そう、わたしはとても幸せだ。


暖炉の薪がじゅうぶんに燃えていることを確認すると、今度は部屋の隅に置かれたクリスマス・ツリーに目をうつす。

ツリーの下にはプレゼントが山積みになっていた。


だって、今日はクリスマスの朝。

何週間もまえから少しずつ増えていったプレゼントを、ようやく開けることのできる日だ。


でも、と少女は思う。


一番大切なプレゼントは――。


少女は振りかえり、さっきまで寝ていたベッドに視線をむける。

ヘッドボードに、手編みの大きな靴下が吊り下げられていた。


鮮やかな緑色のそれにそっと手を入れると、底のほうに小さな箱がはいっている。

ドキドキしながらその箱を取り出した。


ずっと、プレゼントは大きければ大きいほどいいものだと信じてきた。

大きくてふかふかなぬいぐるみ、さまざまなフレーバーの山のようなキャンディ、六十色もそろった色鉛筆。


でも、本当に嬉しいプレゼントは、手のひらにおさまるほどの小さな箱に入っている。


宝箱を開けるように、慎重にリボンをほどく。

そして蓋をあけようとした、その時。


世界が、揺らめいた。


吹雪のように雪片が舞い踊り、一瞬にして辺りが真っ白になる。

少女の視界に映るものが、あっという間に白一色に染め上げられていく。


不思議と、自然に目にあふれてくるものがあった。

この光景をどこかで見たことがある、とぼんやり考えている間に、すべてが白に溶けていった。



「やけにデカいな、それ。そんなにデカいの初めて見たわ」


クリスマスが土曜日とかさなった、寒い朝だった。

家族でコーヒーを飲んでいた居間に、二階から兄がおりてきて驚きの声をあげた。


昼から彼女とデートをするとかで、朝食後に着替えてきた兄は、普段よりはずいぶんマシな恰好をしている。

真理は、両手で持っていたスノードームを思いきり、でも乱暴にならないように気をつけながら振ると、チェストの上にあるもう一つのスノードームの横にそっと置いた。


「しかも二個もあるのか。どうしたんだ、それ。特注品かなんかか?」

「プレゼントだよ、お兄ちゃん。愛しの彼氏からのプ・レ・ゼ・ン・ト」


真理が口をひらくまえに、生意気な妹がからかうような口調で答える。


「ああ。それが、『クリスマスの朝にあけてね』って言われたっていう、例のプレゼントか」


妹のおふざけに悪のりして、高く声音を変えてみせる兄に向かい、真理はふん、と冷たい視線をなげた。


「なにそれ。ニックの真似のつもり? ぜんっぜん似てないんですけど」

「そりゃ悪かったな。どうせあんなイケメンには似ても似つかないですよ」


おどけた調子で兄が言って兄妹三人で笑いあうと、まだまだやんちゃ盛りのトイプードルがやってきて、仲間にはいりたがるように「キャン!」とひと鳴きした。


それに。


真理は自分だけに確認する。

ニックは、クリスマスの朝にあけるように、とは言わなかった。


『クリスマスの朝まではあけてはいけないよ』と言ったのだ。

そうしないと、『クリスマスの魔法が解けてしまうからね』、と。


ニックはいつも、真理の心が融けてしまいそうなくらい優しい。

わがままを言ったり駄々をこねたりしても、その優しい笑顔がくずれることはない。


困ったような表情すらも浮かべることなく、真理のわがままを面白がってさえいるような人だ。

この人は一体どんなことがあれば怒るのだろうかと、真理が本気で考えこんでしまうほどだった。


その彼が、めずらしく真剣な目をして言ったのだ。

クリスマスの朝まではあけてはいけない、と。


魔法が解けてしまうと言われた時には、「ニックってば魔法使いだったの?」、と笑いながら茶化してみたのだが、彼は優しく微笑むだけだった。



ざざーっと強い風が吹いた。


風にはこばれてきた大量の粉雪が舞い散って、少女の視界を真っ白に染め上げる。


一瞬、世界が揺らめいたような気がした。

いや、ただの軽いめまいだったのかも知れない。


風がやんだ時、彼女は教会のまえに立っていた。

ぼんやりとした頭で、この地方では真冬でも雪が降るのはめずらしいことなのに、と思いながら、少女はスカーフを深くかぶり直し、両端を首元にしっかりと巻きつけた。


日曜日には欠かさず、この教会に通っている。

家族みんなが敬虔なキリスト教徒で、少女にとっても物心つく頃には当たり前の習慣となっていた。


今日は平日だが、特別なミサのある日だ。

教会の建物も、いつもより荘厳な気配を漂わせているように感じられる。


彼女はいつだって、司祭の語る聖書の話を聞くのが好きだったし、今日はきっと、救い主の誕生にまつわるお話をしてもらえる、という期待感ももっていた。


しかし、彼女の幼いふたりの弟たちにとっては、教会よりももらったプレゼントで遊ぶほうがよほど重要なことだったので、彼らをなだめすかして一緒に外出するにはずいぶんと骨がおれた。


弟たちの気持ちは、よく理解できる。

けして裕福ではない少女の家では、クリスマスは一年に一度の特別な日だ。

はしゃぎたくなってしまうのも無理はない。


クリスマスはいい。

いつも忙しく働いている両親も、穏やかでほっとした表情をみせる。


両親の仕事の手伝いや、弟たちの世話をする祖母を手助けしている少女にとっても、一年の苦労が一番報われたような気持ちになる日だった。


苦労はあっても、自分が不幸だと思ったことはない。

信頼と愛情にあふれた家族がいて、これ以上望むべきものが存在するだろうか。


それに。


少女は、ポケットのなかの小さな箱にそっと手をふれた。

それだけで、心のそこから湧きあがってくるような嬉しさを感じる。


世界で一番すばらしい宝物が、わたしのこの手の中にある。


働き者の両親、あたたかい祖母、やんちゃで可愛い弟たち、家族同様のアクバシュ犬、そして、未来の約束。


わたしは、とても幸せだ。


教会のドアをひらくと、甘い香りが漂ってきた。

どこかで嗅いだことのある、甘くてなつかしい匂い。


少女は目を閉じて、その香りを胸いっぱいに吸いこむ。

頬をひと粒の雫がすべり落ちていったことに、彼女が気づくことはなかった。



「本当に綺麗ねぇ」


祖母がしみじみと言った。


「手前のは、なかにドールハウスを入れたのかしら。精巧にできているけど、そういうスノードームは珍しいわね」


母も、


「ひらひらしたのが、とてもゆっくり落ちていくのね。まるで、本物の粉雪が舞っているようで素敵だわ」


と、チェストの上をながめている。


「そう言えば、このお香もその彼氏からのプレゼントなんだろう」


祖父はコーヒーカップを手にしたまま、ソファでゆったりとくつろいでいた。


「そうだよ。これも、クリスマスにしか焚いちゃいけない、特別なお香なんだって」


またもや、妹が得意そうに答える。


「そんだけクリスマス萌えしてんのに、デートはイブじゃなくて今日なのか?」


 たいした興味もなさそうに、兄が聞いてきた。


「兄貴だって同じじゃない。なんで今日なの?」

「いやあ、あいつの家って、クリスマスイブは家族そろって晩飯を食うのが恒例行事なんだってさ。クリスチャンでもないのに欧米か、って話だよな。もともと俺はそういうのにこだわりはないし、正直どうでもいいんだけどさ」


のんきに説明する兄に対して、まあそうだろうな、と真理は思った。


兄はイベント事にとことん疎い。

彼女の誕生日をすっかり忘れて破局寸前までいったこともあったのに、喉元過ぎればあっというまに熱さを忘れてしまう性格だ。


真理は、小さなことにこだわらない兄のそんなところもわりと好きだったけれど、兄の彼女にしてみたら、不満を感じることもあるだろうな、と少々同情もしている。


「ニックは仕事だよ。年末に向かってどんどん忙しくなっていって、イブの夜がピークなんだって」

「へぇ。ニックってケーキ屋だったっけ?」

「違うよ。IT社長だよ」


訂正をいれてくる妹に向かって、


「知ってるよ。冗談だって」


と兄は笑ってかえした。


「しかし、いくら仕事がうまくいってるからって、そんなに早く結婚したくなるもんかね。ニックって、俺より一つかふたつ年上なだけだろ。それなのに、おまえが高校を卒業するのをまって来年の春にすぐ結婚とか、ずいぶんと気が早いよな」


兄の言葉に、みんなが一斉に沈黙した。


空気を読めない兄を除いた家族の視線が、遠慮がちにそっと父のほうへと集まる。

トイプードルまでもが、黙ったまま小首をかしげて尻尾をふっていた。


当の父はというと、ひとり新聞に目を落としている。

眉間にしわを寄せたまま固まっていて、文章を追っている気配はない。


「え、あれぇ。この話ってタブーだった? もう決着はついてたはずだよね」


兄は、どこまでものんきだ。


「ま、まあ、昔は若いうちに結婚するのが、当たり前のことだったしねぇ。十五で姐やは嫁にゆき、って赤とんぼでも唄われているでしょう」


祖母が、場の空気をとりなそうと頑張ってくれたのに、


「おばあちゃん、それいつの時代の話?」

「あれって、“お里の便りも絶えはてる”んじゃなかったっけ?」


気のきかない妹と兄のせいで台無しだ。


「だ、大丈夫よ、あのニックだもの。きっと真理は幸せになると思うわ」


若干あせりつつもほがらかにそう言って、母はちらりと隣の父を盗み見る。

父はふう、と一つため息をつくと、新聞から顔をあげた。


「そんなに気を遣わなくてもいい。ちゃんと納得はしているよ、真理にはもったいないくらいの好青年だって」


父の言葉を聞いて、真理と母は目配せをして、お互いにしかわからないように笑みをかわした。


「そういやニックって、なんか本名がすごいんだろ」


兄にはまったく反省の色がない。


「なんとか三世、だったよね」


妹が瞳を輝かせる。


「ニコラス、ね。ニコラス三世。ニックっていうのは、もともとニコラスの愛称だから」

「すげぇな、なんか王室みたいで。エリザベス二世、とかさ。一般人でもそういう名前つけるのな」

「けっこうあるらしいよ。なんとかJr.とか、なんとか二世とか三世とか」

「あ、ルパン三世も一般人だったな」

「は?」


それは、一般人云々以前に、架空のキャラクターの名前でしょうが。


「ニックさんは、アメリカの人だったかしらね」


祖母に聞かれた。


「そう。ニックの国籍はアメリカだけど、ルーツをたどると、地球を半周くらいするらしいよ」

「インターナショナルだなあ。そうすると、おまえたちが結婚して子供が生まれたら、その子は太平洋を越えて、めでたく地球一周達成! くらいな感じなのか」

「や、やだなぁ、兄貴。子供って、気が早いって」


言いながら、真理が横目で父の顔を確認すると、こめかみが微妙に引きつっている。


「じゃあ結婚したら、真理ちゃんもアメリカ人になっちゃうのかい?」


ふたたび祖母から質問が出た。


「う、ううん、違うよ、そうじゃないの。結婚しても真理の国籍は日本のまま。住む場所だって、そもそもニックは今、日本で暮らしているんだし、当分はかわらないと思うよ」

「そうだよな。IT社長って具体的になにやってんだか知らないけど、ネットが繋がってればどこでも仕事はできそうだよな。……イメージだけど」

「地球半周とかニコラス三世とか、ニックのご先祖はどんな人たちだったんだろうね」


興味津々といった様子で、祖父まで話に参戦してくる。


「んー、ニックの話によると、お祖父ちゃん、ニコラス一世ね、は、人助けをする人だったんだって」

「人助け?」


と、兄。


「そう。キリスト教の司祭? かなんか偉い人で、困っている人をたくさん助けたらしいの。で、お父さんのニコラス二世は、運送業を興したんだって。世界的な規模まで事業をひろげたらしいよ。あと、おもちゃ屋さんも」

「世界的規模の運送業と、おもちゃ屋? そんでニックがITか。まったくなんの脈絡もねぇな」

「そう? でもニックはネット通販も手掛けてるし、運送業プラスおもちゃ屋さん、プラスアルファ、な感じしない?」

「そうかあ?」

「なんにしても、若いのに大したものよねぇ」


感心したように母が言うと、兄が何かに気がついたようにポン、と手をうった。


「そうだよな。持つべきものは頼りになる義理の兄だ。俺、就職が決まらなかったらニックにひろってもらおう」

「ちょ、なに“いいこと思いついた”、みたいに言ってんの。ニックの会社に迷惑かけないでよ」

「真理ィ、少しはお兄様を信用しなさい。けっこうやる男だよ、俺は」

「うわ、胡散くさーい」


和やかな空気が流れるなか、ふいにトイプードルがスっ、と頭をあげた。

真理が見ている前でとととっ、と窓辺に駆けよると、尻尾を盛大にふりながらキャン! と嬉しそうな声をあげる。

同時に、ピンポーン、とドアチャイムの音が鳴り響いた。


「あ、来た!」


今にも飛び出していきそうな妹をなんとか押しとどめ、真理はニックを出迎えに玄関にむかった。



十分後、真理はニックとともに、最寄り駅へとむかう道を歩いていた。


「もう、本当にごめんね、騒々しい家族で」


疲れた表情で真理があやまる。


「全然。マリのご家族に会えてすごく嬉しかったよ。仲のいい大家族は大好きだからね」


ニックの口調は心底楽しそうだ。

それが本心であることを、真理も疑っているわけではない。


でもね、と彼女は思う。

あのままの流れにまかせていたら、きっと今頃は、ニックもソファに座ってコーヒーを飲んでいたに違いない。


ニックが真理の家族に会うのは、これが初めてではなかった。

結婚の申し込みに来たときも全員がそろっていたし、それ以前にも、家に来るたびに母や祖母に挨拶をしてくれていた。

兄や妹とは、一緒に遊びに出かけたこともある。


しかし、今日のニックに対する歓待ぶりはすさまじかった。

男性陣とは握手、女性陣とはハグをかわしたところまではよかったが、そのあとはプレゼントのスノードームやお香のこと、ニックの仕事や生い立ちについて、みんなが我先にと質問をはじめてしまった。


クリスマスだから浮かれていたのだろうか。

それにしたって、ちょっとはしゃぎ過ぎだ。


もちろん、ニックは嫌な顔ひとつせずに、丁寧に対応する姿勢をみせてくれていたが、このままでは抜け出せなくなる、と危機感を覚えた真理が、強引に彼をつれて家を出てきたのだった。


「もう。今日はせっかくのクリスマスデートだっていうのに、家族につぶされたんじゃかなわないわ」


ニックはくすくすと笑った。


「そうだね。昨夜は、というか、明け方までバタバタしていたんだよ。だからボクも、マリとふたりでのんびりできるほうが嬉しいかな」


すこし疲れてはいるようだが、それがかえって妙な色香をただよわせていて、真理は思わずドキドキしてしまう。


「それに、どうしても今日渡したいプレゼントがあるしね」


ニックがつぶやくように言った。


「え? クリスマスプレゼントなら、もうとっくにくれたじゃない?」

「クリスマスプレゼント?」

「うん。特大スノードームふたつと、めずらしいお香」


ああ、と、ニックは曖昧な返事をした。


「あれは、プレゼントじゃなくて、マリに託したミッションだよ」

「ミッション?」

「そう。クリスマスの魔法を成就させるための、ね」

「……うん?」


 真理には、なんのことだかさっぱり理解が追いつかない。


「いや、いいんだ。とにかく、本命のプレゼントはまだこれからってこと。楽しみにしてて」

「え~、なんだろ、超気になる。今もらえたりしないのかな~?」

「だめだめ。プレゼントは今日最後のお楽しみ」

「ケチぃ」


ふくれてみせる真理に、ニックは声をたてて笑った。


「そんな可愛い顔をしてみせてもダメだよ。楽しみはとっておきたい性分なんだ」


ニックの満面の笑みを見つめながら、真理はこの上ない喜びをかみしめる。


本当はプレゼントなんかどうでもいいのだ。

ただニックと一緒にいられるだけで、こんなにも幸せなのだから。


「そう言えば一つ聞きたいんだけど、マリが心から幸せを感じるのって、どんな時?」


あまりにタイムリーな質問で、真理は心を読まれているのかとあせった。


「今この瞬間。ニックと一緒にいられる時間がいちばん幸せ」


思ったままを正直に答えると、ニックはふっ、と優しく微笑む。


「そう言ってもらえるのは光栄だけどね。ボク以外で……、そうだな、ボクと出会うまえに限定すると、どう?」


ニックに言われ、真理はうーん、と考えこんだ。

自分をとりまく様々な状況を思いうかべ、これまでの想い出をふりかえり、やっぱり、と答えを見つける。


「家族と一緒に笑いあってる時かな。日常的なことだからつい忘れちゃうんだけど、やっぱりとても幸せな時間だと思う」

「さっきみたいに、みんなで居間に集まって、コーヒーを飲んでいるような時間?」

「うん、そうだね。特に、今日みたいなクリスマスの朝」


真理の幸せそうな笑顔に、ニックも満足気に笑いかえした。

ニックは、自分のジャケットのポケットにそっと手を入れた。

そこに小さな箱がちゃんとあることを確認して、それを渡した時の真理のリアクションを想像する。

きっと、いつもの屈託のない笑顔を見せてくれるだろう。


「マリ」

「うん?」

「この先ボクと結婚したら、いろいろ苦労をかけることもあるかも知れないけど、ボクの一番の願いは、マリの幸せだ」


改まった様子のニックに真理は一瞬目をみはったが、すぐに少し照れたような笑顔を浮かべる。


「うん、ありがとう」


ふたりは手をつないで、駅にむかって歩いていった。



遠い昔、ある男の子が誕生した夜。


東方の三博士の贈り物。

黄金、乳香、そして没薬。


黄金は永遠、乳香は神性、そして没薬は死。


聖者に愛されし存在は、死を超越して永遠を得る。


少女たちは、幸せな時間をひとり、生き続ける。


初投稿です。

大好きなクリスマスが近づいて来たので書いてみました。

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