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偽装勇者と潜入女神の異世界運び屋  作者: 与田 八百
第6章 (偽装)勇者と(潜入)女神
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第40話 魔王の正体

「君、そんなことだから負けるのだよ」


 みじめに落下し始めたクリスタリナに、マルパスは言った。


 直撃こそ避けられたものの、エリクサーで全回復したマルパスの火炎魔法を右の羽根に食らったクリスタリナは、墜落を避けられない状況にあった。


「くうっ……」


 吐きそうなほどの痛みをこらえ、クリスタリナは体勢を立て直そうとする。だが羽根は致命的なダメージを受けていて、もはや浮力は得られない。マルパスに何も言い返せぬまま、ふたりの上下関係が入れ替わり、憎たらしい上司の顔があっという間に上空へと消えていく。


「被疑者死亡で解決かな」


 月明かりを逆光にマルパスがそう言うと、とどめとばかりの爆風が吹き下りる。猛烈な下向きの圧を受けたクリスタリナは一気に地面に急接近する。空気が散らされ呼吸ができず、彼女はせめて受け身を取ろうとしたが、風に煽られままらならなかった。


 このままでは叩きつけられる。


 クリスタリナは覚悟を決めたが、彼女が地面に激突することはなかった。


「大丈夫ですか?」


 そんな何者かの声が、死のかわりに訪れた。落下の衝撃があっさりと吸収されてしまっていた。


「え?」


 予期せぬ出来事にクリスタリナが頭を上げると、彼女の体は大きな網に引っかかっていた。何十人もの男たちが彼女を囲むように網の縁を持っていて、クリスタリナの体をしっかりと受け止めていたのだった。


「あ、あなたたちはっ!?」


 クリスタリナは彼らに見覚えがあった。彼らは人魚の呪いで氷に閉ざされていた村の漁師たちであった。


「おいがだはクリスタリナ様だぢに助げられだ。これはそのお礼だー」


 と、現村長が言った。


「魔王だばに負げなぁでくんちぇ」


「ありがとう。助かりました」


 クリスタリナは答えた。


「だが、あれは魔王ではありません」


「そうなんだが?」


「えぇ。あれはマルパスという女神です」


「ほぅ。んだども勇者様はいずごに?」


「それは……」


 と、クリスタリナが答えようとすると、空気が震えた。上空から急降下してくるドラゴンが見えた。その緑の頭の上に、オレンジ色をしたバカでかいエネルギーの塊があって、どうやらマルパスが追撃を繰り出さんとしているようであった。


 このままではこの人たちが巻き込まれる。


 そう思ったクリスタリナは飛ぼうとした。が、ほとんど燃え尽きた右の羽根はまるで動かなかった。黒く焦げささくれだったそれはピクピク虚しく痙攣するだけだ。


 まずい、と感じた一瞬のうちに魔法がすぐそこまで迫っている。


 バリアだ、とクリスタリナは切り替えるも、ここにいる全員をカバーできない。その面積を確保できるほどの魔力が彼女にはもう残っていない。


 こうなったらせめて私が盾になって――


 そんなふうに彼女が前に出ようとしたときだった。


「勇者はここだ!!」


 背後から聞き覚えのある声がした。加えてもうひとり。


「そいでワイが本物の魔王や!!」


 クリスタリナが振り向くと、魔王にまたがり、エイイチがこちらへ飛んでくるところだった。


 それはとても勇者には見えぬ、醜い見た目だった。


 エイイチの鎧兜は傷だらけのぼろぼろで、魔王の紫の肌もひどくくすんで汚れていた。その姿はマルパス&ドラゴンの絵画的な美しさとは対照的で、漁師たちが喚いた。


「なわぁーっ! 魔王が来だぞー!」


 そこで、マルパスのエネルギー弾が着弾した。


 とてつもない爆発が引き起こされ、垂れた網が翻りながら燃え尽きていく。火柱とキノコ雲が立ち上がり、地響きのような轟音が場を支配する。


 そして、すべては燃え尽きてしまったかのように思われた。


 時間をかけて砂煙が引いていく。荒野に点在するのは薄汚れた瓦礫だけで、あらゆるものが破壊されていた。一見、生存者などいないように思われたが、風に吹かれ薄くなった砂の隙間から現れた半透明の光の壁、その中から一つ、また一つ、と喝采の声が湧き上がる。


 人々は生きていた。誰ひとりとして死んではいなかった。


 魔王が強大なバリアを作り出し、エネルギー弾を完璧に防ぎきっていた。

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