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9 絶対機嫌悪かったよね

「あ、コウ!」


 ムスッとしているコウに愛奈は声をかける。視線を上げたコウは目が合うと、スッと目を細めた。

 なんだか不満そうな顔だ。

 愛奈はノエルと並んでコウの隣の席に座る。

 開かれたノートには文字が並んでいる。意外と真面目に授業を受けているらしい。

 ペンをクルクルと器用に指で回しているコウは、不機嫌なオーラを出している。


「機嫌悪いの?」

「べっつにぃ?」

「あ、朝ありがとね、待っててくれて」

「は、はぁ? ま、待ってねーし。俺もちょっと遅かったんだよ、起きたのが!」

「ふぅん。ママからコウが待ってたよーって聞いたからさ。ありがとう」

「……ちげーし」


 愛奈の視線から逃れるように顔をそむけたが、コウは口端がゆるむのを感じていた。

 真面目なマナが寝坊するなんて、この半年間一度もなかった。それなのに、入学して二日目に寝坊するとしたら、同室の女が原因だろう。

 それが、気に食わなかった。

 昨日の夜に部屋で何かあったんだ、人見知りのマナにしてはやけに親しげだなのもそれが理由に違いない。

 

 マナには俺がついていないとダメなのに。

 今朝だって本当は待ってた。なのに一向にマナは起きてこないし、ママに言われたんだ。

 マナはノエルが連れていくからって。

 何で俺じゃないんだよ。

 そのことでコウは朝から学校でかなり荒れていたのだが、マナが自分見つけて一番に駆け寄ってきたのが嬉しくて、すっかり機嫌が良くなっていた。


「次の授業魔法史だよねー。ふふ、こっちきてからよく勉強してたし、楽しみ!」

「あー、そういやよく図書館行ってたな」

「最近コウ着いてきてくれないんだもん」

「いーじゃん別に。興味ねー」

「……マナさんは、図書館で勉強を?」


 二人のやり取りを静かに見ていたノエルが、気になったのか口を挟む。

 コウはジト目で睨みつけるが、ノエルは一瞥もくれない。その態度がますます気に触る。

 険悪な二人のやり取りに気づかない愛奈は、そうそう、と頷く。

 この半年間でだいぶ頭に詰め込んだけど、それでもまだまだ足りないだろう。なにせ、常識から何もかも違うのだから。気を張っていないとボロがどんどん出てしまう。

 ノエルは興味なさそうな顔をしているが、次の言葉は予想外のものだった、


「元の世界に帰る方法、探してるんですの?」

「え、あ、うん……そうだよ」


 まさかそのことに触れてくるとは思わず、愛奈は目を瞬かせる。

 この世界にきて、愛奈は孤独だった。

 一人ぼっちなわけじゃない。周りを見ればママやコウ、孤児院の子どもたちがいる。

 寝る場所があり食べるものに困らない生活は、恵まれているのだろう。


 ママがこちらの世界にきたときは、もっと大変だったと言っていた。

 言葉も通じなかったから、余計にひどかったのかもしれない。

 それに比べれば、愛奈は幸運だった、

 コウに助けてもらええなければ、どうなっていたことか。

 ママにも、孤児院にも出会えなかった、

 あのまま男の元で何をされていたか、想像するだけで恐ろしくなる。


 だが、それでも愛奈の心はいつだって孤独だった。

 生まれ育った街も、慣れた学校も、優しい両親も。

 なにひとつない。この世界には。

 自分はこの世界にとって異物なんじゃないか。そう考えては泣きそうになる。

 

 図書館に通い、帰る方法を探す。

 調べている時間は、愛奈にとって安らぎ時だった。


「そうですの。じゃあ、放課後は私もお手伝いしますわ」

「え……え!?」

「それから、私のことはノエルとお呼びください。……私も、マナ、と呼んでもいいかしら」

「え、え、え?」

「オトモダチ、に……なりたいんですの。……迷惑、かしら」


 ノエルの言葉がポンポン降ってきて、マナは混乱する。

 手伝ってくれるの? え、なんで? 心境の変化かなにか? でもわたしのやりたいことだし、人に手伝わせるのはなんか違う気がするんだよなぁ。

 名前も呼び捨てでいいの? なんかすごい距離詰めてる感あるんだけど、気のせい?

 しかし、オトモダチ、という単語にパッと目を輝かせた。

 指からペンを落として唖然としているコウに気づかず、ノエルの手を握り愛奈は笑顔で応える。


「迷惑だなんて。もちろんだよ、ノエル!」


 ◇


「コウ、やっぱり機嫌悪いでしょ」

「べっつにぃ? マナの気のせいじゃね」

「ええ……絶対嘘じゃん。どうしたの」

「なんでもねーって。あ、着いたぞ」


 朝から更にパワーを増して不機嫌オーラを放っているコウが指差す先にあったのは、食堂だった。

 学生が集まり、大いに賑わっている。細長い机が並び、さながらパーティー会場だ。

 カウンターには料理待ちの列ができあがっており、多くの学生が食事を楽しんでいた。

 愛奈とコウは、あまりの人の多さに少し圧されている。

 

 孤児院のあるリーラは小さな町なので人も少ない。ここまでの人口密度はまず、ない。

 なので、ここまで大勢が集まる場所にあまり行ったことがないのだ。

 愛奈は元の世界ではわりと街のほうに住んでいたが、人混みが好きではないのでそういうところにはあまり行かなかった。

 コウも、たまに街へ出る程度なので人混みに突っ込む勇気はない。

 

 ノエルは貴族としての付き合いもあり、こういった人の集まる場所にはある程度慣れている。

 だが、ノエルとしては人混みよりもメニューのほうが気になった。

 学食なんて人生初である。ワクワクが抑えきれず、少しぐらいにやけてしまうかもしれないが仕方ないだろう。

 しかし、人が多くてメニューが見えない。どこにメニュー表があるのすらわからない。

 三人は早くも心が折れそうだった。

 このままでは昼飯にありつけないかもしれない……軽く絶望していると、後ろから声がかかる。


「アホ面晒してないでこっちに来なさい。いいですか、ここにメニュー表があります。あのカウンターにいる人に頼みたいものを伝えます。札を取って呼ばれたらあっちのカウンターで受け取り。わかりましたか?」

「ロイド……すごい、後光がさして見える……!」

「お前……いいとこあんな」

「……誰ですの?」

「まったく、少しの間ですが僕が仕える人なんですから、もっとシャンとしてください。世話が焼ける」

「何頼もっかなー! あ、カレーある」

「俺オムライス」

「私は……」


 メニュー表の前で悩み始めた三人を邪魔にならない場所にさりげなく移動させ、ロイドはため息をつく。

 ああ、なんであんな情けない人間の小娘なんかに負けてしまったのだろう自分は。

 マナに折られた牙はすぐに生えてきたが、まだ痛むときがある。

 あんな細い腕のどこにあんな力があるのか。

 絶対殺して契約から解放されてやる……思いを胸に頷き、ロイドは自分の席に座って唐揚げを口の中に放り込んだ。


 悩み悩んだ末、ノエルはカレーを頼んだ。

 オムライスを頼むつもりだったコウも、なぜかカレーを頼んでいる。

 愛奈は、カレーにオムライス、シチューに唐揚げ、ハンバーガーに山盛りポテト。

 コウとノエルの呆れた視線を受けながら、上機嫌で席につく。


「いただきます!」


 結局コウとノエルも運ぶのを手伝い、大量のご飯がテーブルに並べられた。

 「三人でもあの量は無理だろ」という視線が「いやいや一人で食べるの!?」という視線に変わるのを感じつつ、愛奈は食べ進める。

 小さな口でハンバーガーにかぶりつき、口の周りをソースで汚しながら口を動かす。

 細い体のどこに入っていくのか、周りの視線を集めながら大量の料理が愛奈の口の中に消えていく。

 最後の一口を食べ終えたころ、コウとノエルがちょうど食べ終わった。


「いやいやマジかよ……」

「た、食べるスピードも早いんですのね……」

「おいしかったー。ごちそうさまでした!」


 愛奈は大満足だったが、午後からの授業は当然のように眠かった。

 カックンカックン船を漕いでいたら何度かノエルに起こされ、お礼を言いつつ隣を見るとコウはしっかり寝ていた。

 ちゃっかり死角になる席をとって居眠りしているのが実にコウらしいと思う。

 ノエルはと言うと、優等生を絵に描いたような姿勢で授業を受けていた。

 ノートをとり、積極的に手を上げ、当てられたら詰まることなく答えを述べる。

 すごいなぁ、と愛奈は半分寝かかった頭で授業を受けた。

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