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6 喧嘩売ってるよね

 ドラゴンは、名をロイドといった。

 とても中学生には見えない風貌に、周りの視線が刺さる。

 濡れた鴉のようなしっとりとした黒髪は肩まで伸び、夜闇を切り取ったような瞳は光の加減で星が光るように見える。

 身長はスラリと高く、モデルよりもスタイルがいいのではないかと思う。身長は170を超えているだろう。

 女とも見紛う中性的な顔に対し、体つきはしっかりしている。

 そんな美形が、平凡を形どったような女に恭しく礼をした姿は、注目を集めていた。


 主に女子が色めきだった声をあげているが、本人は気にする様子もなく、仮面のように貼り付けた笑顔のままだ。

 この半年間まったく姿を見せなかったのに、いきなり現れたと思ったら同級生とか、嫌がらせにもほどがある。

 愛奈は内から膨らむ怒りを抑えようと、無理やり笑顔を貼り付けた。しかし口端がピクピクと震えている。

 そんな愛奈を見て、ロイドは愉快そうに口端をつり上げる。ぞっとするほど美しい笑みだ。悪魔とか、死神が笑ったらこんな顔になるのではないかと思う。残酷で、加虐心丸出しの顔。

 二人の無言のやり取りに、コウは口を挟めずにいた。

 

「……で、あなたはわたしのそばにいて殺す機会をうかがうってわけ?」


 ようやく口を開いたのは、愛奈のほうだった。

 苛立ちを抑えようとしているが、隠しきれていない。

 ロイドはよくできました、というように大きくうなずく。そのバカにしたような仕草に、愛奈の目つきがさらに鋭くなる。

 コウはやり取りを見て、ロイドを睨みつけた。


「どういうことだよ。殺すって……マナがなんかしたのかよ」

「ええ、しましたとも。僕をこれ以上ないほど打ちのめしたんです。そのせいで僕は主に仕えなくてはいけない。そんなの御免だ。なので、殺すんです」

「はぁ……? 打ちのめす、って……あんたドラゴンなんだろ? マナは魔力もない人間なのに、どうやって倒されたんだよ」


 疑いの眼差しを受け、ロイドははっと鼻で笑う。バカにする仕草でさえ、様になるのだから美形とはおそろしい。

 しかし、いちいち燗にさわるドラゴンだ。

 明らかに下に見ている態度は、気持ちの良いものではない。

 そもそも、ドラゴンは人嫌いなのだ。力こそすべてという彼らにとって、踏みつけてしまえばあっという間に死んでしまう弱い人間は、見ているだけで不快になるらしい。

 

 自分が倒されたことを思い出したのか、ロイドが笑みを少しゆがめた。

 その顔を見て、愛奈の溜飲が少し下がる。いきなり難癖をつけてきて、かなり苛立っているのだ。

 しかし、ロイドはすぐに笑顔にもどり、愛奈をじっと見つめる。視線だけで人を殺せそうな鋭い目に、愛奈は一瞬怒りも忘れ、背筋が冷えるのを感じた。

 元はといえばロイドがわたしを襲ってきたのが原因なのに。わたしのパンチは正当防衛と言うやつだと思う。

 人間対ドラゴンならドラゴンの圧勝だろう。普通は。

 そう考えると、あの巨大な体をワンパンで倒した愛奈は、一体何者なのか。


 異世界にきて、体の疲れを感じなくなったこと。

 異世界にきて、やけに食べるようになったこと。

 異世界にきて、体が変化していること。

 すべてが不気味だった。


「ええ、それはもう屈辱的に。……僕の牙を、殴ったのですよ。当然牙は折れました。ドラゴンの牙はダイヤモンドより硬いと言われているのに、こんな小さな人間の拳ひとつで折れるなんて……僕の牙がもろいわけじゃありませんよ、主の拳が硬すぎるんです」

「は? マナが、殴った? ……ドラゴンを?」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔のお手本みたいな顔になったコウが、ゆっくりと視線を向けてくる。

 気まずいことこの上ない。

 自分の拳は正当防衛だと主張したいし、牙が折れたと苦情を言われてもじゃあ食べようとするな、と返すしかない、

 ロイドが襲ってこなければ愛奈は追い詰められなかったし、追い詰められた愛奈が牙をぶん殴ることもなかったのだ。

 そう、すべてはロイドが悪い。

 しかし、そうは言っても自分のワンパンでこうなってしまったことに関しては、愛奈にも責任はあるのかもしれない。


「わ、わざとじゃないよ。ロイドが襲ってきて、食べようとしてきたから……な、殴ったんじゃなくて当たっただけだし!」

「いい、え、あれは確かに殴られましたよ。拳に力込めたでしょう」

「うっ。で、でも、やっぱりロイドが悪い! 襲ってこなきゃよかっただけの話じゃん」

「ふっ、弱い人間が縄張りにいるなんて不愉快極まりないので、適当に追い回してからかっただけでしょう」

「あれはからかいに入らない!」


 ぎゃあぎゃあと言い争いを始めた2人に、コウは唖然とするしかない。

 ドラゴンを名乗る男は、マナの言葉からするに本物のドラゴンのようだ。

 おまけに、マナはドラゴンを殴って倒したとのこと。信じられなかった。魔法も使えない、自分が守ってやらないと死んでしまいそうな弱い人間が、ドラゴンを倒した? いや、普通に考えておかしいだろう。


 だが、普通に考えるには今の状況はあまりにも異常だった。

 普通、ドラゴンは人前に姿を現さない。大の人嫌いだからだ。

 そして、ドラゴンが人型になれるなんて話も聞いたことがない。

 そもそもドラゴンとは縄張り内でしか活動しない生き物であり、縄張りに入った人間はもれなく惨殺されるが、こちらから近づかなければ基本無害なのである。

 

 なので、幼いころはおとぎ話の中だけの存在だと思っていた。

 今だって、学校でドラゴンの生態について教わったから存在を知っているだけで、実際に見たわけではない。

 そのドラゴンが目の前にいて、マナと会話している。にわかには信じられない光景が目の前に広がっている。


 コウは冷静な人間だ。ものごとを客観視し、俯瞰して見ることができる。そうやって自分の置かれている環境を見て、淡々と生きてきたのだ。

 だからこそ、この異常な光景に戸惑いこそすれど、気が乱れることはなかった。

 ドラゴンといっても、見た目は普通の人間だ。

 人外離れした美しさはあるが、牙や角が生えているわけでもないし、言葉も通じる。


「な、なぁ。お前……ロイドは、本当にマナを殺すつもりなのか?」

「ええ、もちろんです」


 即答だった。

 ものすごくいい笑顔で、ロイドはもう一度念を押すように「もちろんです」と言い放つ。

 愛奈もコウも、何も言うことができない。

 普通に生きていたら、いきなり初対面の相手から「お前を殺す」なんて言われることはそうそうないだろう。

 おまけに相手はドラゴンときたものだから、異世界からきた愛奈は絶句だ。


「ドラゴンの掟は絶対なんです。主が死ぬまで仕えなくてはいけない、地獄のような掟だ」

「え、っと……それって、わたしから外すことはできないの?」

「できませんね。こちらから強制的に契約を結んでいるので、こちらから契約を切らなくてはいけないんです」

「じゃあ切ればいいだろ」

「アホですね貴方は。今の説明聞いてなかったんですか? なんのための耳なんだか……いいですか、この掟は絶対なんです。ドラゴンとして生まれた以上、逃れられない呪いなんですよ」


 それはもう嫌そうに顔をゆがめ、毒を混ぜながら説明してくれた内容に、愛奈もコウも黙る。

 チラチラとお互いの目を見ながら「どうすんの」「知らないよ、どうしたらいい?」「俺だって知るかよ」と無言で会話をする。

 この半年間ですっかり仲良くなっている。

 そんな二人を冷めた目で見下ろし、ロイドは目を細めた、


「とにかく。いいですか主、僕が貴方を必ず殺すので、他の誰にも殺されないでくださいよ」


 そう言い残し、長い足でさっさと行ってしまう。

 同じクラスじゃなかったのか……ホッと胸をなで下ろすが、下ろしている場合ではない。殺害予告されたのだ。

 同じ学園内にいる以上、完全に避けるのは無理だろう。おまけに、相手は愛奈につきまとうつもりのようだし。

 憧れの学校生活、初日から散々だ。


 おまけに、あの言い草はなんなのだろう。

 ロイドが言うには、ドラゴンの掟により勝手にむこうから契約したそうじゃないか。なのに従いたくないのでお前を殺す、とはあまりにも理不尽だ。

 なんて勝手な人だ。人じゃないけど。

 

「……あいつ、ツンデレってやつかな」

「絶対違う」

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