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ワッフルって美味しいよな。ワッフルってすごく美味しいよな。ワッフルってめちゃくちゃ美味しいよな! まぁ俺はパンケーキのほうが断然美味しいと思うけど。



「なんでなんで! いやだよ!」


「ワガママいうなって! もう俺が決めたことなんだからさ!」



 すぐに物陰へと隠れる。

 あんまりこういうのに巻き込まれたくない。



「すきじゃなくなったってこと……?」


「好きじゃなくなったってこと! それ以外に何があるんだよ!?」


「べ、べつのひとがすきになったとか」


「関係ないだろ! じゃ、LINEもブロックしとくから。二度と連絡してくんなよ」


「あ……」



 男の声が消えた。

 こっそり眺めると、ショートヘアの女子が廊下にしゃがみ込んでいた。

 色白で小柄な女子。見覚えはない。

 下級生だろうか?



「……うっ……うっ……」


 

 嗚咽をこぼして、頭を伏せている。

 肩を震わせて泣いている。

 大丈夫かな。


 ……。


 たぶんきっと顔がカッコいい男ならばここで『どしたん?話きこうか?』とすんなり声をかけれるのだろう。

 下心を隠して、傷心に漬け込むのだ。

 奴らの常套手段である。


 もちろん俺はそんなことはしない。

 何故なら"顔がカッコよくない"からだ。

 もし俺がここで調子に乗って行動したとしても、彼女は喜ぶどころか己を余計に憐れんでしまうだろう。

 俺なんかに同情される自分が情けなくて余計に泣いてしまうかも。

 傷心に漬け込むどころか、傷口に塩を塗る行為だ。


 だから無視するのが得策だ。そうすれば相手を傷つけなくて済む。


 そう、それでいい。

 そんな男に恋をするから傷つけられるんだ。


 そうやって俺みたいな人間を見下しながら綺麗なものだけ見て生きていなさい! ふん、だ!



「ううっ、ううっ……っ、っ……」



 ……。



「うううう……っ、うっ、ぐすっ…………」



 …………。



 とはいえど、それはそれで後味が悪いかな……。



 ここ以外で泣いて欲しいとかそういうことを言ってるのではない。

 単純に悲しんでほしくないのだ。

 人が辛そうなのを見ているとすごく心配になる。


 普段からバカをやってメンタル強そうなキャラを演じているけれど、実際の自分はすごく弱い。

 繊細でシャイ。

 小学生の頃はいじめられてたし。


 だから出来る限り笑って欲しい。

 俺の周りにいる人をどうにか幸せにしてあげたい。

 争いごとは苦手だ。誰かが悲しむから。

 

 完全なる部外者であることは周知の上だ。

 何もしないのが得策だというのは理解している。

 お節介だということも。


 俺は顔がカッコよくない。

 だからイケメンみたいに励ましたりはできない。


 だけど、

 だけれど、



 泣いている女子を無視して去れるような──そんなダサい真似はしたくはなかった。



 ※ ※ ※



「あれれ〜。どんぐりを探していたらここまで迷い込んできてしまったぞ? 帰り道がわからないな〜」



 階段を降りて、彼女の前に現れる。

 わざとらしくキョロキョロしながら腰に手を当てる。



「ヘンゼルとグレーテルばりにクルミを道に落としてくるべきだったな〜。あいつら賢いわー」



 身体を揺らしながら、彼女をチラッとみる。

 目があった。

 じーっと俺のほうをみつめている。



「ちょっとみてみてみて、小リスさんいるぜ? 春も近いんだろうなぁ」



 彼女に見えるように指をさす。

 感慨深く呟く。



「リスってさぁ、よくどんぐりをたくさん頬張っているよねぇ。腹持ちいいのかなぁ〜。時々思うんだけれど、どんぐりって美味しそうだよね。大概の場合は虫が入っているけれど。虫が入っているけれど〜」



 俺はリズムよく小刻みに身体を動かす。

 女子は三角座りの体勢をやめないまま、じーっと珍しい虫でも見つけたように俺を見ている。



「虫なんて無視するべきだけれど〜♪」



 ダンスをしながらジョークをこぼす。

 チラッと見るが、反応なし。



「おっ、カエルさんもいるぞ〜。ゲロゲロと鳴いてらぁ〜。何を鳴いてるのカエルさん〜。カエルさぁ〜ん♪」

  


 チラ見。無反応。

 もしかしたら声が聴こえていないのかもしれない。



「ゲコゲコゲロゲロと何を鳴いているの〜♪ 伝えたいことはなに? おうちに帰るの? カエルさーん♪」



 チラ見。無反応。

 スベることには慣れています。平気です。



「あーだめだ。ホント話通じねー。これだから両生類って困るわー!」


「ぷっ……」



 頭を抱える演技をすると彼女が吹き出した。

 やっと笑ってくれた。

 なんだ聴こえているじゃんか。



「昭和、昭和、マジ令和〜♪」



 俺はそそくさと自動販売機のほうへと向かう。

 小銭を入れてボタンを押す。

 出てきた商品を持って彼女のところへと戻る。


 パックのミルクを三角座りをしている女子の前に置く。

 彼女はキョトンとしている。

 俺は何も言わない。

 でも言いたいことはある。



「おっと、こうしちゃいけない! もう帰る時間だゲロ。あ、最後に一言だけ言わせて。……ゴホン」



 真面目な顔で彼女をみる。



「“だいもんじ”って“10%”の確率で“やけど”状態になるから“チーゴの実”を持たせていたほうがいいぜ?」



 そのミルクとっても美味しいから元気だしてね。



「じゃあね!」



 手を振って、さっさとその場を去ってゆく。

 らしくないことをした。

 なにをやってるのやら。

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